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滅びの神託
第十章第51話 勇者とルミア(後編)
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「ひっ!?」
「ブルルルルル」
そんな唸り声を上げたイノシシの魔物は前脚で何度か地面をかくと、小さく悲鳴を上げたルミアに向かって突進してきた。
「ひっ!? マシロ!」
マシロが先ほど猿の魔物を吹き飛ばした突風をぶつけた。だがイノシシの魔物はそれをものともせず、一直線にルミアを目掛けて突っ込んでくる。
「あっ!?」
あまりの巨体に一瞬体が固まってしまい、完全に間合いに入られてしまったルミアは避ける動作を取ることすらできずに目をつぶる。
だが、いつまでたっても予想した衝撃はやってこなかった。
「あ、あれ?」
恐る恐る目を開くと目の前に見えない壁のようなものが出てきており、その壁に引っかかってイノシシの魔物が止まっていたのだ。
イノシシの魔物は血走った目でルミアを睨んできている。
「え? 姉……さま?」
「わたくしの防壁ですわ。あなた、一人で行くなんて何を考えているんですの? あなたが怪我をすればフィーネが悲しみますわよ?」
「う……シャルロットさん」
ルミアは気まずそうな表情を浮かべている。
「そもそもあなたは後衛ですわ。前衛もなしに戦おうだなんて、自殺行為じゃなくて?」
「う……でも姉さまが行けって……」
「……あなたもわたくしも、まだ実力が足りないということですわ。それよりも、この魔物たちを始末して騎士たちに合流しますわよ」
シャルロットは悔しさを噛みしめているかのような表情を浮かべ、そう言った。
「……はい」
ルミアは逡巡の後、シャルロットの提案に頷いた。
「ルミア殿は後衛として、敵の牽制してください。前衛はこの私とシャルロット様が務めます。シャルロット様はそのイノシシを抑えてください! そやつの攻撃は突進だけです。突進に合わせることさえできれば、抑えられるはずです。私はあの猿どもをやり、すぐに合流します。ルミア殿は適宜援護を頼みますぞ!」
アランがすぐさま指示を出し、二人はそれに頷いた。そのことを確認したアランは様子をじりじりと距離を詰めてきていた猿の魔物に突撃していく。その動きに対して猿の魔物たちは散開してアランを取り囲もうとしたが、そのうちの一匹をルミアの矢が射貫いた。
「ギッ!?」
それに気を取られた猿の魔物をアランは一匹、また一匹と斬り伏せていく。
「王都は! シャルロット様はやらせん!」
鬼気迫る勢いのアランに危険を感じたのか慌てて距離を取った猿の魔物たちであったが、そこに狙いすましたかのようにルミアの矢が襲った。矢はまたしても頭部に命中し、力なく地面に倒れる。
「わたくしも、負けてはいられませんわ!」
ルミアとアランの戦いぶりを横目に見ながら、シャルロットはイノシシの魔物に立った。その手には神剣ユグドネソスが輝いている。
そんなシャルロットを見て、イノシシの魔物はまたもや「ブルルルルル」と声を上げて地面を前脚で何度かかいた。
そしてすぐにシャルロットに向かってイノシシの魔物が突進を仕掛けてきた。見上げるほど巨大で炎を纏ったイノシシの魔物が突進してくる様は、まるで燃える巨岩が転がってきているかのような迫力がある。
「くっ!」
あまりの迫力に気圧されたシャルロットはカウンターで剣を合わせることができず、素早く詠唱して防壁を張ってその突進を防いだ。止まったところに剣を突き立てようと前に出るが、イノシシの魔物は素早く距離を取り、再び突進する準備を始める。
そして再び突進してきたイノシシの魔物をシャルロットは防壁を張って防ぐ。
そこにシャルロットは反撃をしようとするが、すぐに間合いを取られてしまうためその剣は届かない。
