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滅びの神託
第十章第41話 結界と航海
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「おお、聖女様。よくぞご無事でお戻りくださいました。エイブラの様子はいかがでしたかな?」
「はい。実は――」
私は見てきたことをありのままに説明した。
「なんと。ではあの炎の神殿には伝説の炎龍王が封印されていた可能性が高く、しかもその封印が解けてしまったということですか」
「はい」
「それは……一大事ですな」
ナヒドさんは少し沈んだ様子でそう答えた。
「そうなんです。それで早くブラックレインボー帝国に行きたいんです。もしかすると炎龍王が向かっているかもしれないですから」
「……ですが、今から行ってももう遅いのではありませんか?」
「そう、かもしれないですけど……!」
「そうですな。聖女様はそういうお方でしたな。ですが海路が使えない今、どのようにしてブラックレインボー帝国へと渡るおつもりですか?」
痛いところをつかれた。その方法がなくて困っているのだ。
「う……ふ、船で?」
「船を出したところで、外洋に出れば魔物に沈められてしまいますぞ?」
苦し紛れで出した案はあっというまに正論で撃沈される。
「それこそ、決して壊れない船でもあれば別でしょうが……」
「決して壊れない船?」
「聖女様。そのような船は存在しないという意味です」
「う……」
そうだよね。壊れない船なんてあるわけがない。それこそ、結界で船を作ることができれば壊れないと言えるかもしれないけれど……。
ん? 結界で船?
あれ? 漂流していたとき、船の残骸を結界で覆い続けてなかったっけ?
「あっ! できます! ナヒドさん! 船を貸してくれませんか? セムノスまでで大丈夫ですから! もちろん賃料はちゃんと払います!」
「な!? せ、聖女様? 一体何を?」
「ですから、船の周りを全て結界で覆ってしまえばいいんです。私の結界は寝ていても解けませんし、魔物に攻撃されたところでビクともしません。だから、外洋に出て魔物に襲われたって問題ないはずです」
「???」
ナヒドさんは私の言っていることに対して理解が追いついていない様子だ。
「お願いします! ナヒドさん!」
「わ、分かりました。ですが、本当に大丈夫なんですね?」
「はい!」
「では、とびきりの船を手配いたしましょう」
こうして私たちはナヒドさんに船を手配してもらい、セムノスへと向かうこととなったのだった。
◆◇◆
翌日、私たちはナヒドさんが用意してくれた船へと足早に乗り込んだ。
「聖女様。どうぞよろしくお願いいたします。我々は海の男です。海に出られないのは死んだも同然。魔物のいる海だろうと、航海する機会を与えていただいたことに感謝いたします」
そう言って船長さんをはじめとする船員さんが全員で床にビタンとなった。
「ええと、神はあなた方を赦します」
船員さんたちを起こした私は、早速結界を張る。
結界の条件は単純で、固体のみを通さないというものだ。そしてそれをこの船をすっぽりと覆うような形で、船底にくっつけるようにして張った。
こうすることで漂流していたときと同じように、船が移動すれば結界も一緒に移動するはずだ。
「ナヒドさん。ありがとうございます」
「こちらこそ。聖女様。どうぞご無事で」
こうして私たちを乗せた船はイザールの港を離れ、セムノスへと向かって大海原を進み始めたのだった。
◆◇◆
ブラックレインボー帝国の北東部、海の玄関口であるベレナンデウアからさらに北東に延びる半島の先端に、ベルードの姿があった。
やや怒りのこもったその視線は北東方向の空を真っすぐに見据えている。
そうしてしばらくじっと見つめ続ていると、その視線の先には巨大な赤い竜が現れた。
「来たか。炎龍王よ。決着をつけてやる」
そう呟いたベルードは剣を抜き放ち、遠くにいる炎龍王へ向かって斬撃を飛ばした。
すさまじい速さで飛んでいったそれは炎龍王に命中し、足に小さな傷をつける。
「GRYUAAAAAA!!!」
攻撃されたことを認識した炎龍王は大きく息を吸い込むと、ホールの天井を突き破ったあのブレスをベルードに向けて吐き出した。
それをひらりと躱して宙に飛び上がったベルードを再びあのブレスが襲う。
「はあっ!」
気合と共にベルードは巨大な水の槍を放った。その槍はブレスとぶつかり、そしてそのまま突き破って炎龍王の体に命中する。
「GRYUAAAAAA!!!」
炎龍王は雄たけびを上げるとベルードに向かって一直線に飛んでいく。
「理性を無くしたトカゲ風情が!」
ベルードは侮蔑するような表情を浮かべるとそのまま炎龍王へと向かっていく。
一方、ベレナンデウアからはその戦いの様子がかすかに見えていた。なんと一週間にもわたって行われた激しい戦いの末、巨大な赤い竜が北の空へと飛び去ったことが目撃されている。
その戦いの影響で半島の先端部分は岩礁地帯へと姿を変えたのだが、その真相をブラックレインボー帝国が知るのはまだ先の話である。
「はい。実は――」
私は見てきたことをありのままに説明した。
「なんと。ではあの炎の神殿には伝説の炎龍王が封印されていた可能性が高く、しかもその封印が解けてしまったということですか」
「はい」
「それは……一大事ですな」
ナヒドさんは少し沈んだ様子でそう答えた。
「そうなんです。それで早くブラックレインボー帝国に行きたいんです。もしかすると炎龍王が向かっているかもしれないですから」
「……ですが、今から行ってももう遅いのではありませんか?」
「そう、かもしれないですけど……!」
「そうですな。聖女様はそういうお方でしたな。ですが海路が使えない今、どのようにしてブラックレインボー帝国へと渡るおつもりですか?」
痛いところをつかれた。その方法がなくて困っているのだ。
「う……ふ、船で?」
「船を出したところで、外洋に出れば魔物に沈められてしまいますぞ?」
苦し紛れで出した案はあっというまに正論で撃沈される。
「それこそ、決して壊れない船でもあれば別でしょうが……」
「決して壊れない船?」
「聖女様。そのような船は存在しないという意味です」
「う……」
そうだよね。壊れない船なんてあるわけがない。それこそ、結界で船を作ることができれば壊れないと言えるかもしれないけれど……。
ん? 結界で船?
