勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
549 / 625
正義と武と吸血鬼

第十二章第17話 ミサキへ

しおりを挟む
 それから二日後、アニキさんが一人の船長さんを連れて私たちの部屋を訪ねてきた。

「皆さん、この男がゴールデンサン巫国の船長チカナガ・コウノでやす」
「チカナガ・コウノだ。嬢ちゃんたちか? 俺の船に乗せて欲しいってのは」
「そうでござる。拙者はミヤコのシズク・ミエシロでござる」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「クリスティーナだ。それとこの子はルミアだ」
「おう。だがタダでって……ん? フィーネ・アルジェンタータ? って、もしかしてあの?」

 ん? あのってなんだ?

 よく分からずに首をかしげていると、チカナガさんがさらに質問をしてくる。

「嬢ちゃん、もしかしてスイキョウ様の?」
「え? ああ、はい。その話でしたら多分そうですね」
「そういうことか。分かった。そんならお代は要らねぇ。嬢ちゃんたちを運んだってだけで元は取れる」
「はぁ。ありがとうございます」

 元が取れるって、一体なんの話だろうか?

 よく分からないが私たちはチカナガさんの船にタダで乗せてもらえることになったのだった。

◆◇◆

 チカナガさんの船団は大量の荷物を積み込み、シュアンユーの港を出港した。積み荷は生糸や絹織物、陶磁器、香辛料といったで、ゴールデンサン巫国からの輸出品は硫黄や銅などの鉱物のほか、干しアワビや干しナマコなどといった海産物の干物もあるのだそうだ。

 密貿易と言っても別に怪しげな商品を運んでいるわけではなく、正規ではないルートで取引をしているということなのだろう。

 航海は至って順調で、魔物に襲われることもなく私たちは予定どおりサキモリの港が見えるところまでやってきた。

 ……ん? なんだかサキモリの港の様子がおかしいような?

 じっと目を凝らして見てみると、どうやら町のあちこちで工事をしているようだ。

 ええと? 再開発でもするのかな?

 そんなことを思ってみていると、サキモリの港から一艘の小舟がこちらに近づいてくる。

「止まりなさい!」
「こちらはコウノ商会第一船団の団長チカナガ・コウノだ! シュアンユーより交易品を持ち帰った! 入港許可を願いたい!」
「……コウノ商会第一船団の情報を確認した! だがサキモリへの入港は許可できない! 現在、サキモリの港は封鎖されており、いかなる船の入港も許可していない! コウノ商会第一船団はミサキへと向かうように」
「なんだって!? 一体なんで!」
「上からの命令である! 入港は認めない! ミサキへと向かうように!」
「くっ! 仕方ない。了解した! コウノ商会第一船団はこれよりミサキへと進路を変える。面舵一杯!」

 何だかよくわからないが、あの工事と何か関係があるのだろうか?

 水炊きと豚骨ラーメンを楽しみにしていたのだが……仕方がない。

 私たちは進路を南に変え、ミサキの町を目指すのだった。

◆◇◆

 それから海岸に近い場所を航行し、私たちはミサキの港に到着した。

「チカナガさん、ありがとうございました」
「いや、とんでもねぇ。またなんかあったらよろしくな」

 こうしてミサキに降り立った私たちがまず向かうのは食堂だ。今はちょうどお昼どきなので、ミサキ名物のキンメダイを食べようという算段だ。

 私たちは港の目の前にあるキンメ食堂に向かう。ここはチカナガさんに教えてもらった食堂で、新鮮なキンメダイが食べられるのだそうだ。

「ごめんくださーい」

 食堂の扉を開けて中に入ると、そこは大勢のお客さんで賑わっていた。

「はい、いらっしゃい。そこの窓際の席にどうぞ」

 食堂のお姉さんはそう言って私たちのすぐ近くの座敷席を指さした。

 うん。久しぶりの畳だ。いいね。

 私たちはさっそく畳の上に腰を下ろした。

 ああ、うん。これだよこれ。なんだか落ち着くなぁ。

「ご注文は?」

 すぐにお姉さんが注文を取りに来た。

「ええと、私はキンメ定食ご飯少なめで」
「拙者もキンメ定食。ご飯は普通で」
「あ、あたしは、超まんぷく定食!」
「私は……このキンメの煮つけ定食を。ご飯は普通で」

 やはりクリスさんはお刺身の入っていない定食を頼んでいる。

「はいよ。超まんぷく定食は量が多いけど大丈夫?」
「もちろんですっ! 足りないかもしれませんっ!」
「ええ? 本当? そっかぁ。それなら、こっちの大食い挑戦定食に挑戦する? おかずは超まんぷく定食四食分で、ご飯が一升。お味噌汁はおかわり自由だよ」
「それにしますっ!」
「いいの? 一時間以内に食べられたら無料だけど、食べきれなかった場合は金貨一枚だよ?」
「食べきれますっ!」
「払えないはナシだよ?」
「もちろんですっ!」
「はい。じゃあ、キンメ定食二つで一つがご飯少なめ、キンメの煮つけ定食が一つ、それから大食い挑戦定食一つね」
「はいっ!」
「かしこまりました。大将! 大食い挑戦定食入りまーす!」

 店員のお姉さんの声に、ざわついていた店内が一瞬静まり返ったのだった。

================
 皆さまあけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 本作は本年も変わらず毎週三回、火木日の 19:00 更新を予定しております。従いまして、次回更新は 2023/01/03 (火) 19:00 となります。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...