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欲と業
第十一章第24話 グレンド商会
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「申し訳ございませんでした!」
そう謝罪し、ブーンからのジャンピング土下座を決めたのはグレンド商会の会長ヨハン・グレンドさんだ。
ちなみに採点は6点だ。演技の流れもいまいちだったし、細かいことを言うなら指先にもっと気を遣わないといい演技はできないと思う。
「神の御心のままに」
いつもの言葉でヨハンさんを起こすと、私はそのままソファーに座る。クッション性も良く座り心地が抜群なので、きっと高級なソファーなのだろう。
ちなみにここは市場にあるグレンド商会の建物の一室だ。
あの因縁をつけてきた男たちはこのグレンド商会の関係者で、つまりここは彼らの本拠地というわけだ。
「それで、どうして私たちを襲ってきたんですか?」
「はい。我々はラインス商会から様々な嫌がらせを受けているのです。今回、聖女様が馬車をお預けになられていたホテル・エルムデンを廃業に追い込んだのも、直接手を下したのはそのラインス商会だと我々は考えているのです」
うん?
「待て。あのホテルが廃業になったのはハスラングループに反ハスラングループ連合が嫌がらせをしたからと聞いたぞ? ラインス商会と何か関係があるのか?」
「嫌がらせだなんて! 我々は事実を伝えただけです! ハスラングループは聖女様のご意向に反して聖女様の生み出された種を高額で販売しており、それを聖女様に咎められたと」
「それはまあ、そうですが……」
「やはり! にもかかわらず、ハスラングループは都合の悪い事実を揉み消そうとあちこちに手を回しているのです。その一環として、ハスラングループと距離を置こうとしたホテル・エルムデンに散々嫌がらせをしたのです」
「ええと、すみません。話がよくわからないのですが、ラインス商会とハスラングループはどういう関係なんですか?」
「はい。ラインス商会というのはエルムデンにおけるハスラングループの商会の一つでして、主に穀物や飼料を取り扱っております。奴らはホテル・エルムデンに対してハスラングループ側に留まるように要求し、それを拒否したホテル・エルムデンに対して徹底的な嫌がらせをしたのです。飼葉を売らず、穀物を売らず、さらにホテル・エルムデンの取引先にも圧力を掛けて仕入れを徹底的に妨害しました」
「え? 他に売っている商会はないんですか?」
「もちろんございます。そして彼らは当然、商機とみて動きました」
「では、どうして?」
「それが、なぜかそういった商会の会長やその家族が夜道で襲われるようになりました。最もひどいものだと、会長の妻が川で遺体となって見つかったこともあります」
「ええぇ」
なんてひどいことを!
「そうして食材と飼葉を一切仕入れられなくなったホテル・エルムデンの支配人は、とうとう裏社会の連中から飼葉を仕入れたようなのです。しかしその飼葉には……」
「……」
いやいやいや。いくらなんでもやりすぎだ。
「なぜ、官憲は動かないのだ?」
「ラインス商会はハスラングループです。ハスラングループに味方する官僚は多く、裁判官だってハスラングループには頭が上がりません」
「ええぇ」
そこまでいくと、この国は実質アスランさんが裏から支配していると言っても過言ではないのではないだろうか?
ああ、そうか。だから迎賓館にフリーパスで入ってくることができたのか。
うーん、これはどうしたら解決するんだろうか?
考えてもさっぱりわからないぞ。
そんな私の心中を察してくれたのか、クリスさんが助け船を出してくれる。
「フィーネ様、こういったことは我々が関与すべき話ではありません。ブルースター共和国にはブルースター共和国の法がございます。フィーネ様は世界聖女保護協定によって守られているお立場ではありますが、ブルースター共和国の国民ではございません。ブルースター共和国のことはブルースター共和国の国民に任せるべきです」
なるほど。それもそうか。
「それよりも早く馬車馬を入手することを考えましょう」
「そうですね」
「そういうことでしたら! ぜひ、我が商会にお任せください」
「え?」
「我が商会は馬を取り扱っております。そしてあれほどまでに厳重に守らせていたのは、我が商会で聖女様に献上しようと最高の馬車馬をご用意していたからなのです」
「はぁ。献上、ですか?」
「そのとおりでございます。我々といたしましても、この事件について胸を痛めておりました。しかしそのようなことで聖女様の神聖なる旅路が止まってしまうなどあってはなりません。そこで我が商会の総力を挙げて最高の馬を確保いたしました。どうか我々の馬をお使いいただけませんでしょうか?」
「はぁ」
そういえばこの国の人たちって、やたらと聖女様が大好きなんだったね。
「ええと、無料でいただく理由がありませんのでお金をお支払いしますよ」
「そんな! 聖女様からお金をいただくなんてとんでもない! 聖女様に我が商会の馬をお使いいただくだけで、我々は天にも昇る想いでございます」
「え、でも……」
「どうか! どうか!」
ヨハンさんはこれでもかとお願いしてくる。
「フィーネ様、お受けしてもよろしいかと存じます。歴代の聖女様も各地でこういった寄進を受けていたとの記録がございます」
「はぁ。じゃあ、お願いします?」
「おお! ありがとうございます! 神に感謝を!」
そう言ってヨハンさんはブーンからのジャンピング土下座を決めた。
今回は指先までしっかり伸びていたし、演技の流れもスムーズだった。
なんだ、やればできるじゃないか。
そうだね。この演技なら7点をあげてもいいかもね。
「神の御心のままに」
そう謝罪し、ブーンからのジャンピング土下座を決めたのはグレンド商会の会長ヨハン・グレンドさんだ。
ちなみに採点は6点だ。演技の流れもいまいちだったし、細かいことを言うなら指先にもっと気を遣わないといい演技はできないと思う。
「神の御心のままに」
いつもの言葉でヨハンさんを起こすと、私はそのままソファーに座る。クッション性も良く座り心地が抜群なので、きっと高級なソファーなのだろう。
ちなみにここは市場にあるグレンド商会の建物の一室だ。
あの因縁をつけてきた男たちはこのグレンド商会の関係者で、つまりここは彼らの本拠地というわけだ。
「それで、どうして私たちを襲ってきたんですか?」
「はい。我々はラインス商会から様々な嫌がらせを受けているのです。今回、聖女様が馬車をお預けになられていたホテル・エルムデンを廃業に追い込んだのも、直接手を下したのはそのラインス商会だと我々は考えているのです」
うん?
