勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第18話 キンメ定食

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 しばらく待っていると私たちの食事が運ばれてきた。

 キンメ定食のおかずはお刺身、煮つけ、唐揚げ、柚子塩焼きで、あら汁とご飯、そしてお漬物のセットだ。

 クリスさんの頼んだキンメの煮つけ定食のおかずはなんと、丸ごと一匹分のキンメの煮つけだ。もちろんあら汁とご飯、お漬物がセットでついている。

 そしてルーちゃんの大食い挑戦定食だが、おかずの種類自体はキンメ定食と同じで、セットの内容も同じだ。

 問題はその量で、まずお刺身が丸ごと二匹分で、姿造りになっている。煮つけも丸ごと二匹分、唐揚げも二匹分だ。柚子塩焼きも二匹で、あら汁も何やら巨大な丼に並々と入っている。あとご飯が一升というのは注文するときに話していたが、マンガでしか見たことがないような山盛りになっている。

 ……うん。ルーちゃんなら普通に食べそうだ。見ているこっちは胸焼けしそうだけれど。

「いただきます」

 私はルーちゃんのことは気にせず、キンメ定食を味わうことにした。

 よし、まずはお刺身からいただこう。

 金目鯛の身は美しい桜色で、皮があぶってある。これは美味しそうだ。

 私はさっそく一切れを口の中に放り込む。

 うん。身は柔らかく、くせのない脂の甘みが感じられる。それとあぶった皮が香ばしいのもいいね。醤油とわさびは控えめにして食べるのがいいと思う。

 私はもう一切れをご飯と一緒に口の中に放り込む。

 ああ、うん。お刺身と言えばやはりご飯だ。どうしてこんなにお刺身とご飯は合うのだろうか?

 醤油の塩味と香り、そして金目鯛の脂がご飯の甘みと一体になり、幸せなハーモニーを奏でている。

 美味しい!

 続いて私は唐揚げをいただく。

 サクッという美味しい歯ごたえ。身はふっくらほくほくで、ショウガと醤油の香りがすっと鼻に抜けていく。噛めばうま味がぎゅっと溢れだし、から揚げのから揚げたる所以をまざまざと見せつけてくる。

 しっかりと咀嚼し、飲み込むと今度はご飯を口に入れる。やはりから揚げにもご飯だろう。

 揚げ物を食べるとどうしても口の中に油が残ってしまうものだが、ご飯はその残った油をから揚げのうま味ごと吸い取り、ご飯の甘みと相まって新たなる境地を開拓してくれる。

 そこに追加のから揚げを投入すればどうだ!

 もはやそこは美味しさのパラダイスだ。

 サクッとあつあつで、ついついはふはふしてしまう。やはりご飯とから揚げは切っても切れない。

 これぞまさに、マリアージュというやつだろう。

 続いて私は柚子塩焼きをいただく。

 少し冷めてきつつあるが、それでもほかほかと美味しそうな湯気を立ちのぼらせており、散らされた柚子の皮と相まってなんともいい香りがする。

 私は添えられた柚子を絞ってかけると、さっそく塩焼きをいただく。

 んん! これはいい香りだ!

 金目鯛のふっくらした食感と甘みのある脂、柚子果汁の酸味と香り、そして散らされた柚子の皮の香りが一体となってなんとも爽やかな風を吹かせてくる。塩も強すぎず、塩焼きだからこその金目鯛の素材の味を存分に味わえるのも素晴らしい。

 うん。ここはやはり、ご飯だろう。

 私はすぐさまご飯を口に運ぶ。

 うん。そうだよ。こういうのでいいんだよ。

 から揚げのときのようなパラダイスではない。だが、シンプルでいつまででも食べていられそうな安心する味とでも言えばいいのだろうか?

 毎日でも食べたい食の原風景、それがこの塩焼きとご飯の組み合わせだ。

 私はここで一口あら汁をいただく。

 これは!

 なんというか、すごくスッキリした出汁が出ている。味噌も濃すぎず、この上品な出汁を引き立てるような味に仕上がっている。

 うん。すごくさっぱりするね。何杯でも飲めそうな感じだ。

 続いて私は最後に残しておいた煮つけに箸をつける。

 うん。甘辛くて、想像どおりの美味しい煮つけだ。身もふわふわで、なんというか、ご飯が進む進む。

 私は夢中になって金目鯛の煮つけとご飯を交互に食べる。

 そして最後に再びあら汁を飲んで口の中をさっぱりさせる。

 と、ここで私は漬物を食べていなかったことを思い出した。

 私はたくあんを一切れ口に運び、ルーちゃんのほうを確認する。

 するとなんと!

 あれだけ大量にあった食べ物がもう無くなっているではないか!

「あれっ? 姉さま、お漬物は食べないんですか?」
「あ、はい。あげますね」
「わーいっ!」

 ルーちゃんは嬉しそうに私の漬物を受け取ると、ぺろりと食べてしまったのだった。

「あのっ、タダならもう一セット食べてもいいですか?」
「えっ?」
「お、お客様! こちらはお一人様一回限りとさせていただきます」
「ちぇーっ」

 ルーちゃんは残念そうにそう言ったのだった。
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