そんなやり取りを五度ほど繰り返した。
「どうすればいいんですの? わたくしではとてもカウンターを合わせるなど……」
そう呟いたところでイノシシの魔物が六度目の突進を仕掛けてきた。
「シャルロットさん! しゃがんでくださいっ!」
後ろからルミアの声が聞こえ、シャルロットは反射的にしゃがんだ。
次の瞬間パシンと矢を放つ音が鳴ったかと思うとシャルロットの立っていた場所を矢が通過し、それは吸い込まれるようにイノシシの魔物の眉間に突き刺さる。
「グヒッ!?」
予期していなかった攻撃を受けたイノシシの魔物は驚いたのか、突進の勢いが見るからに衰えた。
「シャルロットさん! 今ですっ!」
「え、ええ。任せなさい!」
シャルロットは立ち上がると一歩踏み出し、そしてイノシシの魔物に向かって神剣を突き出した。
それは突きと言えるほどの洗練された攻撃ではなかった。だが動きの鈍ったイノシシの魔物には急な方向転換などできず、自ら神剣に刺さりに行く形となった。そんな自身の突撃の威力と相まってシャルロットの突き出した神剣はその体に深々と突き刺さる。
そして次の瞬間、電撃がイノシシの魔物を襲ったかと思うとその体はすぐさま塵となって消滅した。
「あ……」
シャルロットは呆然とその様子を眺めていたのだった。
◆◇◆
「シャルロット様。やりましたな。我々が猿の魔物を倒し終えるまで時間を稼いでいただく予定でしたが、まさかあのイノシシの魔物を倒されるとは」
「わたくしだけの力ではありませんわ。ルミアの援護があったからこそ、ですわ」
「さっき助けてもらいましたから。これでお相子ですっ」
「ふふ。そうですわね」
「さあ、早く生き残った騎士たちと合流しましょう」
「ええ」
三人が駆けだそうとした瞬間、再びあの黒いブレスがシャルロットたちを襲った。そのブレスは最初のものとは比較にならないほど広範囲に広がっており、シャルロットたちだけでなく戦場に残った騎士たち、そして王都全体をも飲み込んだのだった。
「ブルルルルル」
そんな唸り声を上げたイノシシの魔物は前脚で何度か地面をかくと、小さく悲鳴を上げたルミアに向かって突進してきた。
「ひっ!? マシロ!」
マシロが先ほど猿の魔物を吹き飛ばした突風をぶつけた。だがイノシシの魔物はそれをものともせず、一直線にルミアを目掛けて突っ込んでくる。
「あっ!?」
あまりの巨体に一瞬体が固まってしまい、完全に間合いに入られてしまったルミアは避ける動作を取ることすらできずに目をつぶる。
だが、いつまでたっても予想した衝撃はやってこなかった。
「あ、あれ?」
恐る恐る目を開くと目の前に見えない壁のようなものが出てきており、その壁に引っかかってイノシシの魔物が止まっていたのだ。
イノシシの魔物は血走った目でルミアを睨んできている。
「え? 姉……さま?」
「わたくしの防壁ですわ。あなた、一人で行くなんて何を考えているんですの? あなたが怪我をすればフィーネが悲しみますわよ?」
「う……シャルロットさん」
ルミアは気まずそうな表情を浮かべている。
「そもそもあなたは後衛ですわ。前衛もなしに戦おうだなんて、自殺行為じゃなくて?」
「う……でも姉さまが行けって……」
「……あなたもわたくしも、まだ実力が足りないということですわ。それよりも、この魔物たちを始末して騎士たちに合流しますわよ」
シャルロットは悔しさを噛みしめているかのような表情を浮かべ、そう言った。
「……はい」
ルミアは逡巡の後、シャルロットの提案に頷いた。
「ルミア殿は後衛として、敵の牽制してください。前衛はこの私とシャルロット様が務めます。シャルロット様はそのイノシシを抑えてください! そやつの攻撃は突進だけです。突進に合わせることさえできれば、抑えられるはずです。私はあの猿どもをやり、すぐに合流します。ルミア殿は適宜援護を頼みますぞ!」
