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滅びの神託
第十章第38話 壊滅したダルハ
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私たちはダルハの港へと入港した。以前シーサーペントと戦ったこの港も今では船を停泊させるための岸壁が残っているのみで、他は全て瓦礫の山と化していた。
黒煙が上がっているのは市場のあたりだろうか?
きっと、色々な物資があるせいで中々火が消えずに長期間燃え続けているのだろう。
「ダルハも手遅れでしたか……」
「そのようでござるな」
「フィーネ様、あの煙が上がっている場所に行ってみますか?」
「はい」
船を岸壁に固定して上陸した私たちは、完全に破壊されたダルハの町を歩いていく。
建物はやはり完全に破壊されているが、エイブラにあったような熱で溶けた建物は見当たらない。
「エイブラとはちょっと様子が違いますね」
「はい。私もそう思います。もしかすると、ここへの襲撃は例の竜ではなく魔物たちによるものかもしれません」
「竜は何もしなかったということですか?」
「はい。もしくは、配下の魔物に命じてやらせたのかもしれません」
「その竜は魔物を従えているということですか?」
「あくまで可能性の一つですが、竜が従えていないのであればエイブラに魔物が残っていなかった理由がわかりません。これをエイブラを襲った魔物を引き連れ、シャリクラとダルハを攻め落としたのだと考えると筋は通ります」
「……なるほど。そうかもしれません」
ただその説が正しいとなるとその竜には知能があり、軍勢を引き連れて人間の町を滅ぼして回っているということになる。
「もしそんな存在がいるのだとすると、狂った魔王並みの脅威でござるな」
「そうですね。それこそ、勇者の出番のような気がします」
「そうでござるな。勇者はどこで何をしているんでござろうな」
「そればかりは神のお決めになることだ。我々人間には神の御心は計り知れんよ」
クリスさんはそう言っているが、あのハゲ神様は大したこと考えてなさそうな気がするのは私だけだろうか?
「そうでござるな」
まるで私の心境を代弁するかのように、シズクさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
そんな話をしているうちに、私たちはかつて市場だった場所にやってきた。スパイスやドライフルーツを買い込み、串焼きを食べ歩きした想い出の場所だ。しかしその面影はもはや入口の門くらいしか残っていない。
その門の向こう側からはもうもうと黒煙が立ちのぼっている。一体何が燃えているのだろうか?
そう思って近づいていくと、視界の先に動く人影を見つけた。
「あっ!」
私が声をかけようとすると、その人影は慌てて逃げ出した。
「え?」
「あれは! 待つでござる! 拙者たちは敵ではござらん!」
シズクさんが猛スピードで逃げた人影を追いかけたので、私たちも急いで後を追う。
そして数十メートル走って追いつくと、シズクさんの前には尻もちをついた一人の男性の姿があった。
あ、れ? あの人、どこかで見たような? ええと、【人物鑑定】っと。
あ!
「アービエルさん。ご無事で何よりです」
「あ! せ、せ、せ、聖女様!」
アービエルさんは尻もちをついた体勢からいきなり立ち上がり、そしてすぐさまブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うん。動きが素早かったのは良かったけれど、全体的にバランスが崩れていたので6点といったところか。
じゃなくて!
「神の御心のままに」
私はすぐさまアービエルさんを立ち上がらせた。
「アービエルさん。他のルマ人の皆さんは? それに町の人はどうなりましたか?」
「はい。恐らくですが、生き残ったのは我々ルマ人のみだと思います」
「一体何があったのですか?」
「西の空より、巨大な赤い竜が大量の魔物どもを引き連れてやってきたのです」
「西から?」
「はい。竜の吐いた巨大な火の玉は一撃で町の西側を吹き飛ばし、そこから魔物どもが雪崩れ込んできました。その魔物どもは見たこともない魔物でして、火を吹く虎や全身が炎で包まれた羊のような魔物でした」
「それは……」
きっと、虎の魔物というのはシズクさんが倒してくれたあの魔物だろう。
では、羊の魔物ほうはどうだろうか?
私はクリスさんたちをちらりと見るが、やはり誰一人としてそのような魔物には心当たりはないようだ。
「そんな恐ろしい魔物に襲われたのに、どうやって生き残ったんですか?」
「はい。我々ルマ人は普段よりダルハの者たちに虐げられおりましたので、万が一ダルハの者たちや魔物が襲ってきた際に避難するための地下シェルターを用意しておりました。何をされるかわかりませんし、魔物なら我々の区画は見殺しにされると分かっておりましたから。ですが、今回はそれが吉と出ました。ほとんどのルマ人たちはシェルターに避難し、難を逃れることができました。ただ、ワシもすぐに避難してしまいましたのでその後どうなったかまでは……」
「いえ、十分です。それに生きていてくれて良かったです。私と一緒に移住してくれた皆さんは、無事にホワイトムーン王国にたどり着きました。そこからブラックレインボー帝国に続々と渡り、サラさんの下で平等に暮らしていると聞きます。あの、良かったらアービエルさんたちもいかがですか?」
「おお! 聖女様!」
そう言って感極まった様子のアービエルさんは再びブーンからのジャンピング土下座を決めたのだった。
ええと、やっぱり6点かな。
黒煙が上がっているのは市場のあたりだろうか?
