勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
558 / 625
正義と武と吸血鬼

第十二章第26話 精霊の島

しおりを挟む
 そうこうしているうちに私たちを乗せた船は進路を勝手に変え、精霊の島を左手に見るような方向に進み始めた。

「あ! カヘエさん! そっちじゃないです!」
「ならどっちだ!」
「左に曲がってください!」
「おうよ! 取舵いっぱい!」
「へい!」

 カヘエさんはそう命じた。すると船はなんと右へと曲がり、島に背を向けて進み始めた。

「ヨーソロー!」
「ヨーソロー!」

 いやいやいや! 反対だから!

 私がツッコミを入れようとしたが、すぐにカヘエさんたちから歓声が上がった。

「やった! 霧を抜けたぞ!」
「さすがスイキョウ様のお客人だ!」
「あ、ええと……」

 私が返答に困っていると、カヘエさんが不思議そうに声を上げる。

「おいおい! 俺らは北に向かって進んでるはずなのになんで西に向かってるんだ!?」
「ほ、本当だ!」

 彼らはそう驚いているが、南に向かっているところを右に曲がれば西に進むのは当然だと思うのだが……。

「フィーネ殿、ここはあの足場を使って霧の中を進むほうがいいのではござらんか?」
「あ! そうですね。カヘエさん!」
「なんだ?」
「このままここにいていただけますか?」
「なんだと!?」
「私たちは足場を作って、その上を歩いていきます」
「何っ!? そんなことができるのか?」
「はい。じゃあ、行ってきますね。防壁!」

 船の上から防壁を使って島までの空中通路を作り出すと、ひょいとジャンプしてその上に飛び乗った。

 続いて三人が飛び乗ってくる。

「……私以外が行っても大丈夫でしょうか?」
「ダメと仰られてもご一緒いたします」
「あたしもですっ!」
「拙者もでござるよ」

 まあ、やっぱりそうだよね。なんとなく不安はあるが、精霊神様がこの三人に酷いことをするなんてことはないはずだ。

「じゃあ、手を繋いで行きましょう」
「はいっ!」

 こうして私たちは防壁の上を歩き、島へと向かうのだった。

◆◇◆

「霧の向こうにこのような島が……」

 島から十メートルほどの距離まで来たところでクリスさんがポロリとそうつぶやいた。

「まさに神の奇跡でござるな」
「姉さまっ! すごいですっ! この島、精霊があんなにたくさん!」

 シズクさんは感嘆した様子で、ルーちゃんは無邪気に喜んでいる。

 なるほど。たしかに島のほうからは精霊のような気配をたくさん感じる。

 そのまま残る距離を歩き、私たちは島へと上陸した。

 その島には色とりどりの花々が咲き乱れており、その先には森が広がっているようだ。

「美しい島でござるな。オオダテは肌寒かったというのに、ここはまるで春でござるな」
「これが、精霊神様の神域……」
「すごくいい所ですっ!」

 やはりエルフであるルーちゃんにとって、精霊が多い場所は居心地がいいのだろう。
「あとは、どうやって精霊神様の御前まで参るかでござるな。やはりあの山の頂上でござろうか?」
「いや、どこかに神殿のようなものがあるのではないか?」
「えっ? 森の中にいらっしゃるに決まってますっ!」

 三人はそれぞれ、神様の居そうな場所を挙げていく。

「そうですね。ちょっと見てきます」

 私はひょいとジャンプすると、そのまま【妖精化】を使い、上空へと飛び上がった。そうしてしばらく飛んでいると、山の中腹にぽっかりと開けた場所があるのを見つけた。

 私は元の姿に戻り、足元に防壁を設置して開けた場所を観察してみる。するとそこには何やら大きな鳥居のようなものがあり、さらにその先には洞窟のようなものが口を開けていた。

 なるほど。あれは間違いなく自然に作られたものではないだろう。であれば、とりあえずあそこに行ってみれば何かが分かるかもしれない。

 私は防壁を解除するとそのまま階段を降りる要領で足元に防壁を設置し、地面に着地した。

「フィーネ様、何か見つかりましたか?」
「はい。向こうに鳥居のようなものがありましたので、行ってみましょう」
「はい!」
「ルーちゃん」
「任せてくださいっ!」

 こうして私たちは鳥居があるほうへと歩きだすのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...