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欲と業
第十一章第46話 母の想い
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涙を流しながら跪くドロテさんをどうにか落ち着け、話を聞いてみた。するとどうやら先ほどの話には嘘がないということが分かった。
それからドロテさんがここにいる理由だが、どうやら息子さんに命令されたからとのことだった。
というのもドロテさんは息子さんに犯罪行為から足を洗うように説得しようとしたものの失敗し、最終的に隷属の呪印を入れられてしまったということのようだ。
隷属の呪印を施された前後のことはよく覚えていないそうだが、最終的に息子さんから隷属の呪印を使って与えられた命令はたったの二つだった。
一つは修道院で修道生活をすること、そしてもう一つは息子さんの説得をあきらめ、二度と会いに来ないことだ。
自分の母親を隷属の呪印で操るなんて、と思わないでもない。
だがこれはきっとその息子さんがドロテさんのことを大事にしているからこその行動なのではないかと思うのだ。
だって、その息子さんは自分がいつ処刑されるか分からない立場であることは理解しているはずだ。それなのにドロテさんを自分が直接保護していたら、いずれ処刑されるときにはドロテさんだって一緒に処刑されてしまうに違いない。
だがドロテさんが修道院で罪を後悔し、神に祈る生活を続けているのであれば処刑するという話にまではならないはずだ。
だから息子さんはドロテさんを守るために修道院に入れ、ドロテさんだけは生きていられるようにしたのではないだろうか?
もっともそんな優しい気持ちを持っているのであれば、自分がドロテさんを大切に想っているように、奴隷にした人たちや薬でおかしくなってしまった人たちを大切に想っている人たちだっているということに気付いてもらいたいものだが……。
ルーちゃんはきっとドロテさんに対しても文句を言いたかっただろうが、何も言わずにその話をじっと、ただただじっと聞いていたのが印象的だった。
きっと、ルーちゃんもこの人を責めたところで何も変わらないと理解しているのだと思う。
私よりも年下なのにこういったところは大人で、ものすごく冷静に判断しているのだ。
ならば私たちがやるべきことは決まっている。ドロテさんの息子を止め、ルーちゃんの妹さんの行方を知っているかどうかを確認するのだ。
「それでドロテさん、息子さんたちはどこにいるんですか?」
「それが、すみません。あの子たちは居場所を転々と変えていますからきっと私の知っている場所にはもう……」
「そうですか」
うーん。この広いスラム街をしらみつぶしに探すというのは大変そうだ。そうなればあの殺人鬼たちと戦うことになり、彼らは死ぬまで戦うので殺さざるをえない。
悩んでいると、クリスさんが期待するような目で私を見ている。
「あれ? クリスさん、どうかしましたか?」
「フィーネ様、隷属の呪印が関係しているのであればイルミシティでなさったあの邪悪な存在を探知するあの魔法で見つけることはできませんか?」
「え?」
ええと、なんだっけ? そんなことあったっけ?
「フィーネ様がイルミシティでルミアを見つけて下さったときの魔法のことです」
「あ……」
そういえば、そんなことあったような?
ええと、あのときはたしか【聖属性魔法】を使って【魔力操作】で魔力をこう、レーダーみたいにしてくるくる回すイメージだった気がする。
あとはその聖属性の魔力を邪魔するものを探すんだったよね。
「わかりました。やってみます」
私はあのときやったのをイメージして聖属性の魔力を飛ばした。
「あっと!」
「フィーネ様?」
クリスさんは心配そうに私のほうを見つめている。
「あ、すみません。思ったよりも遠くに飛んじゃいました。あのときと比べてずいぶん魔力が上がっているんでした」
「そうですね。フィーネ様は本当にお強くなられましたから」
何やら親が成長を喜んでいるような目で私を優しく見ているが、私としてはなんとも微妙な気分だ。
クリスさんだってあのころは脳筋くっころお姉さんだったのだ。だから、私のほうこそクリスさんに成長したと言ってやりたい。
「フィーネ様?」
「あ、はい。ちょっと待っていてください。もう一度やってみます」
今度はしっかりと出力を絞り、微細な聖属性の魔力を飛ばしてやった。そうしてぐるりとスラム街を走査していくと、あのときと同じように聖属性を邪魔するおかしな気配を見つけた。
「あ! ありました! 場所は分かります!」
「姉さまっ! 行きましょう!」
「はい。クリスさん、シズクさん」
「はい」
「もちろんでござるよ」
私たちが席を立ち、応接室を出て行こうとするとドロテさんが私たちの前に立ちふさがった。
「ドロテさん?」
「聖女様! お願いします! どうか私を連れて行ってください! 愚かな息子のしたことですが、私がどうにか説得します。説得させてください!」
「でも、もしかすると今度は殺されるかもしれないんですよ?」
「息子であれば殺されても構いません。命を捨ててでも、間違ったことは止めてあげなければいけないのです。私が! 親が間違えたせいで息子は間違ったことを正しいと信じ、育ってしまったのです。ですからこれは、母親である私がやらなければいけないことなのです!」
ドロテさんの表情は真剣そのものだ。もういい大人なんだから親は関係ないと思うけれど、子供を想う親というのはそういうものなのかもしれない。
「……わかりました。どうか息子さんを止めてあげてください」
「はい! ありがとうございます!」
こうして私たちはドロテさんを連れ、おかしな反応のあった場所を目指すのだった。
それからドロテさんがここにいる理由だが、どうやら息子さんに命令されたからとのことだった。
というのもドロテさんは息子さんに犯罪行為から足を洗うように説得しようとしたものの失敗し、最終的に隷属の呪印を入れられてしまったということのようだ。
隷属の呪印を施された前後のことはよく覚えていないそうだが、最終的に息子さんから隷属の呪印を使って与えられた命令はたったの二つだった。
一つは修道院で修道生活をすること、そしてもう一つは息子さんの説得をあきらめ、二度と会いに来ないことだ。
自分の母親を隷属の呪印で操るなんて、と思わないでもない。
だがこれはきっとその息子さんがドロテさんのことを大事にしているからこその行動なのではないかと思うのだ。
だって、その息子さんは自分がいつ処刑されるか分からない立場であることは理解しているはずだ。それなのにドロテさんを自分が直接保護していたら、いずれ処刑されるときにはドロテさんだって一緒に処刑されてしまうに違いない。
だがドロテさんが修道院で罪を後悔し、神に祈る生活を続けているのであれば処刑するという話にまではならないはずだ。
だから息子さんはドロテさんを守るために修道院に入れ、ドロテさんだけは生きていられるようにしたのではないだろうか?