きっと、色々な物資があるせいで中々火が消えずに長期間燃え続けているのだろう。
「ダルハも手遅れでしたか……」
「そのようでござるな」
「フィーネ様、あの煙が上がっている場所に行ってみますか?」
「はい」
船を岸壁に固定して上陸した私たちは、完全に破壊されたダルハの町を歩いていく。
建物はやはり完全に破壊されているが、エイブラにあったような熱で溶けた建物は見当たらない。
「エイブラとはちょっと様子が違いますね」
「はい。私もそう思います。もしかすると、ここへの襲撃は例の竜ではなく魔物たちによるものかもしれません」
「竜は何もしなかったということですか?」
「はい。もしくは、配下の魔物に命じてやらせたのかもしれません」
「その竜は魔物を従えているということですか?」
「あくまで可能性の一つですが、竜が従えていないのであればエイブラに魔物が残っていなかった理由がわかりません。これをエイブラを襲った魔物を引き連れ、シャリクラとダルハを攻め落としたのだと考えると筋は通ります」
「……なるほど。そうかもしれません」
ただその説が正しいとなるとその竜には知能があり、軍勢を引き連れて人間の町を滅ぼして回っているということになる。
「もしそんな存在がいるのだとすると、狂った魔王並みの脅威でござるな」
「そうですね。それこそ、勇者の出番のような気がします」
「そうでござるな。勇者はどこで何をしているんでござろうな」
「そればかりは神のお決めになることだ。我々人間には神の御心は計り知れんよ」
クリスさんはそう言っているが、あのハゲ神様は大したこと考えてなさそうな気がするのは私だけだろうか?
「そうでござるな」
まるで私の心境を代弁するかのように、シズクさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
そんな話をしているうちに、私たちはかつて市場だった場所にやってきた。スパイスやドライフルーツを買い込み、串焼きを食べ歩きした想い出の場所だ。しかしその面影はもはや入口の門くらいしか残っていない。
その門の向こう側からはもうもうと黒煙が立ちのぼっている。一体何が燃えているのだろうか?
そう思って近づいていくと、視界の先に動く人影を見つけた。
「あっ!」
私が声をかけようとすると、その人影は慌てて逃げ出した。
「え?」
「あれは! 待つでござる! 拙者たちは敵ではござらん!」
シズクさんが猛スピードで逃げた人影を追いかけたので、私たちも急いで後を追う。
そして数十メートル走って追いつくと、シズクさんの前には尻もちをついた一人の男性の姿があった。
あ、れ? あの人、どこかで見たような? ええと、【人物鑑定】っと。
あ!
「アービエルさん。ご無事で何よりです」
「あ! せ、せ、せ、聖女様!」
アービエルさんは尻もちをついた体勢からいきなり立ち上がり、そしてすぐさまブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うん。動きが素早かったのは良かったけれど、全体的にバランスが崩れていたので6点といったところか。
じゃなくて!
「神の御心のままに」
私はすぐさまアービエルさんを立ち上がらせた。
「アービエルさん。他のルマ人の皆さんは? それに町の人はどうなりましたか?」
「はい。恐らくですが、生き残ったのは我々ルマ人のみだと思います」
「一体何があったのですか?」
「西の空より、巨大な赤い竜が大量の魔物どもを引き連れてやってきたのです」
「西から?」
「はい。竜の吐いた巨大な火の玉は一撃で町の西側を吹き飛ばし、そこから魔物どもが雪崩れ込んできました。その魔物どもは見たこともない魔物でして、火を吹く虎や全身が炎で包まれた羊のような魔物でした」
「それは……」
きっと、虎の魔物というのはシズクさんが倒してくれたあの魔物だろう。
では、羊の魔物ほうはどうだろうか?
私はクリスさんたちをちらりと見るが、やはり誰一人としてそのような魔物には心当たりはないようだ。
「そんな恐ろしい魔物に襲われたのに、どうやって生き残ったんですか?」
「はい。我々ルマ人は普段よりダルハの者たちに虐げられおりましたので、万が一ダルハの者たちや魔物が襲ってきた際に避難するための地下シェルターを用意しておりました。何をされるかわかりませんし、魔物なら我々の区画は見殺しにされると分かっておりましたから。ですが、今回はそれが吉と出ました。ほとんどのルマ人たちはシェルターに避難し、難を逃れることができました。ただ、ワシもすぐに避難してしまいましたのでその後どうなったかまでは……」
「いえ、十分です。それに生きていてくれて良かったです。私と一緒に移住してくれた皆さんは、無事にホワイトムーン王国にたどり着きました。そこからブラックレインボー帝国に続々と渡り、サラさんの下で平等に暮らしていると聞きます。あの、良かったらアービエルさんたちもいかがですか?」
「おお! 聖女様!」
そう言って感極まった様子のアービエルさんは再びブーンからのジャンピング土下座を決めたのだった。
ええと、やっぱり6点かな。
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