「待て。あのホテルが廃業になったのはハスラングループに反ハスラングループ連合が嫌がらせをしたからと聞いたぞ? ラインス商会と何か関係があるのか?」
「嫌がらせだなんて! 我々は事実を伝えただけです! ハスラングループは聖女様のご意向に反して聖女様の生み出された種を高額で販売しており、それを聖女様に咎められたと」
「それはまあ、そうですが……」
「やはり! にもかかわらず、ハスラングループは都合の悪い事実を揉み消そうとあちこちに手を回しているのです。その一環として、ハスラングループと距離を置こうとしたホテル・エルムデンに散々嫌がらせをしたのです」
「ええと、すみません。話がよくわからないのですが、ラインス商会とハスラングループはどういう関係なんですか?」
「はい。ラインス商会というのはエルムデンにおけるハスラングループの商会の一つでして、主に穀物や飼料を取り扱っております。奴らはホテル・エルムデンに対してハスラングループ側に留まるように要求し、それを拒否したホテル・エルムデンに対して徹底的な嫌がらせをしたのです。飼葉を売らず、穀物を売らず、さらにホテル・エルムデンの取引先にも圧力を掛けて仕入れを徹底的に妨害しました」
「え? 他に売っている商会はないんですか?」
「もちろんございます。そして彼らは当然、商機とみて動きました」
「では、どうして?」
「それが、なぜかそういった商会の会長やその家族が夜道で襲われるようになりました。最もひどいものだと、会長の妻が川で遺体となって見つかったこともあります」
「ええぇ」
なんてひどいことを!
「そうして食材と飼葉を一切仕入れられなくなったホテル・エルムデンの支配人は、とうとう裏社会の連中から飼葉を仕入れたようなのです。しかしその飼葉には……」
「……」
いやいやいや。いくらなんでもやりすぎだ。
「なぜ、官憲は動かないのだ?」
「ラインス商会はハスラングループです。ハスラングループに味方する官僚は多く、裁判官だってハスラングループには頭が上がりません」
「ええぇ」
そこまでいくと、この国は実質アスランさんが裏から支配していると言っても過言ではないのではないだろうか?
ああ、そうか。だから迎賓館にフリーパスで入ってくることができたのか。
うーん、これはどうしたら解決するんだろうか?
考えてもさっぱりわからないぞ。
そんな私の心中を察してくれたのか、クリスさんが助け船を出してくれる。
「フィーネ様、こういったことは我々が関与すべき話ではありません。ブルースター共和国にはブルースター共和国の法がございます。フィーネ様は世界聖女保護協定によって守られているお立場ではありますが、ブルースター共和国の国民ではございません。ブルースター共和国のことはブルースター共和国の国民に任せるべきです」
なるほど。それもそうか。
「それよりも早く馬車馬を入手することを考えましょう」
「そうですね」
「そういうことでしたら! ぜひ、我が商会にお任せください」
「え?」
「我が商会は馬を取り扱っております。そしてあれほどまでに厳重に守らせていたのは、我が商会で聖女様に献上しようと最高の馬車馬をご用意していたからなのです」
「はぁ。献上、ですか?」
「そのとおりでございます。我々といたしましても、この事件について胸を痛めておりました。しかしそのようなことで聖女様の神聖なる旅路が止まってしまうなどあってはなりません。そこで我が商会の総力を挙げて最高の馬を確保いたしました。どうか我々の馬をお使いいただけませんでしょうか?」
「はぁ」
そういえばこの国の人たちって、やたらと聖女様が大好きなんだったね。
「ええと、無料でいただく理由がありませんのでお金をお支払いしますよ」
「そんな! 聖女様からお金をいただくなんてとんでもない! 聖女様に我が商会の馬をお使いいただくだけで、我々は天にも昇る想いでございます」
「え、でも……」
「どうか! どうか!」
ヨハンさんはこれでもかとお願いしてくる。
「フィーネ様、お受けしてもよろしいかと存じます。歴代の聖女様も各地でこういった寄進を受けていたとの記録がございます」
「はぁ。じゃあ、お願いします?」
「おお! ありがとうございます! 神に感謝を!」
そう言ってヨハンさんはブーンからのジャンピング土下座を決めた。
今回は指先までしっかり伸びていたし、演技の流れもスムーズだった。
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