勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第14話 北の大地の女王様(前編)

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 どうやらルーちゃんがつかかっていたあたりは温度が高かったようで、小柄なルーちゃんはすっかりのぼせてしまったようだ。

 今はルーちゃんのおでこに濡れタオルを置き、熱くなりすぎた体を冷ましてあげている。

「ルミア、しっかりしろ。まさか温泉にこのような危険があるとは……」

 そう言ってクリスさんは心配そうにルーちゃんの顔を覗き込んでいる。

「クリスさん、大丈夫ですよ。ちょっと熱いお湯に浸かりすぎただけですから。あとは、落ち着いたころにジュースを飲ませましょう」
「ジュースですか?」
「はい。そうすれば元気になりますよ」
「ううぅ、ジュースぅぅぅ」

 どうやらすぐにでも飲みたいようだ。脱水症状にもなっているのだろうし、少しくらいなら大丈夫だろう。

 私は収納からオレンジジュースを取り出し、少しだけ飲ませてあげた。

「あああ、美味しい……。もっとぉ……」

 幸せそうに飲み込むと、すぐさまおかわりを要求してくる。

 だが、たしかあまり一度に飲ませるのは良くなかったような気がする。

「ルーちゃん、もう少ししたらにしましょう」
「ううぅ」
「ルミア……」

 ぼーっとした様子でそうぐずるルーちゃんをクリスさんはなおも心配そうに見つめている

 そうしてしばらく時間が経ち、私たちが温泉から上がるころにはルーちゃんの体調もすっかり戻って元気になってくれた。

「ううっ。ごめんなさい。まさかあんなことになるなんて……」
「大丈夫ですよ。温泉初心者がやってしまいがちな失敗です。温泉をいただくときは熱すぎず、ぬるすぎず、そしてこまめに休憩を挟むのがポイントです。のぼせてしまったら最後まで楽しめないですからね」
「はい……」

 どうやらルーちゃんはかなり反省しているようだ。この様子なら、もうのぼせてしまうことはないだろう。

 こうしてルーちゃんがのぼせてしまうというアクシデントはあったものの、温泉を堪能した私たちはシルバーフィールドの宿へと戻るのだった。

◆◇◆

 シルバーフィールドに戻ってきたのだが、何やら町の様子が慌ただしい。

 何かあったのだろうか?

 すると、男の人が大声で叫んだ。

「女王様がいらっしゃったぞー!」

 え? 女王様!? シルバーフィールドに女王様なんていたっけ?

「うおおぉぉぉぉ!」
「げっ」
「うわっ」
「こら! 見ちゃいけません!」

 野太い歓声と同時によく分からない反応をしている人々もいる。

 ええと? どういうこと?

 私が困惑していると、上半身裸のムキムキマッチョな男性の集団がやってきた。

 しかも何か神輿のようなものを担いでいて人が乗っている。

 ……っ!?!?!?!

 あれは! まさか、リエラさん!?

 どうなっているの? リエラさんは白銀の里に封印した、じゃなかった、保護されているはずなのにどうしてこんなところでムキムキマッチョな男たちに人間神輿をされているのだろうか?

「あらぁ?」

 向こうも私たちの存在に気付いたようだ。

「子豚ちゃんたち! 止まりなさい!」
「「「ぶひぃぃぃ」」」

 リエラさんの掛け声にマッチョな人たちはとても子豚とは思えない野太い鳴き声で答えた。

 それからリエラさんの指示に従い、マッチョ子豚軍団が私たちのほうへとやってきた。

 正直、他人のフリをしたい。

「聖女様ぁ、お久しぶりですぅ。ルミアも元気そうで良かったわぁ」

 だがそんな私の想いとは裏腹に、リエラさんがぽやぽやとした感じで声を掛けてきた。

 リエラさんとその下で担いでいるマッチョ子豚さんたちのギャップがなんというか、ひどい……。

「お母さん、この人たちは……」
「この子たちはね。子豚さんなのよぉ」
「……」
「さぁ、ルミアもお乗りなさい」
「え? あ、えっと、あたしは……」
「ぶひぃ。ぶひぃ」

 かなりドン引きしているルーちゃんの前にマッチョな子豚さんの一人が両手と膝を突いて背中を差し出した。さらにその隣に両手と膝を突いたマッチョ子豚さんが二人重なり、その次は三人と並んで人間神輿の上へ登れるように階段を作る。

 ええと、私は一体何を見ているんだ?

「さ、ルミア。上がってらっしゃい」
「え、えっと……」
「ルミア!」
「は、はい」

 リエラさんに強く言われたルーちゃんは渋々人間階段を登り、リエラさんの隣に座った。

「聖女様も乗られますかぁ?」
「え? あ、いや、私は大丈夫です」
「そうですかぁ」

 ぽやぽやとした口調でそう答えたリエラさんはマッチョ子豚さんたちに命令を出した。

「さぁ、子豚ちゃんたち。聖女様がお泊りの宿まで行くのよ。聖女様の後に続きなさい」
「「「ぶひぃぃぃ」」」

 あ、ええと、宿?

 そうだ。私たちは宿に向かおうとしていたんだった。

「ええと、はい。じゃあ行きましょうか」

 もうよくわからないけれど、ルーちゃんが人間神輿に乗ってしまったのだ。それにこれだけ見られている以上は他人のフリもできないだろう。

 あきらめの境地に達した私はとぼとぼと手続きをした宿へと向かう。

 その道中、シズクさんが心底困惑した様子で私に尋ねてきた。

「あれは、なんでござるか?」
「よく分からないんですが、あのエルフがルーちゃんのお母さんです。なんでマッチョな人たちが従っているのかは分からないんですが、どうやらそういった素質のある人が見抜けるらしく……」

 私はクリスさんをちらりと見た。

「ま、まあ、クリス殿もさすがにあんなことはしないと思うでござるよ……」
「だといいんですが……」
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