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欲と業
第十一章第50話 暴走
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「あなたの負けです。無駄な抵抗は止めてください」
私は結界の中で首まで水に浸かっているフロランに向かってそう言った。
これで抵抗を止めてくれれば、もしかしたら情報を聞き出せるかもしれない。
だが、フロランはまだ諦めていないようだ。私のことを睨みつけると、着ているスーツの内側に手を差し入れた。
「こうなったら!」
フロランは何やら黒っぽい液体の入った小瓶を取り出すと、一気に呷った。
次の瞬間、フロランの体からどす黒い光が放たれた。
パリン!
「え?」
「そんな!」
「フィーネ殿の結界が!?」
なんと私の結界はその黒い光に耐えきれずに砕け散り、貯まっていた水があたりにぶちまけられた。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ!」
体中に黒い靄、いやもっとどす黒い、そう、闇そのものとでも言うべき何かを身に纏い、フロランは叫び声を上げる。
「聖女! 聖女! 聖女聖女聖女聖女ォォォ!」
フロランが私を睨んできた。その目は真っ赤に充血しており、とてもではないが正気とは思えない。
次の瞬間、フロランはものすごいスピードで私に向かって突撃してきた。
フロランの右の拳が私を襲うが、私はそれを防壁で防ぐ。
ドン、という鈍い音とともにフロランの拳は防壁によって受け止められた。だがその余波とでも言えばいいのだろうか?
防壁の真後ろ以外の部分に衝撃波のようなものが走り、建物の壁に半ドーナツ状の穴が開いた。
な、なんていう威力!
「聖女ォォォッ!」
フロランは血走った目で私を睨みながら、ただひたすらに防壁を殴り続けている。
ドシン、ドシンとすさまじい衝撃が走るが、今のところ防壁が突破されそうな気配はない。
「フィーネ様!」
「クリスさん! ルーちゃんとドロテさんを!」
「はい!」
クリスさんが駆けつけようとしていたが、まずは二人の救助を優先してもらう。
ルーちゃんは縄で縛られていて動けないし、ドロテさんに至ってはこの攻撃の巻き添えを喰らえば一撃で死んでしまうだろう。
「背中ががら空きでござるよ!」
私の防壁を殴り続けるフロランの背後をシズクさんがすさまじいスピードで駆け抜けていく。そのすれ違いざまにガンという硬い音がしたのだが、これはどういうことだろうか?
「なんでござるか? これは……」
シズクさんは怪訝そうにフロランを見ている。一方のフロランはというと、斬られたことにまるで気付いていない様子でひたすら私の結界を殴り続けている。
「シズクさん?」
「何かとてつもなく硬いものを斬ろうとしたような感触でござるよ」
斬られたフロランのほうを確認してみるが、たしかに血が流れている様子はない。
すると今度は光の矢が飛んできて、フロランの左の脇腹を直撃した。
あれは、ルーちゃんだ。
どうやらこちらはダメージを与えられたようで、わき腹からは血が流れ落ちている。
だがその傷もみるみるうちに塞がり、あっという間に元の状態に戻ってしまった。
スーツに空いた穴だけがルーちゃんの光の矢が命中したことを示している。
「そんなっ! せっかく効いたのに!」
ルーちゃんの驚く声が聞こえてくる。
「聖女ォォォォォォォ!」
一方のフロランはというと、相変わらず私の作った防壁を血走った目で殴り続けている。
どうやら回り込むということすら思いつかないようだ。
うーん、どうしよう?
ルーちゃんの矢が効いたということは、きっとあの闇は物理的な攻撃に対しては強いものの魔法による攻撃には弱いのかもしれない。
ということは、【聖女の口付】を使えばシズクさんの攻撃も通るのかな?
あとは、そうだね。傷が塞がるのは進化の秘術によるものに似ている気がする。
だとすると……。
「聖じ……カハッ」
突如目の前で防壁を殴っていたフロランが大量に吐血し、膝を突いた。それと同時にフロランを包み込んでいた闇が一気に霧散した。
あれ? ええと?
「ぐ、こ、この……」
フロランは震える手で再び懐から小瓶を取り出すと、一気に呷った。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
再びフロランの体から闇が噴出する。
「聖女ォォォォォォォ!」
立ち上がったフロランは私の防壁を殴り始めるが、数発殴ったところで再び吐血した。
今度の吐血量は先ほどよりもかなり多い。
そのまま血を吐ききったフロランは四つん這いの状態で荒い息をしている。
それから震える手で再び懐に手を差し入れ、小瓶を取り出した。
いやいや、それはもう致死量だろう。
そう思い、止めようとしたがその前にドロテさんが小瓶を持つフロランの震える腕を掴んだ。
小瓶が地面に転がり、ひびが入った小瓶からは怪しげな黒い液体が少しずつ漏れ出てくる。
「あ、あ……」
その小瓶を拾おうと手を伸ばすフロランの頬をドロテさんが平手で叩いた。
「フロラン! もう止めなさい」
「あ、が……」
「フロラン、ごめんなさい。お母さんが一緒だからね」
そう言ってドロテさんはフロランの体をぎゅっと抱きしめた。するとフロランの四肢から力が抜け、だらりとドロテさんにのしかかった。
体格差もあってかフロランを支えられないドロテさんはそのままのしかかられ、床に倒れてしまう。
「フロラン、もういいの。休みなさい。フロラン……」
ドロテさんはフロランを抱きしめたまま、優しくそう声を掛けたのだった。
私は結界の中で首まで水に浸かっているフロランに向かってそう言った。
これで抵抗を止めてくれれば、もしかしたら情報を聞き出せるかもしれない。
だが、フロランはまだ諦めていないようだ。私のことを睨みつけると、着ているスーツの内側に手を差し入れた。
「こうなったら!」
フロランは何やら黒っぽい液体の入った小瓶を取り出すと、一気に呷った。
次の瞬間、フロランの体からどす黒い光が放たれた。
パリン!
