勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第37話 南へ

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 一日中探し続けたものの、残念ながら生存者を見つけることはできずに日が暮れてしまった。

 おそらくだが、ここに生存者はいないのだと思う。そもそも、よく考えればエイブラが魔物に襲われてからもう二週間以上が経過しているのだ。この状況で生存者がいたらそれは奇跡だろう。

 そんなわけで私は神殿跡の裏手にリーチェの種を植え、亡くなった人々の冥福を祈った。

 この町の人々がいつかきっと生まれ変わったならば、どうか幸せな人生を歩めますように。

 そんな祈りを捧げた私は今日の野営地である宮殿跡の中庭に戻ってきた。すでに火おこしも終わっており、夕食の準備に取り掛かってくれている。

「聖女様。あと少しで夕飯が出来上がります。もうしばらくお待ちください」
「ありがとうございます」

 ランベルトさんにお礼を言うと椅子に腰かけた。すると今度はシズクさんが私のところにやってきて隣の席に腰を下ろした。

「フィーネ殿。港を見てきたでござるが、使えそうな船があったでござるよ」
「船ですか?」
「そうでござる。どうせフィーネ殿はシャリクラとダルハも確認したいというのでござろう?」
「う……なんでわかったんですか?」
「もう長い付き合いでござるからな」

 そう言われるとなんだかこそばゆい。でも、いや、だからこそこの四人でいるときが一番居心地がいいのだろう。

「でも、どうやって動かすんですか?」
「それはもちろん、クリス殿がいるでござろう?」
「あ!」
「はい。フィーネ様。船の操作はお任せください。大きな船でなければ私一人で動かすことができます」
「ありがとうございます」
「お待ちください! 海には魔物が! それに聖女様は一度海に転落されているではありませんか!」
「あ、そういえばそうですね。でも、沿岸はあまり出ないんじゃなかったでしたっけ?」
「それはそうですが、魔物がこれほどの大都市を滅ぼしたのです。海にだってどんな魔物が潜んでいるか! 魔物暴走スタンピードだと考えて行動していただきたい」

 心配してくれているだろうか。ランベルトさんにしては珍しく私を止めるようと食い下がる。

「うーん? でも、逆に魔物の姿を全く見かけていないじゃないですか。戦った魔物なんて、あのクレーターだらけだったあの場所にいた虎の魔物くらいですよ?」
「それは……そうなのですが……」
「ランベルト殿。今回のエイブラに対する竜と魔物の集団の襲撃は、通常の魔物暴走スタンピードとは異なるように思う。たしかに魔物暴走スタンピードの後であれば魔物は残り続ける。だが、今回はフィーネ様の仰るように魔物が一匹たりとも見当たらないというのはおかしい」
「それはそうですが……」
「姿が見えないものを気にしても仕方がないでござるよ。それに、船といっても外洋には出ないでござる。それならば、いざというときはフィーネ殿がイザールでルマ人たちを船に渡したのと同じ方法で海を渡れば問題ないはずでござるよ」
「な?」

 ランベルトさんはシズクさんの言っていることが理解できていないのか、唖然とした様子だ。

「ああ、それもそうですね。じゃあ、明日は南に向かって出発しましょう」
「決まりでござるな」
「お任せください。フィーネ様」
「……かしこまりました」

 シズクさんとクリスさんは快諾してくれ、ランベルトさんも渋々納得してくれたのだった。

「あっ! ルミア様。まだ終わってない――」
「これ、おいしーですっ!」

 そんな真面目な話をしている私たちを尻目に、ルーちゃんは夕食を準備してくれている騎士さんのところでつまみ食いをしていたのだった。

◆◇◆

 エイブラの港で奇跡的に無傷だった小型の帆船を拝借した私たちは、クリスさんの操縦で一路南へと向かった。

 私もクリスさんの指示でマストの上部にある見張り台に登って帆を張るお手伝いをした。

 クリスさんは最初、私にやらせるなんてとんでもないと言って反対していた。だが私は【妖精化】と【蝙蝠化】のおかげで空を飛ぶことができるため、事故のリスクがこのメンバーの中で一番低いのだ。そのことを説得し、ようやくお手伝いが許された。

 まあ、見張り台の上は見晴らしが良くて気持ちがいいので私がここで日向ぼっこをしたいということもあったのだが……。

 そんなこんなで私たちは最南端の町、ダルハの近くまでやってきた。

 途中のシャリクラはというと、エイブラと同様に破壊されていた。生存者も見当たらず、エイブラと同様に種を植えるだけに終わってしまった。

 そうして見えてきたダルハなのだが、どうも様子がおかしい。なんと、黒煙が立ちのぼっているのだ!

「クリスさん! ダルハの町が燃えています!」
「なんと! かしこまりました! フィーネ様。攻撃に備えて結界のご準備をお願いします」
「わかりました」

 そうは答えたものの、あまり速く進んでくれないこの船がもどかしい。

 私はじっとダルハの町から立ちのぼる黒煙を見据えるのだった。
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