あれ? 漂流していたとき、船の残骸を結界で覆い続けてなかったっけ?
「あっ! できます! ナヒドさん! 船を貸してくれませんか? セムノスまでで大丈夫ですから! もちろん賃料はちゃんと払います!」
「な!? せ、聖女様? 一体何を?」
「ですから、船の周りを全て結界で覆ってしまえばいいんです。私の結界は寝ていても解けませんし、魔物に攻撃されたところでビクともしません。だから、外洋に出て魔物に襲われたって問題ないはずです」
「???」
ナヒドさんは私の言っていることに対して理解が追いついていない様子だ。
「お願いします! ナヒドさん!」
「わ、分かりました。ですが、本当に大丈夫なんですね?」
「はい!」
「では、とびきりの船を手配いたしましょう」
こうして私たちはナヒドさんに船を手配してもらい、セムノスへと向かうこととなったのだった。
◆◇◆
翌日、私たちはナヒドさんが用意してくれた船へと足早に乗り込んだ。
「聖女様。どうぞよろしくお願いいたします。我々は海の男です。海に出られないのは死んだも同然。魔物のいる海だろうと、航海する機会を与えていただいたことに感謝いたします」
そう言って船長さんをはじめとする船員さんが全員で床にビタンとなった。
「ええと、神はあなた方を赦します」
船員さんたちを起こした私は、早速結界を張る。
結界の条件は単純で、固体のみを通さないというものだ。そしてそれをこの船をすっぽりと覆うような形で、船底にくっつけるようにして張った。
こうすることで漂流していたときと同じように、船が移動すれば結界も一緒に移動するはずだ。
「ナヒドさん。ありがとうございます」
「こちらこそ。聖女様。どうぞご無事で」
こうして私たちを乗せた船はイザールの港を離れ、セムノスへと向かって大海原を進み始めたのだった。
◆◇◆
ブラックレインボー帝国の北東部、海の玄関口であるベレナンデウアからさらに北東に延びる半島の先端に、ベルードの姿があった。
やや怒りのこもったその視線は北東方向の空を真っすぐに見据えている。
そうしてしばらくじっと見つめ続ていると、その視線の先には巨大な赤い竜が現れた。
「来たか。炎龍王よ。決着をつけてやる」
そう呟いたベルードは剣を抜き放ち、遠くにいる炎龍王へ向かって斬撃を飛ばした。
すさまじい速さで飛んでいったそれは炎龍王に命中し、足に小さな傷をつける。
「GRYUAAAAAA!!!」
攻撃されたことを認識した炎龍王は大きく息を吸い込むと、ホールの天井を突き破ったあのブレスをベルードに向けて吐き出した。
それをひらりと躱して宙に飛び上がったベルードを再びあのブレスが襲う。
「はあっ!」
気合と共にベルードは巨大な水の槍を放った。その槍はブレスとぶつかり、そしてそのまま突き破って炎龍王の体に命中する。
「GRYUAAAAAA!!!」
炎龍王は雄たけびを上げるとベルードに向かって一直線に飛んでいく。
「理性を無くしたトカゲ風情が!」
ベルードは侮蔑するような表情を浮かべるとそのまま炎龍王へと向かっていく。
一方、ベレナンデウアからはその戦いの様子がかすかに見えていた。なんと一週間にもわたって行われた激しい戦いの末、巨大な赤い竜が北の空へと飛び去ったことが目撃されている。
その戦いの影響で半島の先端部分は岩礁地帯へと姿を変えたのだが、その真相をブラックレインボー帝国が知るのはまだ先の話である。
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