勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第12話 爆発する岩(後編)

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「せ、せ、聖女様。その、俺たちあれからちゃんと心を入れ替えやして……」

 うん? どこかで会ったことあるっけ?

 そう思い【人物鑑定】をしてみると、なんとこの二人は前に訪れた狩猟祭りで会っていた人だった。

 アニキさんはザックスという名前で、ルーちゃんにゴブリンを押し付けたうえに助けを呼ばず、挙句に不正までして失格になっていたようだ。もう一人は当時からの取り巻きらしい。

 ええと、うん。どうでもいいや。

「そんなことより、ここは危険なので早く戻ってください」
「だ、だが今回こそは優勝しねぇと……」
「いいから戻ってください。いいですね?」
「で、でもよぅ……」

 何やら理由があるようだが、さすがに魔物だらけの森をうろつかれるのは迷惑だ。

「おい! フィーネ様が戻れとおっしゃっているんだ! 早く戻れ!」

 しびれを切らしたクリスさんが剣に手をかけた。

 うーん? どうしたものだろうか。

「ルーちゃん。どこか森の中に安全な場所はありませんか?」
「え? あ、えっと……」

 それからルーちゃんは虚空を見つめる。

 その視線の先にはなんとなく気配があるので、きっと精霊と話しているのだろう。

「はい。えっと、向こうのほうなら魔物がいないみたいです」
「だそうですよ。あっちのほうで一匹狩ったらすぐに帰ってください。いいですね?」
「へ、へい!」

 こうしてアニキさんは嬉しそうにルーちゃんの指さしたほうへと消えていった。

「フィーネ様……」
「だって、ああでもしないと戻ってくれそうにないじゃないですか」
「それはそうですが……」
「そんなことより、早く岩の魔物をどうにかしましょう」
「はい」

 それから少し歩き、草むらの前で止まった。

「この草むらの中みたいです」

 ルーちゃんはうっそうと生い茂る草むらを指さした。

「見てみましょう」

 私はまず防壁を目の前に展開した。それから【影操術】で自分の影を変形させ、腕を作り出して草むらをかき分ける。

 すると草むらの中から人の頭くらいの大きさの岩が出てきた。

「これ、ですかね?」

 と、次の瞬間、岩の表面が動いてぎょろりとした目が現れた。

「ひっ!?」

 ルーちゃんは驚いて飛び退る。

 その目は私を見て、次にシズクさんを見た。それからルーちゃんを見て、最後にクリスさんを確認した。

 そのままじーっとクリスさんを見ていたかと思うと、突如自爆した。

 轟音と共にすさまじい爆風が発生し、周囲の木々をなぎ倒していく。

 もちろん私たちは防壁に守られて無事だが、防壁が無ければそれなりのダメージを受けそうな威力だ。

「クリスさんを見て自爆しましたね」
「きっと人間に反応しているのでござろうな」
「ああ、なるほど」

 よく考えたら、私たちのパーティーに人間はクリスさんしかいないんだった。

「……やはり伝説のマインロックなのでしょうね」
「しかし、厄介な魔物でござるな」
「どうやって倒すんですか?」
「言い伝えでは、水に浸かっている間は爆発しないそうです」
「ということは、フィーネ殿の【水属性魔法】で倒すのがいいでござるな」

 うーん? でも防壁で防げるんだから、そんなことしなくてもいいんじゃないかな?

「全部爆破しちゃいましょう」
「え?」
「だって、防壁で防げたじゃないですか。だから、結界で包んで爆発させれば問題ないかなって」
「……なるほど」
「一理あるでござるな」

 そんな会話をしている間にも、あちこちで爆発が起きている。

「姉さま、森が……」
「そうですね。ルーちゃん、案内してください」
「はい」

 こうして私たちは再び森の中を歩き始めるのだった。

◆◇◆

 それから私たちは森の中を歩いてはマインロックを結界で封じ、爆発させて処理をするということを繰り返した。

 そのまま五十と何匹かのマインロックを処理すると、ルーちゃんに魔物の存在を伝えてきていた精霊がもう魔物はいないと言ってきたので会場へと戻ってきた。

 すると私が戻ってきたのを見つけたアニキさんが、ものすごい勢いで私のところへ来るといきなりブーンからのジャンピング土下座を決めてきた。

「聖女様! ありがとうございやした!」

 うん。森の中で見た演技とは違って随分としっかりとした演技だ。きっちり指先を延ばそうという意識は感じられたし、出発点としてなら及第点をあげてもいいのではないだろうか?

 よし、アニキさんの演技は六点だね。ぜひとも、これから演技に磨きをかけてもらいたいものだ。

「神の御心のままに」

 いつもどおりそんなことを考えているとはおくびにも出さず、アニキさんを起こしてあげる。

「聖女様のおかげで、俺はちゃんと獲物を仕留めることが出来やした! これで! 俺は! やり直せます!」
「そうですか。頑張ってくださいね」

 ニッコリと営業スマイルでそう答えたが、これは一体なんの話だろうか?

 よくは分からないが、アニキさんにとっていいことがあったのならそれは素晴らしいことなのだろう。

 こういう感情からなら、きっと瘴気が生まれることはないはずだ。

 ちなみに今回の狩猟祭りでは、マインロックのせいでほとんどの参加者が獲物を狩れずに終わってしまった。そんな中で獲物を狩ることに成功したアニキさんは準優勝の栄誉を獲得した。

 これからはアニキさんもこの町の優秀な狩人として活躍してくれるだろう。

 ただ、マインロックがどうして森にいたかは分かっていないので十分に気を付けてもらいたい。

 ああ、そうそう。それとなんと幸運なことに、マインロックによる死者は出なかったらしい。

 どうやらマインロックは人間が少し遠くにいても自爆するようで、大怪我をした選手はいたものの致命傷を負った選手はいなかったのだ。

 これぞ不幸中の幸いといったところだろう。
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