勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第57話 決着

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「GRIeeeeeeeee」

 炎龍王はこの戦いで初めて苦しそうな叫び声を上げた。

「これは……」
「フィーネ殿! やったでござるな!」
「はい」

 そう。なんと再生がピタリと止まっているのだ!

「さすがフィーネ様です! あとはこの調子で!」
「GRYAAAAAAAAAA」

 咆哮ほうこうを上げた炎龍王は大きく翼を広げた。飛び立つことでこの苦境を打破しようとしているのだろう。

「防壁!」

 またもやゴチンという音と共に頭をぶつけた炎龍王は飛び立つことに失敗し、炎龍王は大きく息を吸い込んだ。

 そしてあの青いレーザーブレスが飛んできたので私は横っ飛びでそれを躱す。

「まずは翼を落とすでござるよ!」
「ああ!」

 左右に展開した二人は炎龍王の死角へ回り込もうと動き出した。私はそれをサポートするため炎龍王の顔面に浄化魔法を撃ち込んで挑発する。

 案の定私のほうに顔を向けた大きく息を吸い込む。

 それから飛んできたのは極太の赤いレーザーブレスだ。

 私は結界の種類を切り替え、そのブレスを上空へと逸らす。

 その隙をついてクリスさんとシズクさんが炎龍王の両の翼をそれぞれ切り裂き、その瞬間ブレスが止まった。

「フィーネ様!」
「はい!」

 私は先ほどと同じように影の刃にリーチェの種を埋め込み、その傷口に差し込んだ。 すると炎龍王は再び苦しそうな叫び声を上げる。

「GRIeeeeeeeee」
「行けるでござるよ!」
「ああ!」

 勝負を決めようと、シズクさんとクリスさんが地面に横たわる炎龍王に再び近づいていく。すると炎龍王は黒い波動を放ち、大量の魔物を出現させる。

「最後の抵抗、といったところか」
「だが、この魔物たちの動きはもう見切ったでござるよ」

 魔物の壁を切り裂くようにして二人は前に進んでいき、私も襲ってきた魔物を影の刃で突き刺してから浄化魔法で倒していく。

 やがて炎龍王の目の前に到着した私たちは炎龍王にとどめを刺すべく攻撃を始める。

 まずは尻尾と残りの足を奪い、そしてあちこちに大きな傷を作ってはリーチェの種を埋め込んでいく。

 そうしているうちに炎龍王は徐々に魔物を生み出される魔物の数が減っていき、三十か所くらいに種を植えたところでついに炎龍王はピクリとも動かなくなった。魔物ももう生み出されていない。

「これ、倒したんですかね?」
「どうでござろうか?」
「浄化はされないのですか?」
「そうですね。リーチェに頼んで浄化しておきましょう」

 私はリーチェを呼び出した。呼び出されたリーチェは目の前に横たわる巨大な炎龍王にびっくりして後ずさる。

「リーチェの種のおかげでこの魔物はもう動けません。だから今のうちにこの魔物を浄化しましょう」

 私の言葉を聞いたリーチェは炎龍王をじっと見つめた。それからしばらく炎龍王を見つめ続けたリーチェはおもむろにこくりと頷いた。

「リーチェ、お願いします」

 リーチェは私の魔力を受け取るといつものように上空を飛び回り、花びらを降らせていく。

 やはりかなりの瘴気を持っていたのだろう。ゆっくりと時間をかけ、いつもよりもはるかに多い花びらが巨大な炎龍王の体を埋めつくしていく。

 そうして見上げるほどの花びらの山ができたところでリーチェは私のところに戻ってきた。

 戻ってきたリーチェからいつもよりもかなり大きな種を受け取ると、私はそれを花びらの山に向けってそっと投げ込んだ。

 そして再び魔力をリーチェに渡して炎龍王を浄化する。

「え? あ、く、うぅ……」

 とてつもない量のMPを持っていかれる。

 そうだ。あれだけ花びらをたくさん落としたのだし、炎龍王の抱えていた瘴気を浄化するにはそれだけのMPが必要なのだろう。

「クリスさん。MPポーションを……」

 なんとかそう伝え、収納からMPポーションを取り出そうとしたのだが……ない!

 しまった! シャルを蘇生したときに全部飲んでしまったのだった。

「フィーネ様。こちらを!」

 クリスさんが口元に瓶を差し出してきたので、私は躊躇なくそれ飲ませてもらう。

 なんとも懐かしい、あのまずい味が口いっぱいに広がった。

 ああ、これはMPポーションじゃなくてMP回復薬か。

 それでも、ないよりははるかにマシだ。

 そうしてそのまましばらくリーチェに魔力を送り込み続けていると、突然魔力が消費されていく感覚がなくなった。

「はぁ。はぁ。お、終わった?」
「フィーネ様。お見事です! 炎龍王は完全に浄化されました」

 そう言われて顔を上げてみる。するとそこには炎龍王の体も巨大な花びらの山もなく、大きく育ったひまわりのような花が咲いていた。

「ああ、良かった」

 MPをほぼ使い切った感覚はあるものの、どうやら完全にゼロにはならずに済んだようだ。だがMP回復薬の効果でじわじわと回復した分も使い切ったようで、MPが回復している感覚もない。

 これはもう、完全に限界だ。

「フィーネ殿。これが、奴の魔石でござるよ」

 シズクさんが小さな赤い宝玉を差し出してきた。炎龍王の大きさと比べて随分と小さなそれはまるで炎が燃えているかのように内部が揺らめいており、どこか温かくて優しい感じのする不思議な魔石だ。

「ありがとうございます。さあ、帰りましょう。あっ」

 私はそれを受け取るべく一歩踏み出そうとしたが、よろめいてしまった。だが隣にいるクリスさんがすっと支えてくれる。

「フィーネ様。お運びします」

 そういってクリスさんは私を横抱きにした。

「はい。クリスさん。お願いします」
「お任せください」

 クリスさんはそう言って嬉しそうに笑ったのだった。
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