勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第15話 北の大地の女王様(後編)

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「あの、リエラさん。あれは一体何事ですか?」

 宿に入り、レストランに入った私はリエラさんに尋ねる。

「何事って、なんのことですかぁ?」
「ですから、どうして人間の男性にあんなことをさせているんですか? いくらなんでもあれはちょっと……」

 私の抗議にルーちゃんがものすごい勢いで首を縦に振っている。

「あらぁ、あれは子豚ちゃんたちやりたくてやっているんですよぉ?」
「でもあんなことは……。あれに加担していない人たちはすごく嫌がっていましたよ?」
「でもぉ、強制はしていませんよぉ? それにぃ、家族のいる人は断っていますからぁ」
「え?」
「ですからぁ、家族のいる人はぁ、素質があってもぉ、やらせてないんですよぉ?」
「……」

 なんだろう。このなんとも言えないモヤモヤ感は。

「だってぇ、家族がいるんならぁ、一番に愛さなきゃいけないのは家族ですよぉ。だからぁ、私はぁ、私を一番に崇めて罵られたいっていう人だけをぉ、選んでますぅ」
「あ、ええと……」

 あれ? ええと? もしかして、これはこれでいい……のかな?

「それにぃ、こうしないとぉ、お腹が減っちゃいますからぁ」

 んん? あ! そうか! そうだった。リエラさんはルーちゃんの母親だけあって、ルーちゃんよりも大食いなんだった。

「あの、リエラさん。もしかして里から追い出されたりとか……」
「そんなことないですよぉ。ただぁ、食事が足りないんですぅ」
「ええと? あのマッチョな子豚さん? たちとどいう関係が?」
「それはぁ」
「はいよ。女王様。いつもの豚さんたちからだよ」
「ありがとうございますぅ」

 頼んでもいないのに食事が出てきた。

 ああ、なるほど。あのマッチョな子豚さんたちがリエラさんを養っているのか。

 それでその対価として、リエラさんが彼らの女王様になって罵ってあげてるってこと?

 んんん? ええと……ダメだ。全くもって理解できない。

「ほらぁ、聖女様ぁ。難しく考えちゃダメですよぉ。子豚ちゃんたちは、単に私が好きなだけですからぁ」
「ええぇ」

 こうして私は理解することを放棄したのだった。

◆◇◆

 それから見ているだけで胸やけするんじゃないかと思えるほど大量の食事を平らげたリエラさんが席を立った。

 するとマッチョな子豚さんたちがやってきてすぐさま周囲を固めた。そしてレストランを出ると再び人間神輿に乗り込んだ。

 もちろんマッチョな子豚さんたちが担いでいるのだが、その周りには大量の荷物を抱えたマッチョな子豚さんたちが取り囲んでいる。

「ええと? これは?」
「里に運ぶ物資ですよぉ。私はすぐに帰らないといけないのでぇ、里でお待ちしてますねぇ。ルミア、また会いましょうね」
「うん」

 ええと? 物資?

 なんだかよくわからないが、つまりリエラさんは買出しにきたということなのかな?

 私たちが呆然と人間神輿を見送っていると、一人のおばさんが声を掛けてきた。

「もしかして、あんたが聖女様かい?」
「え? あ、ええと、はい。一応、そうですね……」
「一応?」
「あ、いや、一応じゃなくて聖女ですね。その、なんだか衝撃的で……」
「ああ、そうだよねぇ。あたしたちも最初、アレにはびっくりしたもんさ。でもね、あの女王様も悪いエルフじゃないのよ。あの女王様にかしずいている連中は、元々どうしようもない荒くれ者でねぇ」
「はぁ」
「あちこちで暴れたり物を盗んだり、ほとほと手を焼いていたんだ。だけれども、あの女王様が来てからはすっかりお熱でね。どういうわけか真面目に働くようになったのさ。まあ、真人間になったとは口が裂けても言えないけどさ」
「……そう、ですね」

 よく分からないが、どうやら町の人たちも子供に見せたくないというだけでリエラさんたちのことを嫌っているわけではないようだ。

「それに、あの女王様はエルフだろう? エルフの品物と食糧を交換してくれるから、この町もちょっとだけ豊かになったんだよ」
「はぁ」

 なんだかよく分からないが、白銀の里との間に交流が生まれているようだ。

 ええと、うん。もういいや。とりあえず無理やりやらせてるわけじゃないみたいだし、きっと常識にとらわれていたのは私のほうなのだろう。

 それに荒くれ者が真面目に働くようになったのなら、あれで瘴気が増えるようなこともないはずだ。むしろ瘴気を新たに生み出さなくなっているのだから、これはいいことなんじゃないだろうか。

 あれ? 待てよ。あれは歪んだ欲望じゃないのか?







「ええと、部屋に戻りましょうか」

 私は再び考えることを放棄した。

 理解できないことをいくら理解しようとしてもきっと無理だと思う。

「……はい。そうですね」

 こうして私たちはなんとも複雑な気持ちを抱きつつも、部屋へと戻ったのだった。
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