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欲と業
第十一章第16話 白銀の里の秘密(前編)
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私たちは白銀の里へとやってきた。前回は矢を射かけられたわけだが、今回はなんの問題もなかった。
ちなみにやはり私とルーちゃん以外にはこの里の象徴である精霊樹とこの森は見えなかったようで、手を繋いで森に入ったとき、シズクさんはものすごく驚いていた。
もっとも前回来たときはただの吸血鬼だったわけで、そんな私がどうして見えたのかはよく分からないのだけれど。
でも今の私は妖精吸血鬼で、精霊神様の加護だっていただいている。だからもうこの里に来る資格もばっちりなはずだ。
さて、そんな久しぶりの白銀の里だが、なんというかあまり雰囲気が変わっていない。
ただ、以前は見かけなかった大きな小屋が里の中心に近い場所に建てられている。
「あらぁ? 聖女様、ようこそお越しくださいましたぁ。ルミアも、いらっしゃい」
「あ、リエラさん」
里に入った私たちをリエラさんが出迎えてくれた。
この里にマッチョな子豚さんたちは連れてきていないようで、ちゃんと自分の足で立っている。
「お母さん、あの人たちは?」
「ああ、子豚ちゃんたちはお留守番よぉ」
「そっか。良かった……」
ルーちゃんの言葉の意味はよく分からないが、里の中でアレをしていないというのはいいことなのだろう。
あれ? いや、待てよ? 本当にいないのか?
うーん、まあいいか。
「そういえば、新しい小屋も建ったんですね」
「あら? それのことですかぁ?」
「はい」
「それは、私と子豚ちゃんたちの休憩所ですよぉ」
「え?」
「エルフはあまり素質のある人はいないんですけどぉ、何人かいたんですよぉ」
「……」
「でも、外ではやめてくれって長老様が言うんですぅ」
「……」
「そうしたら子豚ちゃんたちが建ててくれたんですぅ」
「ええぇ」
◆◇◆
それからすぐにリエラさんと別れ、私はインゴールヴィーナさんのところへやってきた。私はインゴールヴィーナさんにどうしても確認しておきたいことがあるのだ。
「フィーネ殿、久しいのぉ」
「お久しぶりです」
「うん? 何やら随分と雰囲気が変わったのぉ」
「はい。存在進化をしました。それと、精霊神様から加護を賜りました」
「なんと! 聖女にして恵みの花乙女というだけでも前代未聞だというのに、存在進化をしたうえに精霊神様の加護じゃと!?」
インゴールヴィーナさんは思わず立ち上がり、叫ぶような口調で確認してきた。
「ええと、はい。そうですね」
すっかり忘れていたが、そういえば私は恵みの花乙女なんてものもやっていたんだった。
たしか、世界中を旅して瘴気やら毒やらを浄化するお仕事だったね。もうすっかり忘れていたけれど、結果的にはしっかりお役目を果たしているのではないだろうか。
「そうかそうか。それは……素晴らしいのう」
インゴールヴィーナさんはしみじみといった様子でそう言うと、ボスッという音を立てて椅子に腰を下ろした。
「して、わざわざこの里に来たのには理由があるのじゃろう? まさか、単にルミアの里帰りというわけではあるまい?」
「はい。インゴールヴィーナさんに、聞きたいことがあります」
「ふむ。なんじゃ?」
「まず、伝説の四龍王についてです」
「ふむ。何が知りたいのじゃ?」
「四龍王はかつて人々の守り神のような存在であったと聞いています。それが大魔王と戦って敗れ、大魔王の意のままに動く魔物になったと」
「うむ。そう伝えられておるな」
「その当時のことを、インゴールヴィーナさんは知りませんか?」
「む? 何を言っておるのじゃ。四龍王の時代は儂が生まれるよりもはるか昔の話じゃ」
「え? あ、そうなんですか……。でも、冥龍王とは戦ったんですよね?」
「そうじゃな。……そなたは四龍王と冥龍王の関係を聞きたいというのじゃな?」
「はい」
「よかろう。儂とて全てを知っておるわけではないが、知っている範囲のことは話そう」
「ありがとうございます」
「まず四龍王と冥龍王は、そなたの予想どおり同格の存在じゃったと伝えられておる」
なるほど、やはりそうか。
「じゃが、魔物と化した時期には大きな違いがある。儂も理由は知らぬが、冥龍王と聖龍王は大魔王との戦いには参加しなかったと聞いておる」
「聖龍王?」
「うむ。龍王とは本来六柱存在したのじゃ。そのうち四龍王は大魔王の時代に、冥龍王は三千年ほど前に理性を失って魔物と化したと言われておる。最後に聖龍王じゃが……」
インゴールヴィーナさんはここで言葉を濁した。
「え? 聖龍王はどうなったんですか?」
「うむ。よく分からんのじゃ。少なくとも儂が生きている間にその存在が確認されたという話は聞かないのう」
ええと? 失踪したってこと?
