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欲と業
第十一章第13話 再びの温泉
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私たちは再び極北の地の玄関口であるシルバーフィールドへとやってきた。
今回はもちろん誰も船酔いしていない。船酔い三人組がお揃いのポーズでマーライオンしていたのも今となっては懐かしい想い出だ。
そういえば船酔い三人組の一人であるリエラさんは元気にしているだろうか? 白銀の里で食糧危機が起きていなければいいのだけれど……。
それはさておき、せっかくシルバーフィールドへ来たのだ。ここまで来ていながら温泉に入らないという選択肢があるだろうか? いやない。
というわけで、温泉に行こう。さあ、温泉! いざ温泉!
そんな私と同じことを考えていたのか、ルーちゃんが弾んだ様子で話しかけてきた。
「姉さま! 温泉ですよねっ?」
「もちろんです」
「おお、この島には温泉があるでござるな?」
「はい。この島は温泉天国です。ね? クリスさん?」
「……そうですね」
「じゃあ、さっそく温泉に――」
「フィーネ様。その前に宿を取りましょう」
「え? ああ、それもそうですね。では、宿を取り次第温泉に行きましょう」
「賛成ですっ」
「楽しみでござるなぁ」
「……はい。そうですね」
こうして私たちは宿を取り、すぐさまシルバーフィールドの郊外へと向かうのだった。
◆◇◆
「ああああぁぁぁ、きもちいいぃぃぃ」
ルーちゃんが波間の野天風呂にダイブすると開口一番、その感動を表現した。
肩まで浸かったルーちゃんはちょうどいい温度の場所を探しているのか、あちこち動き回っている。
まあ、泳いでいるわけではないしこのくらいは問題ないだろう。
ちなみにここは前回も入った温泉だ。硫黄泉に海水が混じっており、美肌効果に加えてあったまり効果、さらには慢性婦人病や生活習慣病にも効果がある。まさに女性のための湯といったところだろう。
そしてクリスさんとルーちゃんに温泉の良さを教えた想い出の場所でもある。
ああ、そういえばリエラさんがクリスさんの怪しい扉を開きかけた場所でもあるね。
そんなことを思い出しつつも、私は温泉をいただく。
うん。やっぱり野天風呂はいいね。
源泉かけ流しなうえに、目の前には大海原が広がっているのだ。
この贅沢は何ものにも代え難い。
「いいお湯でござるな」
「はい。そうなんです」
シズクさんも気持ちよさそうに温泉に浸かっている。
一人で入る温泉もいいけれど、みんなで入る温泉も最高だ。あとは風呂上がりの牛乳があればなお素晴らしいのだが、野天風呂でそれはさすがに贅沢が過ぎるというものだ。
「しかし、野天風呂なのに覗きの心配がないとは驚きでござるな」
「そのための結界ですからね」
というのも、覗き防止と魔物除けを兼ねて結界を張ってあるのだ。
「結界をそんな風に使った聖女はきっとフィーネ殿が最初でござろうな」
「ああ、かもしれませんね」
そういえば前にクリスさんがすごく難しいことだって言っていた気がする。
「そういえば、このあたりは魔物が少ないですね。あれ? クリスさん? 警戒は大丈夫ですから入ってきてください」
「ですが……」
「大丈夫でござるよ。フィーネ殿の結界の力は理解しているでござろう?」
「あ、ああ……」
やはりクリスさんはまだまだ野天風呂に抵抗があるようだ。
結界で外からは見られないようにしているため、実質的には室内にいるのと変わらない。とはいえ私たちは外を見られるため、どうしても恥ずかしいのだろう。
それからしばらくして決心がついたのか、クリスさんも服を脱いで温泉に入ってきた。
「ああ、気持ちいい……」
うんうん。やっぱりそうだよね。
クリスさんだって温泉が気持ちいいことを知っているのだ。
一気に肩までお湯につかったクリスさんがぼうっと遠くを眺めている。
ようやく緊張が解けたようだ。
これまでずっと気を張っていたもんね。少しくらいはゆっくりしてほしい。
「それにしても、本当に魔物が少ないでござるな。フィーネ殿が何かしているわけではないのでござろう?」
「はい。私は何もしていませんよ。もしかすると、この島の人口が少ないから瘴気も少ないのかもしれませんね」
「一理あるでござるな。それに温泉に浸かれば大抵の嫌なことは忘れられるでござるしな」
「なるほど! 温泉は瘴気の解消に役立つかもしれませんね。これは戻ったらぜひ広めないと」
さすがシズクさんだ。温泉はこれだけリラックス効果があるのだから、温泉で人の心を温めてあげれば瘴気を生むような悪い欲望だって静まるに違いない。
うん、これだ!
「え? ああ。そうでござるなぁ」
よしよし、シルバーフィールドの人たちにも戻ったら早速教えてあげよう。
そんな決意をしていると、気持ちよさそうに岩に寄りかかって入浴していたルーちゃんがずぶずぶとお湯の中へと沈んでいく。
「え? ルーちゃん!?」
慌てて呼びかけるが反応はない。
「ルーちゃん!」
「ルミア!」
すぐさま駆け寄ってきたクリスさんがルーちゃんをお湯の中から引き揚げる。
「どうしたんですか! ルーちゃん?」
「ふぇぇぇぇぇ」
きちんと返事をしてくれない。どうやら意識がもうろうとしているようだ。そしてルーちゃんの顔は真っ赤で、体温もかなり高い。
……って、あれ?
