勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第40話 オレンジスター公国

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「あ、見えてきましたね」
「はい、フィーネ様。あれがオレンジスター公国です」

 一週間ほどかけて山を越え、私たちはようやくオレンジスター公国の街壁が見える場所までやってきた。

 ルーちゃんの力があったにもかかわらずここまでの道中はかなり苦労したので、この道が使われなくなったのも納得だった。

 とはいえ馬車でぐるっとエルムデンを回るルートだと二週間以上がかかるそうなので、それでも一応は時間短縮になっている。

「クリスさん、オレンジスター公国というのはどういう国なんですか?」
「私も詳しくは存じませんが、海に面した町ですので海産物が有名だとは聞いています」
「そうなんですか」
「はい。何しろあまりにも僻地にありますので」
「ああ、それもそうですね」

 だからこそ、革命が起きたときにもそのままの体制が維持されたのだろう。

 そんなことを話しているうちに、私たちは町の門の前にやってきた。

「ん? 旅人? 珍しいな。何者だ? 通行証を見せな……さ……も、もしや、せい、じょ、さま?」
「ええと、はい。一応、そう呼ばれていますね」
「神に感謝を!」

 門番さんはそう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 うん。中々動きも機敏だったし、これは高得点をあげてもいいだろう。

 そうだね……8点かな。演技の繋ぎの部分にもっと気を配ると高得点が狙えるのではないだろうか?

「神の御心のままに」

 と、いつもどおりそんなことを考えているとはおくびにも出さずに起き上がってもらう。

「聖女様! ようこそ我らがオレンジスター公国へ! さあ、どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」

 そうして私たちは門番さんに案内され、門に併設された建物の応接室らしい部屋に案内されたのだった。

◆◇◆

 応接室に設えられたふかふかのソファーに座ってしばらく待っていると迎えの馬車がやってきた。

 私たちはその馬車に乗り、この国の国家元首であるオレンジスター公の待つお城へと向かう。

 その道中に馬車の窓から町の風景を見てみたのだが、どうにも雰囲気が暗いような気がする。

「なんだか、雰囲気が暗くないですか?」
「そうですね。やはり魔物の影響でしょうか? 種はまだここまで届いていないでしょうし」
「ああ、そうですね。早く種を植えて、暴れている魔物たちも解放してあげましょう」
「はい」

 そんなことを話しているうちに、私たちを乗せた馬車はお城に到着した。

 私たちが馬車を降りると目の前には赤いじゅうたんが敷かれており、何やらごてごてした飾りを身に着けた衛兵たちが槍や楽器を持ってずらりと並んでいる。

 楽器を持った衛兵たちが音楽を奏で、槍を持った衛兵は穂を上に向けて敬礼のようなポーズをしている。

「フィーネ様、行きましょう」
「はい」

 突然の訪問なのに王様が公式訪問したみたいですごい、というかちょっと怖いかもしれない。

 ブルースター共和国の人たちはものすごく聖女様が大好きだったけれど、もしかするとこの国の人たちもそうなのかもしれない。

 そうして絨毯の上をクリスさんのエスコートで歩いていくと、その先にはごてごてと色々な飾りを身に着けたとても若い男性が待っていた。

「聖女様、ようこそ我がオレンジスター公国にお越しくださいました。わたくしめはジルベール七世、オレンジスター公でございます」
「はい。私はフィーネ・アルジェンタータと言います」
「聖女様のご来訪、我がオレンジスター公国一同、心より歓迎申し上げます」

 それからジルベール七世は大きく息を吸い込んだ。

「神のお導きに!」

 ジルベール七世が腕を広げ、ブーンのポーズを取った。すると槍を立てていた衛兵さんたちも楽器を持っていた衛兵たちもいつの間にか持っていたものを脇に置いており、一斉にブーンのポーズを取っている。

 すごい。一糸乱れぬ演技だ。

「感謝を!」

 ジルベール七世がキレのある動きでジャンピング土下座を決めると、それとぴったり合わせるかのように衛兵たちもジャンピング土下座を決める。

 これは素晴らしい。完璧、いや、ほぼ完璧な演技だった。だが惜しい。あとほんの少しだった。

 惜しいのは衛兵たちのジャンピング土下座のキレの部分だ。

 もちろん密集していてやりにくいという面もあるだろう。脇に槍や楽器があってやりにくいということもあるだろう。

 だが、準備できる時間はそれでもあったはずだ。きちんとスペースを取るなどして、次回こそは完ぺきな演技を目指してもらいたい。

 9点!
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