もっともそんな優しい気持ちを持っているのであれば、自分がドロテさんを大切に想っているように、奴隷にした人たちや薬でおかしくなってしまった人たちを大切に想っている人たちだっているということに気付いてもらいたいものだが……。
ルーちゃんはきっとドロテさんに対しても文句を言いたかっただろうが、何も言わずにその話をじっと、ただただじっと聞いていたのが印象的だった。
きっと、ルーちゃんもこの人を責めたところで何も変わらないと理解しているのだと思う。
私よりも年下なのにこういったところは大人で、ものすごく冷静に判断しているのだ。
ならば私たちがやるべきことは決まっている。ドロテさんの息子を止め、ルーちゃんの妹さんの行方を知っているかどうかを確認するのだ。
「それでドロテさん、息子さんたちはどこにいるんですか?」
「それが、すみません。あの子たちは居場所を転々と変えていますからきっと私の知っている場所にはもう……」
「そうですか」
うーん。この広いスラム街をしらみつぶしに探すというのは大変そうだ。そうなればあの殺人鬼たちと戦うことになり、彼らは死ぬまで戦うので殺さざるをえない。
悩んでいると、クリスさんが期待するような目で私を見ている。
「あれ? クリスさん、どうかしましたか?」
「フィーネ様、隷属の呪印が関係しているのであればイルミシティでなさったあの邪悪な存在を探知するあの魔法で見つけることはできませんか?」
「え?」
ええと、なんだっけ? そんなことあったっけ?
「フィーネ様がイルミシティでルミアを見つけて下さったときの魔法のことです」
「あ……」
そういえば、そんなことあったような?
ええと、あのときはたしか【聖属性魔法】を使って【魔力操作】で魔力をこう、レーダーみたいにしてくるくる回すイメージだった気がする。
あとはその聖属性の魔力を邪魔するものを探すんだったよね。
「わかりました。やってみます」
私はあのときやったのをイメージして聖属性の魔力を飛ばした。
「あっと!」
「フィーネ様?」
クリスさんは心配そうに私のほうを見つめている。
「あ、すみません。思ったよりも遠くに飛んじゃいました。あのときと比べてずいぶん魔力が上がっているんでした」
「そうですね。フィーネ様は本当にお強くなられましたから」
何やら親が成長を喜んでいるような目で私を優しく見ているが、私としてはなんとも微妙な気分だ。
クリスさんだってあのころは脳筋くっころお姉さんだったのだ。だから、私のほうこそクリスさんに成長したと言ってやりたい。
「フィーネ様?」
「あ、はい。ちょっと待っていてください。もう一度やってみます」
今度はしっかりと出力を絞り、微細な聖属性の魔力を飛ばしてやった。そうしてぐるりとスラム街を走査していくと、あのときと同じように聖属性を邪魔するおかしな気配を見つけた。
「あ! ありました! 場所は分かります!」
「姉さまっ! 行きましょう!」
「はい。クリスさん、シズクさん」
「はい」
「もちろんでござるよ」
私たちが席を立ち、応接室を出て行こうとするとドロテさんが私たちの前に立ちふさがった。
「ドロテさん?」
「聖女様! お願いします! どうか私を連れて行ってください! 愚かな息子のしたことですが、私がどうにか説得します。説得させてください!」
「でも、もしかすると今度は殺されるかもしれないんですよ?」
「息子であれば殺されても構いません。命を捨ててでも、間違ったことは止めてあげなければいけないのです。私が! 親が間違えたせいで息子は間違ったことを正しいと信じ、育ってしまったのです。ですからこれは、母親である私がやらなければいけないことなのです!」
ドロテさんの表情は真剣そのものだ。もういい大人なんだから親は関係ないと思うけれど、子供を想う親というのはそういうものなのかもしれない。
「……わかりました。どうか息子さんを止めてあげてください」
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