勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
458 / 625
滅びの神託

第十章第39話 謎の大穴

しおりを挟む
 あれから私たちは生き残った三十人ほどのルマ人男性の皆さんと合流した。彼らに洗浄魔法をかけてきれいにしてあげ、収納の中から食べ物を分けてあげて栄養を付けてもらった。

 これから長旅になるのだから、ちょっとでも栄養をつけて元気になってもらおうというわけだ。

 ちなみにあのもうもうと上がっていた黒煙は、人や家畜の遺体を燃やして出たのだそうだ。

 なるほど。たしかに葬送魔法を使える人がいないのに遺体を放置すると、ゾンビが発生しかねないものね。

 それともちろんこの町にもリーチェの種を植えたわけだが、今回は港の一角にしてみた。特に理由があるわけではなく、そこに花が咲いていたらきれいそうだなという単なる思いつきだ。

 その花が咲くころにこの町がきちんと復興しているかは分からないけれど、できれば港の一角に咲く花を見てみたいものだ。

◆◇◆

 翌朝、私たちは西にある炎の神殿を目指してダルハだった場所を出発した。というのも、アービエルさんの情報によると魔物の大群は西からやってきたと聞いているからだ。

 そこで西に何かあるかと聞かれて真っ先に思いついたのは炎の神殿だったため、とりあえずの目的地を炎の神殿にしてみたというわけだ。

 ちなみにダルハの町の西側はアービエルさんの言うとおり、竜の炎で滅茶苦茶にされたであろう痕跡が残っていた。

 建物は溶けて変形しており、地面も一部砂がガラス状になっていたのだ。ということは、イザール東にある戦場跡はその竜のせいということで間違いないのだろう。

 そうして歩くこと三日、私たちは炎の神殿に到着した。前回は五日かけてゆっくり歩いてきたのだが、今回はかなり急いで三日で踏破したのだ。

 スピードアップできた理由は、砂の上を歩く代わりに結界の上を歩いてもらったからだ。足が取られない平坦な場所を歩くだけでこれほどのスピードアップにつながるのだから、舗装された道路がいかに大切かがよく分かる。

 あ、ちなみにランベルトさんにはアービエルさんたちを守ってもらうという名目でダルハに残ってもらった。

 だって、今の私たちの実力を考えるとランベルトさんたちは申し訳ないけれど足手まといだもの。

 と、そんな風に大急ぎでやってきたわけなのだが……。

 なんと炎の神殿は半壊していた。あまりのことに私も少し唖然としてしまった。

「ええと、どういうことでしょうか?」

 私の問いに答えられないほどクリスさんとシズクさんもあまりの状況に唖然としているようだが、それも無理はないだろう。

 だって、以前この神殿を訪れたときには聖なる結界で守られていたのだ。

 ということは、あの竜には聖なる結界を破るだけの力があったということなのだろうか?

「姉さまっ! 今回はこの門、くぐれますよっ!」

 ルーちゃんがどことなく楽しそうに前回通れなかった門らしき場所を出入りしている。

 うーん? ということはやっぱり結界が破られたということなのだろう。

 私もルーちゃんと同じように門をくぐってみるが、やはり何も感じない。どうやら結界は完全に消滅しているようだ。

「拙者も通れるでござるな」
「私もだ。やはり何者かが結界を破壊し、この神殿をも破壊したと考えるのが妥当か」
「そう思うでござるよ」

 そんな気はするけれど、なんのために破壊したのだろうか?

「姉さまっ! こっちです! すっごい大きな穴があります!」
「え?」

 気が付くとルーちゃんが向こうで手を振っている。

「ルーちゃん。あんまり離れないでください」
「えー、でも。なんか同じところにずっといるじゃないですかっ。だからあたしが調べようかなって」
「ああ、そうですね。ありがとうございます。でも、心配なのであまり離れないでくださいね。あの虎の魔物が襲ってきたら、遠くだと守り切れないかもしれません」
「んー、わかりました」

 ルーちゃんは渋々といった感じではあるが納得してくれたようだ。

「それにしても、なんでしょうね? この穴は」
「すごく大きくて、すごく深そうです」
「これは、地面が溶けたのでござるか?」
「そのようだな。砂もガラス状になっている」

 ということは、これはやはり竜の仕業だろうか?

「ちょっと降りてみましょう」
「え? フィーネ様?」

 私はひょいと飛び降りるとすぐさま【妖精化】して地下へと降りていく。そのまま百メートルほど地下に降りたところで着地した。

 周囲を見回してみると、そこは何やらホールのようになっていた。出入口らしきものも見える。

 ということは、これは中から外へ出るために天井を破壊したのではないだろうか?

 うん? 中から破壊? 地下のホールで、竜?

 ものすごく、嫌な予感がする。

 ここは火の神様を祀った神殿なんかじゃなくてもしかして!

 私は急いで【蝙蝠化】を使って地上へと舞い戻る。

「ああ、フィーネ様! よくぞご無事で」

 地上へと戻ってきた私を見たクリスさんがものすごく心配した様子でそう声をかけてきた。

「すみません。ご心配をおかけしました」
「フィーネ殿。地下には何があったでござるか?」
「はい。皆さんの意見を聞きたいのですが、地下には巨大なホールのような空間がありました。そしておそらくこの炎の神殿の中から続いているであろう出入口のようなものもありました」

 クリスさんはいまいちピンと来ていない様子だ。シズクさんは眉間に皺をよせ、難しい表情をしている。

「……あの、姉さま。もしかしてそれって白銀の里やあのスイキョウのやつと同じっていうことですか?」
「拙者も同感でござるな」
「そんな! まさか! ではこの炎の神殿は火の神を祀った神殿などではなく、炎龍王を封じていた神殿だと仰るのですか!?」

 私はこくりと頷いた。

「では! エイブラからダルハにかけてを滅ぼして回った竜はあの伝説の炎龍王だと?」
「そう、なりますね」

 そう答えた瞬間、私たちの上を大きな影が通過した。

「え?」

 思わず上を見上げると、信じられないほど巨大な赤い竜が南西方向に飛び去っていく姿がある。

「あれは……まさか!?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...