アランがすぐさま指示を出し、二人はそれに頷いた。そのことを確認したアランは様子をじりじりと距離を詰めてきていた猿の魔物に突撃していく。その動きに対して猿の魔物たちは散開してアランを取り囲もうとしたが、そのうちの一匹をルミアの矢が射貫いた。
「ギッ!?」
それに気を取られた猿の魔物をアランは一匹、また一匹と斬り伏せていく。
「王都は! シャルロット様はやらせん!」
鬼気迫る勢いのアランに危険を感じたのか慌てて距離を取った猿の魔物たちであったが、そこに狙いすましたかのようにルミアの矢が襲った。矢はまたしても頭部に命中し、力なく地面に倒れる。
「わたくしも、負けてはいられませんわ!」
ルミアとアランの戦いぶりを横目に見ながら、シャルロットはイノシシの魔物に立った。その手には神剣ユグドネソスが輝いている。
そんなシャルロットを見て、イノシシの魔物はまたもや「ブルルルルル」と声を上げて地面を前脚で何度かかいた。
そしてすぐにシャルロットに向かってイノシシの魔物が突進を仕掛けてきた。見上げるほど巨大で炎を纏ったイノシシの魔物が突進してくる様は、まるで燃える巨岩が転がってきているかのような迫力がある。
「くっ!」
あまりの迫力に気圧されたシャルロットはカウンターで剣を合わせることができず、素早く詠唱して防壁を張ってその突進を防いだ。止まったところに剣を突き立てようと前に出るが、イノシシの魔物は素早く距離を取り、再び突進する準備を始める。
そして再び突進してきたイノシシの魔物をシャルロットは防壁を張って防ぐ。
そこにシャルロットは反撃をしようとするが、すぐに間合いを取られてしまうためその剣は届かない。
そんなやり取りを五度ほど繰り返した。
「どうすればいいんですの? わたくしではとてもカウンターを合わせるなど……」
そう呟いたところでイノシシの魔物が六度目の突進を仕掛けてきた。
「シャルロットさん! しゃがんでくださいっ!」
後ろからルミアの声が聞こえ、シャルロットは反射的にしゃがんだ。
次の瞬間パシンと矢を放つ音が鳴ったかと思うとシャルロットの立っていた場所を矢が通過し、それは吸い込まれるようにイノシシの魔物の眉間に突き刺さる。
「グヒッ!?」
予期していなかった攻撃を受けたイノシシの魔物は驚いたのか、突進の勢いが見るからに衰えた。
「シャルロットさん! 今ですっ!」
「え、ええ。任せなさい!」
シャルロットは立ち上がると一歩踏み出し、そしてイノシシの魔物に向かって神剣を突き出した。
それは突きと言えるほどの洗練された攻撃ではなかった。だが動きの鈍ったイノシシの魔物には急な方向転換などできず、自ら神剣に刺さりに行く形となった。そんな自身の突撃の威力と相まってシャルロットの突き出した神剣はその体に深々と突き刺さる。
そして次の瞬間、電撃がイノシシの魔物を襲ったかと思うとその体はすぐさま塵となって消滅した。
「あ……」
シャルロットは呆然とその様子を眺めていたのだった。
◆◇◆
「シャルロット様。やりましたな。我々が猿の魔物を倒し終えるまで時間を稼いでいただく予定でしたが、まさかあのイノシシの魔物を倒されるとは」
「わたくしだけの力ではありませんわ。ルミアの援護があったからこそ、ですわ」
「さっき助けてもらいましたから。これでお相子ですっ」
「ふふ。そうですわね」
「さあ、早く生き残った騎士たちと合流しましょう」
「ええ」
三人が駆けだそうとした瞬間、再びあの黒いブレスがシャルロットたちを襲った。そのブレスは最初のものとは比較にならないほど広範囲に広がっており、シャルロットたちだけでなく戦場に残った騎士たち、そして王都全体をも飲み込んだのだった。
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