でも知らないのであればこれ以上は聞いても無駄だろう。
「じゃあ、冥龍王について教えてください。前にこの里の地下で冥龍王の分体と戦ったとき、冥龍王は黒い霧のようなものを噴き出してアンデッドを生み出していました」
「うむ。奴は闇の力に秀でた龍王じゃ。アンデッドを作り出すなど、造作もないことじゃろう」
なるほど。だが、私にはその答えが正しいとはどうしても思えない。
「インゴールヴィーナさん、あれは本当に【闇属性魔法】なんですか?」
ちなみにやはり私とルーちゃん以外にはこの里の象徴である精霊樹とこの森は見えなかったようで、手を繋いで森に入ったとき、シズクさんはものすごく驚いていた。
もっとも前回来たときはただの吸血鬼だったわけで、そんな私がどうして見えたのかはよく分からないのだけれど。
でも今の私は妖精吸血鬼で、精霊神様の加護だっていただいている。だからもうこの里に来る資格もばっちりなはずだ。
さて、そんな久しぶりの白銀の里だが、なんというかあまり雰囲気が変わっていない。
ただ、以前は見かけなかった大きな小屋が里の中心に近い場所に建てられている。
「あらぁ? 聖女様、ようこそお越しくださいましたぁ。ルミアも、いらっしゃい」
「あ、リエラさん」
里に入った私たちをリエラさんが出迎えてくれた。
この里にマッチョな子豚さんたちは連れてきていないようで、ちゃんと自分の足で立っている。
「お母さん、あの人たちは?」
「ああ、子豚ちゃんたちはお留守番よぉ」
「そっか。良かった……」
ルーちゃんの言葉の意味はよく分からないが、里の中でアレをしていないというのはいいことなのだろう。
あれ? いや、待てよ? 本当にいないのか?
うーん、まあいいか。
「そういえば、新しい小屋も建ったんですね」
「あら? それのことですかぁ?」
「はい」
「それは、私と子豚ちゃんたちの休憩所ですよぉ」
「え?」
「エルフはあまり素質のある人はいないんですけどぉ、何人かいたんですよぉ」
「……」
「でも、外ではやめてくれって長老様が言うんですぅ」
「……」
「そうしたら子豚ちゃんたちが建ててくれたんですぅ」
「ええぇ」
◆◇◆
それからすぐにリエラさんと別れ、私はインゴールヴィーナさんのところへやってきた。私はインゴールヴィーナさんにどうしても確認しておきたいことがあるのだ。
「フィーネ殿、久しいのぉ」
「お久しぶりです」
「うん? 何やら随分と雰囲気が変わったのぉ」
「はい。存在進化をしました。それと、精霊神様から加護を賜りました」
「なんと! 聖女にして恵みの花乙女というだけでも前代未聞だというのに、存在進化をしたうえに精霊神様の加護じゃと!?」
インゴールヴィーナさんは思わず立ち上がり、叫ぶような口調で確認してきた。
「ええと、はい。そうですね」
すっかり忘れていたが、そういえば私は恵みの花乙女なんてものもやっていたんだった。
たしか、世界中を旅して瘴気やら毒やらを浄化するお仕事だったね。もうすっかり忘れていたけれど、結果的にはしっかりお役目を果たしているのではないだろうか。
「そうかそうか。それは……素晴らしいのう」
インゴールヴィーナさんはしみじみといった様子でそう言うと、ボスッという音を立てて椅子に腰を下ろした。
「して、わざわざこの里に来たのには理由があるのじゃろう? まさか、単にルミアの里帰りというわけではあるまい?」
「はい。インゴールヴィーナさんに、聞きたいことがあります」
「ふむ。なんじゃ?」
「まず、伝説の四龍王についてです」
「ふむ。何が知りたいのじゃ?」
「四龍王はかつて人々の守り神のような存在であったと聞いています。それが大魔王と戦って敗れ、大魔王の意のままに動く魔物になったと」
「うむ。そう伝えられておるな」
「その当時のことを、インゴールヴィーナさんは知りませんか?」
「む? 何を言っておるのじゃ。四龍王の時代は儂が生まれるよりもはるか昔の話じゃ」
「え? あ、そうなんですか……。でも、冥龍王とは戦ったんですよね?」
「そうじゃな。……そなたは四龍王と冥龍王の関係を聞きたいというのじゃな?」
「はい」
「よかろう。儂とて全てを知っておるわけではないが、知っている範囲のことは話そう」
「ありがとうございます」
「まず四龍王と冥龍王は、そなたの予想どおり同格の存在じゃったと伝えられておる」
なるほど、やはりそうか。
「じゃが、魔物と化した時期には大きな違いがある。儂も理由は知らぬが、冥龍王と聖龍王は大魔王との戦いには参加しなかったと聞いておる」
「聖龍王?」
「うむ。龍王とは本来六柱存在したのじゃ。そのうち四龍王は大魔王の時代に、冥龍王は三千年ほど前に理性を失って魔物と化したと言われておる。最後に聖龍王じゃが……」
インゴールヴィーナさんはここで言葉を濁した。
「え? 聖龍王はどうなったんですか?」
「うむ。よく分からんのじゃ。少なくとも儂が生きている間にその存在が確認されたという話は聞かないのう」
ええと? 失踪したってこと?
でも知らないのであればこれ以上は聞いても無駄だろう。
「じゃあ、冥龍王について教えてください。前にこの里の地下で冥龍王の分体と戦ったとき、冥龍王は黒い霧のようなものを噴き出してアンデッドを生み出していました」
「うむ。奴は闇の力に秀でた龍王じゃ。アンデッドを作り出すなど、造作もないことじゃろう」
なるほど。だが、私にはその答えが正しいとはどうしても思えない。
「インゴールヴィーナさん、あれは本当に【闇属性魔法】なんですか?」
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