「え?」
「そんな!」
「フィーネ殿の結界が!?」
なんと私の結界はその黒い光に耐えきれずに砕け散り、貯まっていた水があたりにぶちまけられた。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ!」
体中に黒い靄、いやもっとどす黒い、そう、闇そのものとでも言うべき何かを身に纏い、フロランは叫び声を上げる。
「聖女! 聖女! 聖女聖女聖女聖女ォォォ!」
フロランが私を睨んできた。その目は真っ赤に充血しており、とてもではないが正気とは思えない。
次の瞬間、フロランはものすごいスピードで私に向かって突撃してきた。
フロランの右の拳が私を襲うが、私はそれを防壁で防ぐ。
ドン、という鈍い音とともにフロランの拳は防壁によって受け止められた。だがその余波とでも言えばいいのだろうか?
防壁の真後ろ以外の部分に衝撃波のようなものが走り、建物の壁に半ドーナツ状の穴が開いた。
な、なんていう威力!
「聖女ォォォッ!」
フロランは血走った目で私を睨みながら、ただひたすらに防壁を殴り続けている。
ドシン、ドシンとすさまじい衝撃が走るが、今のところ防壁が突破されそうな気配はない。
「フィーネ様!」
「クリスさん! ルーちゃんとドロテさんを!」
「はい!」
クリスさんが駆けつけようとしていたが、まずは二人の救助を優先してもらう。
ルーちゃんは縄で縛られていて動けないし、ドロテさんに至ってはこの攻撃の巻き添えを喰らえば一撃で死んでしまうだろう。
「背中ががら空きでござるよ!」
私の防壁を殴り続けるフロランの背後をシズクさんがすさまじいスピードで駆け抜けていく。そのすれ違いざまにガンという硬い音がしたのだが、これはどういうことだろうか?
「なんでござるか? これは……」
シズクさんは怪訝そうにフロランを見ている。一方のフロランはというと、斬られたことにまるで気付いていない様子でひたすら私の結界を殴り続けている。
「シズクさん?」
「何かとてつもなく硬いものを斬ろうとしたような感触でござるよ」
斬られたフロランのほうを確認してみるが、たしかに血が流れている様子はない。
すると今度は光の矢が飛んできて、フロランの左の脇腹を直撃した。
あれは、ルーちゃんだ。
どうやらこちらはダメージを与えられたようで、わき腹からは血が流れ落ちている。
だがその傷もみるみるうちに塞がり、あっという間に元の状態に戻ってしまった。
スーツに空いた穴だけがルーちゃんの光の矢が命中したことを示している。
「そんなっ! せっかく効いたのに!」
ルーちゃんの驚く声が聞こえてくる。
「聖女ォォォォォォォ!」
一方のフロランはというと、相変わらず私の作った防壁を血走った目で殴り続けている。
どうやら回り込むということすら思いつかないようだ。
うーん、どうしよう?
ルーちゃんの矢が効いたということは、きっとあの闇は物理的な攻撃に対しては強いものの魔法による攻撃には弱いのかもしれない。
ということは、【聖女の口付】を使えばシズクさんの攻撃も通るのかな?
あとは、そうだね。傷が塞がるのは進化の秘術によるものに似ている気がする。
だとすると……。
「聖じ……カハッ」
突如目の前で防壁を殴っていたフロランが大量に吐血し、膝を突いた。それと同時にフロランを包み込んでいた闇が一気に霧散した。
あれ? ええと?
「ぐ、こ、この……」
フロランは震える手で再び懐から小瓶を取り出すと、一気に呷った。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
再びフロランの体から闇が噴出する。
「聖女ォォォォォォォ!」
立ち上がったフロランは私の防壁を殴り始めるが、数発殴ったところで再び吐血した。
今度の吐血量は先ほどよりもかなり多い。
そのまま血を吐ききったフロランは四つん這いの状態で荒い息をしている。
それから震える手で再び懐に手を差し入れ、小瓶を取り出した。
いやいや、それはもう致死量だろう。
そう思い、止めようとしたがその前にドロテさんが小瓶を持つフロランの震える腕を掴んだ。
小瓶が地面に転がり、ひびが入った小瓶からは怪しげな黒い液体が少しずつ漏れ出てくる。
「あ、あ……」
その小瓶を拾おうと手を伸ばすフロランの頬をドロテさんが平手で叩いた。
「フロラン! もう止めなさい」
「あ、が……」
「フロラン、ごめんなさい。お母さんが一緒だからね」
そう言ってドロテさんはフロランの体をぎゅっと抱きしめた。するとフロランの四肢から力が抜け、だらりとドロテさんにのしかかった。
体格差もあってかフロランを支えられないドロテさんはそのままのしかかられ、床に倒れてしまう。
「フロラン、もういいの。休みなさい。フロラン……」
ドロテさんはフロランを抱きしめたまま、優しくそう声を掛けたのだった。
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