勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第52話 炎龍王との死闘(1)

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 走っていくルーちゃんとシャルたちを見送った私は炎龍王のほうへと向き直った。周囲を確認してみれば結界の外の地面は抉れており、ところどころが溶けて赤くなっている。この状況を作り出したのがたった一発のブレスだというのだから恐ろしい。

 あのブレスをまともに喰らってしまえばひとたまりもないだろう。

「フィーネ殿! あいつを飛び立たせない様にして欲しいでござる!」

 シズクさんの鋭い声に慌てて視線を戻すと、なんと炎龍王は翼を広げて飛び立とうとしていた。

「はい!」

 私は急いで炎龍王の頭上に防壁を設置した。

 飛び立とうとした炎龍王は突如現れた防壁に思い切り頭をぶつけ、ゴチンという鈍い音と共に地面に着地した。

「GRYU?」

 どうやら炎龍王は何が起きたのかを理解できていない様子だ。その隙をついてシズクさんとクリスさんが距離を詰めていく。

 右から高速でシズクさんが炎龍王のそばを駆け抜け、すれ違いざまに炎龍王の足に一撃を加えた。そして炎龍王がそちらに気を取られた隙に逆側からジャンプしていたクリスさんが剣を振り下ろして渾身の一撃を翼に叩き込む。

 シズクさんの一撃は炎龍王の左脚に深い傷をつけ、クリスさんの一撃は光の斬撃と相まって右の翼を切断した。

 よし! これで飛べなくなった。

「どうだ! 翼を落とされてはもう飛べまい!」

 クリスさんがドヤ顔で炎龍王に向かってそう言った。

 するとなんと! 傷口からすぐに新しい翼が生えてきたのだ。

「な! なんだと!?」

 しかもシズクさんが与えた傷ももう塞がっているし、これまでに二人が与えた傷もいつの間にか治っているようだ。

 これは、ちょっと厄介かもしれない。

 ちらりと後ろを振り返る。すでにルーちゃんもシャルたちもブレスで熱せられた箇所を渡り切っており、かなり遠くまで離れていることが見てとれる。

 よい。これならもういいだろう。

 私は結界を解くと防壁を足場にして熱せられた場所を渡り、炎龍王の前へと移動した。すると隣にシズクさんとクリスさんが集まってくる。

「あの再生能力は、どうなっているんですか?」
「意味不明でござるな。まさかここまでタフだったとは思わなかったでござるよ」
「再生するのであれば、再生される前にさらに斬るという手はありますが……」
「クリス殿。そんなことができる相手ではござらんよ」
「そうだな……」

 二人とも打つ手なしのようだ。

 なら、どうしようか?

 シャルを呼び戻して、【雷撃】スキルで攻撃してもらう?

 いや、ダメだ。あの実力では一撃も与えられずに殺される確率のほうが高い。もしそうなってしまえば、今の私にもう一度蘇生することはできないだろう。

 だから私たちだけで倒す必要がある。だが翼を落としてもダメだということは、普通の方法では決定打にはならないということだ。

「フィーネ殿。スイキョウ様を倒したときはどうしていたでござるか?」
「え? スイキョウ? ええと、あのときはたしかアーデが影の槍でめった刺しにして、それで影のロープでぐるぐる巻きにしたところを私が浄化しましたね」
「……浄化、でござるか。では、死なない獣と同じように傷口に浄化魔法を叩き込んでみるのはどうでござるか?」
「浄化魔法? でもあれは死なない獣でも黒兵でもないですよね?」
「ものは試しでござるよ。ダメなら別の方法を考えるでござる」
「それもそうですね。ではやってみましょう。クリスさんも、お願いします」
「はい!」

 まるで私たちの話し合いが終わるのを待っていたかのように炎龍王は尻尾を叩きつけてきた。私はそれを結界で受け止めると、飛び立てないように再び防壁を頭上に設置する。

 クリスさんとシズクさんは左右に別れて散っていく。私の役目は二人が攻撃しやすいように引き付けること、そして飛び立たせないようにすることだ。

 炎龍王がクリスさんのほうを見たので、私はその目の前に浄化魔法を出して目くらましをしてやった。

 どうやら炎龍王はそれが私の仕業と理解しているようで、尻尾を引っ込めると私に向かってブレスを吐いてきた。

 だがこれは普通の炎のブレスだ。この程度であれば私の結界はビクともしない。

 その隙に今度は左からシズクさんが攻撃し、さらにその隙をついて右側からクリスさんが攻撃して再び翼を切り落とした。

「浄化!」

 その傷口に対して浄化魔法を叩き込んだ。だが残念ながら翼はすぐに元通り再生してしまった。

 なるほど。やはり死なない獣や黒兵とは違うようだ。

 ゴチン!

 飛び立とうとした炎龍王が再び頭上に設置しておいた防壁に頭をぶつけた。

 二度目にしてどうやらそれが私の仕業だと理解したようで、炎龍王は私のほうを睨みつけてきた。

 そして大きく息を吸い込む。

 あ! あのヤバいやつがまた!

 私は結界を慌てて張り直したのと、ブレスが放たれたのは同時だった。

 真っ赤な極太のレーザー光線のようなブレスが私の結界に襲い掛かる。対する私の結界は通常の結界に少し工夫をしてあって、受けたブレスを上空に受け流すようにしてみた。

 先ほどあのブレスを受けた結果、それをずっと受け続けることは不可能だということはわかった。だがこうしてやれば結界で全てを受け止める必要はないため、結界を維持するのに必要なMPを大幅に減らすことができる。

 実際にこの作戦はどうやら成功しているようで、先ほどよりも維持に必要なMPは格段に減っているし、結界自体にかかる負荷も小さい。

 私の結界は受けたブレスのかなりの部分を斜め上へと反射しているので、周囲に対する被害もほとんどない。

 するとすぐに炎龍王のブレスが止んだ。今度は二人が止めてくれたのではなく、効いていないと理解して自分から止めたらしい。

 こいつは……かなり手ごわい。こういった判断ができるということは、もしかすると私たちの戦い方にもなんらかの対策をしてくる可能性があるということだ。

 こんな相手に、どうやって戦えばいいというのだろうか?

 ここまで一切勝ち筋の見えない相手はスイキョウ以来ではないだろうか? スイキョウのときもアーデがいなければやられていただろうし、さすがは伝説の四龍王のうちの一匹だ。

 だが、負けるわけにはいかない。ここで私たちが負ければせっかく逃がしたルーちゃんもシャルも、親方たち王都の人たちだって死んでしまうのだから。

 負けるもんか!
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