499 / 625
欲と業
第十一章第20話 ルミアの悩み
しおりを挟む
私たちが洞窟を出ると、すでに夜の帳が下りていた。そのまま里に戻った私たちはリエラさんとも合流し、少し遅めの夕食をいただいている。
「あらぁ? 聖女様ったら、もっと食べないと大きくなれませんよぉ?」
いやいや。リエラさんだってスリム体型じゃないか。そりゃあ、私よりは背も高いし胸だってあるけどさ。
「たくさん食べるのが、健康の秘訣ですよぉ。ほら、もっと食べないとぉ」
「お主が食べすぎなんじゃ」
そう言ってトナカイ肉のステーキがこんもりと盛られたお皿を勧めてくるリエラさんにインゴールヴィーナさんが呆れた様子でそうツッコミを入れる。
「そんなことありませんよぉ。ほら、うちのルミアだって……あらぁ? 食欲がなさそうね?」
「あれのどこがじゃ!」
ルーちゃんの前には食べ終えたお皿が五皿ほど積まれているのをみたインゴールヴィーナさんがまたしてもツッコミを入れる。
だが、たしかにルーちゃんにしてはあの量は少ない。
「ルーちゃん、何かありましたか?」
「え? そんなこと……」
何やら浮かない表情だ。どうしたのだろうか?
「ほら、お母さんに相談してみなさい?」
「それは……」
ルーちゃんはそう言って俯くと、目の前のお皿からトナカイのステーキを摘まんで口に運ぶ。それを見たインゴールヴィーナさんはうんざりとした表情になった。
「ルミア? 相談できない悩みなの?」
「……」
ルーちゃんは無言でステーキを口に運んでいる。
「そう。じゃあ、あとでいらっしゃい」
「……うん」
よく分からないが、あれで会話が成立しているようだ。
さすがは親子だ。
きっとリエラさんに任せておけば元気も出るに違いない。
そう考えた私は自分のステーキを口に運ぶ。
うん。やっぱり美味しいね。すごく淡白な味だけれどぎゅっとうま味が詰まっていて、噛めば噛むほどそれが口いっぱいに広がる。しかもこのあたりの名産らしいコケモモを使って作られた甘酸っぱいソースが絶妙にその味を引き立ててくれている。
その土地に行ってその土地ならではの食べ物を味わう。これぞ旅の醍醐味といったところだろう。
あとは温泉があれば最高なのだが、この里には残念ながら源泉は湧いていない。同じ島のあちこちに温泉が湧いているのだから、この里にも湧いていてくれればいいのにね。
◆◇◆
「お母さん……」
「どうしたの? ルミア」
「うん、あのね……」
食事を終え、フィーネたちが自室に戻り人数の減った食卓にはリエラとルミア、そしてインゴールヴィーナが残っていた。インゴールヴィーナは気を遣って席を外そうとしたのだが、リエラが同席を依頼したのだ。
「あたし、姉さまのお役に立ててないんじゃないかって……。助けてもらって、レイアを探すのだって手伝ってもらってるのに」
苦しそうに語るルミアをリエラは母親らしい優しい目で見守っている。
「この前炎龍王と戦ったときなんてあたしは戦いの邪魔だって……」
「ふむ。じゃが、炎龍王と戦える者なぞそうはおるまいて。フィーネ殿が強すぎるだけで、ルミアとて弱いわけではないじゃろう」
「でもっ! あたしは姉さまと一緒に! 姉さまのお役に!」
目に涙をためてルミアは叫んだ。そんなルミアをリエラは後ろからそっと優しく抱きしめる。
「ルミア、焦ってはダメよ。それに、聖女様はルミアのことを役立たずだなんて思っていないわ。その証拠に、聖女様はここに残れだなんて言っていないでしょう?」
「でも! でもっ!」
ルミアの目からは涙が零れ落ちる。
「ふむ。じゃが、エルフのルミアには無理じゃろうな」
「そんな!」
「焦るでない。話は最後まで聞くのじゃ」
「あ……」
「そなたは精霊との契約に成功したのじゃろう? であれば、その精霊を育ててハイエルフへと存在進化することが一番の近道じゃな」
「でも……」
「あともう一つは、精霊弓士に転職することじゃな」
「え? なんですか? それ?」
「精霊と契約した者のみがなれる戦闘職じゃ」
「そんな職業があったなんて……」
「まあ、普通は百歳くらいでなるものじゃからな。そなたが知らされていなくてもなんの不思議もないのう」
「あたしなんかがなれるんですか?」
「精霊弓士となるには精霊と契約し、【弓術】のスキルをレベル3とすることが必要じゃのう」
「あたし、なれます! 【弓術】、レベル3です!」
「ふむ。よく努力したのじゃな」
「そうよ。よく頑張ったわね」
「あ……」
二人に褒められ、ルミアはハッとした表情を浮かべた。
「なら、今のうちに転職するかの?」
「はい! お願いしますっ!」
ルミアは二つ返事でそう答えたのだった。
「あらぁ? 聖女様ったら、もっと食べないと大きくなれませんよぉ?」
いやいや。リエラさんだってスリム体型じゃないか。そりゃあ、私よりは背も高いし胸だってあるけどさ。
「たくさん食べるのが、健康の秘訣ですよぉ。ほら、もっと食べないとぉ」
「お主が食べすぎなんじゃ」
そう言ってトナカイ肉のステーキがこんもりと盛られたお皿を勧めてくるリエラさんにインゴールヴィーナさんが呆れた様子でそうツッコミを入れる。
「そんなことありませんよぉ。ほら、うちのルミアだって……あらぁ? 食欲がなさそうね?」
「あれのどこがじゃ!」
ルーちゃんの前には食べ終えたお皿が五皿ほど積まれているのをみたインゴールヴィーナさんがまたしてもツッコミを入れる。
だが、たしかにルーちゃんにしてはあの量は少ない。
「ルーちゃん、何かありましたか?」
「え? そんなこと……」
何やら浮かない表情だ。どうしたのだろうか?