「シズクさん、これってもしかして……」
「のぼせているでござるな……」
今回はもちろん誰も船酔いしていない。船酔い三人組がお揃いのポーズでマーライオンしていたのも今となっては懐かしい想い出だ。
そういえば船酔い三人組の一人であるリエラさんは元気にしているだろうか? 白銀の里で食糧危機が起きていなければいいのだけれど……。
それはさておき、せっかくシルバーフィールドへ来たのだ。ここまで来ていながら温泉に入らないという選択肢があるだろうか? いやない。
というわけで、温泉に行こう。さあ、温泉! いざ温泉!
そんな私と同じことを考えていたのか、ルーちゃんが弾んだ様子で話しかけてきた。
「姉さま! 温泉ですよねっ?」
「もちろんです」
「おお、この島には温泉があるでござるな?」
「はい。この島は温泉天国です。ね? クリスさん?」
「……そうですね」
「じゃあ、さっそく温泉に――」
「フィーネ様。その前に宿を取りましょう」
「え? ああ、それもそうですね。では、宿を取り次第温泉に行きましょう」
「賛成ですっ」
「楽しみでござるなぁ」
「……はい。そうですね」
こうして私たちは宿を取り、すぐさまシルバーフィールドの郊外へと向かうのだった。
◆◇◆
「ああああぁぁぁ、きもちいいぃぃぃ」
ルーちゃんが波間の野天風呂にダイブすると開口一番、その感動を表現した。
肩まで浸かったルーちゃんはちょうどいい温度の場所を探しているのか、あちこち動き回っている。
まあ、泳いでいるわけではないしこのくらいは問題ないだろう。
ちなみにここは前回も入った温泉だ。硫黄泉に海水が混じっており、美肌効果に加えてあったまり効果、さらには慢性婦人病や生活習慣病にも効果がある。まさに女性のための湯といったところだろう。
そしてクリスさんとルーちゃんに温泉の良さを教えた想い出の場所でもある。
ああ、そういえばリエラさんがクリスさんの怪しい扉を開きかけた場所でもあるね。
そんなことを思い出しつつも、私は温泉をいただく。
うん。やっぱり野天風呂はいいね。
源泉かけ流しなうえに、目の前には大海原が広がっているのだ。
この贅沢は何ものにも代え難い。
「いいお湯でござるな」
「はい。そうなんです」
シズクさんも気持ちよさそうに温泉に浸かっている。
一人で入る温泉もいいけれど、みんなで入る温泉も最高だ。あとは風呂上がりの牛乳があればなお素晴らしいのだが、野天風呂でそれはさすがに贅沢が過ぎるというものだ。
「しかし、野天風呂なのに覗きの心配がないとは驚きでござるな」
「そのための結界ですからね」
というのも、覗き防止と魔物除けを兼ねて結界を張ってあるのだ。
「結界をそんな風に使った聖女はきっとフィーネ殿が最初でござろうな」
「ああ、かもしれませんね」
そういえば前にクリスさんがすごく難しいことだって言っていた気がする。
「そういえば、このあたりは魔物が少ないですね。あれ? クリスさん? 警戒は大丈夫ですから入ってきてください」
「ですが……」
「大丈夫でござるよ。フィーネ殿の結界の力は理解しているでござろう?」
「あ、ああ……」
やはりクリスさんはまだまだ野天風呂に抵抗があるようだ。
結界で外からは見られないようにしているため、実質的には室内にいるのと変わらない。とはいえ私たちは外を見られるため、どうしても恥ずかしいのだろう。
それからしばらくして決心がついたのか、クリスさんも服を脱いで温泉に入ってきた。
「ああ、気持ちいい……」
うんうん。やっぱりそうだよね。
クリスさんだって温泉が気持ちいいことを知っているのだ。
一気に肩までお湯につかったクリスさんがぼうっと遠くを眺めている。
ようやく緊張が解けたようだ。
これまでずっと気を張っていたもんね。少しくらいはゆっくりしてほしい。
「それにしても、本当に魔物が少ないでござるな。フィーネ殿が何かしているわけではないのでござろう?」
「はい。私は何もしていませんよ。もしかすると、この島の人口が少ないから瘴気も少ないのかもしれませんね」
「一理あるでござるな。それに温泉に浸かれば大抵の嫌なことは忘れられるでござるしな」
「なるほど! 温泉は瘴気の解消に役立つかもしれませんね。これは戻ったらぜひ広めないと」
さすがシズクさんだ。温泉はこれだけリラックス効果があるのだから、温泉で人の心を温めてあげれば瘴気を生むような悪い欲望だって静まるに違いない。
うん、これだ!
「え? ああ。そうでござるなぁ」
よしよし、シルバーフィールドの人たちにも戻ったら早速教えてあげよう。
そんな決意をしていると、気持ちよさそうに岩に寄りかかって入浴していたルーちゃんがずぶずぶとお湯の中へと沈んでいく。
「え? ルーちゃん!?」
慌てて呼びかけるが反応はない。
「ルーちゃん!」
「ルミア!」
すぐさま駆け寄ってきたクリスさんがルーちゃんをお湯の中から引き揚げる。
「どうしたんですか! ルーちゃん?」
「ふぇぇぇぇぇ」
きちんと返事をしてくれない。どうやら意識がもうろうとしているようだ。そしてルーちゃんの顔は真っ赤で、体温もかなり高い。
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