「ほら、お母さんに相談してみなさい?」
「それは……」
ルーちゃんはそう言って俯くと、目の前のお皿からトナカイのステーキを摘まんで口に運ぶ。それを見たインゴールヴィーナさんはうんざりとした表情になった。
「ルミア? 相談できない悩みなの?」
「……」
ルーちゃんは無言でステーキを口に運んでいる。
「そう。じゃあ、あとでいらっしゃい」
「……うん」
よく分からないが、あれで会話が成立しているようだ。
さすがは親子だ。
きっとリエラさんに任せておけば元気も出るに違いない。
そう考えた私は自分のステーキを口に運ぶ。
うん。やっぱり美味しいね。すごく淡白な味だけれどぎゅっとうま味が詰まっていて、噛めば噛むほどそれが口いっぱいに広がる。しかもこのあたりの名産らしいコケモモを使って作られた甘酸っぱいソースが絶妙にその味を引き立ててくれている。
その土地に行ってその土地ならではの食べ物を味わう。これぞ旅の醍醐味といったところだろう。
あとは温泉があれば最高なのだが、この里には残念ながら源泉は湧いていない。同じ島のあちこちに温泉が湧いているのだから、この里にも湧いていてくれればいいのにね。
◆◇◆
「お母さん……」
「どうしたの? ルミア」
「うん、あのね……」
食事を終え、フィーネたちが自室に戻り人数の減った食卓にはリエラとルミア、そしてインゴールヴィーナが残っていた。インゴールヴィーナは気を遣って席を外そうとしたのだが、リエラが同席を依頼したのだ。
「あたし、姉さまのお役に立ててないんじゃないかって……。助けてもらって、レイアを探すのだって手伝ってもらってるのに」
苦しそうに語るルミアをリエラは母親らしい優しい目で見守っている。
「この前炎龍王と戦ったときなんてあたしは戦いの邪魔だって……」
「ふむ。じゃが、炎龍王と戦える者なぞそうはおるまいて。フィーネ殿が強すぎるだけで、ルミアとて弱いわけではないじゃろう」
「でもっ! あたしは姉さまと一緒に! 姉さまのお役に!」
目に涙をためてルミアは叫んだ。そんなルミアをリエラは後ろからそっと優しく抱きしめる。
「ルミア、焦ってはダメよ。それに、聖女様はルミアのことを役立たずだなんて思っていないわ。その証拠に、聖女様はここに残れだなんて言っていないでしょう?」
「でも! でもっ!」
ルミアの目からは涙が零れ落ちる。
「ふむ。じゃが、エルフのルミアには無理じゃろうな」
「そんな!」
「焦るでない。話は最後まで聞くのじゃ」
「あ……」
「そなたは精霊との契約に成功したのじゃろう? であれば、その精霊を育ててハイエルフへと存在進化することが一番の近道じゃな」
「でも……」
「あともう一つは、精霊弓士に転職することじゃな」
「え? なんですか? それ?」
「精霊と契約した者のみがなれる戦闘職じゃ」
「そんな職業があったなんて……」
「まあ、普通は百歳くらいでなるものじゃからな。そなたが知らされていなくてもなんの不思議もないのう」
「あたしなんかがなれるんですか?」
「精霊弓士となるには精霊と契約し、【弓術】のスキルをレベル3とすることが必要じゃのう」
「あたし、なれます! 【弓術】、レベル3です!」
「ふむ。よく努力したのじゃな」
「そうよ。よく頑張ったわね」
「あ……」
二人に褒められ、ルミアはハッとした表情を浮かべた。
「なら、今のうちに転職するかの?」
「はい! お願いしますっ!」
ルミアは二つ返事でそう答えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる