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聖女の旅路
第十三章第31話 港町ヴィハーラ
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それから私たちは合計で三日ほどヴェダに滞在した。その間私たちはラージャ三世にヴェダに植えるものと国内に配る分の種を託し、さらに周囲にいる魔物の解放を手伝った。
それからヴェダを旅立った私たちは今、南部にあるヴィハーラというとても大きな港町にやってきており、馬車で町中をゆっくりと移動しているところだ。
なぜヴィハーラにやってきたのかだが、聞いたところによるとこの町にはドラゴンに関する言い伝えが残されているらしい。であれば、もしかすると嵐龍王か地龍王の封印されている場所に関するなんらかの手掛かりが見つかるかもしれない。そんな一縷の望みを頼りにやってきたというわけだ。
当然のことだが、今はまだ嵐龍王の封印を解くつもりはない。封印を解くのは確実に龍王を解放してあげられる目途が立ち、なおかつ瘴気の問題を解決する道筋が見つけられてからの話だ。そうでなければむやみに瘴気を拡散するだけになってしまう。
ただ、嵐龍王と地龍王が封印されている場所を見つけておくことに損はないはずだ。
と、突然「カンカンカンカン!」というけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「聖女様、急いで迎賓館に向かいます。揺れますのでおつかまりください」
御者の人が慌てた様子でそう声を掛けてきた。
「何があったんですか?」
「これは魔物警報です。港のほうから聞こえていますので、海から魔物が迫っているのだと思われます。さあ、おつかまりください!」
「はい」
するとすぐに馬車はスピードを上げた。路面の凹凸をダイレクトに拾い、馬車がガタガタと大きく揺れる。
海の魔物といえば思い出すのはやはりシーサーペントだ。セラポンよりも生息地は近いわけだし、本当にシーサーペントが襲ってきたのであれば苦労しそうだ。
ゴトン!
「ひゃっ!?」
大きな音と共に馬車が大きく揺れ、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「フィーネ様、大丈夫ですか?」
「は、はい」
だが馬車はスピードを落とさず、激しい振動を私たちに伝えながらもヴィハーラの町を疾走していく。
それからしばらくすると馬車はスピードを落とし、やがて停車した。しかし外からはけたたましい鐘の音が相変わらず鳴り響いている。
「聖女様、到着しました」
「は、はい」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りると目の前には立派な建物があり、大勢の兵士たちが建物を取り囲んでいる。ただ私のイメージしていた迎賓館とは違い、建物が壁に囲まれていない。
「聖女様、ようこそお越しくださいました。私はヴィハーラ迎賓館の館長アニクと申します。本来であれば太守ルドラがお出迎えする予定だったのですが、現在海より魔物が襲撃してきたため、その防衛の指揮に向かっております。緊急事態でございますので、どうぞご無礼をお許しください」
「あ、いえ。ご丁寧にありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータです」
「聖女様にお会いできたこと、光栄の至りに存じます」
館長さんはそう言って恭しく合掌し、頭を下げてきたので私もそれを真似る。
「さあ、お部屋にご案内いたします」
こうして私たちは部屋に案内されるのだった。
◆◇◆
それから一時間ほどすると鐘の音が止まった。
「終わったんですかね?」
「おそらくは……」
館長さんに危険だから外に出ないでほしいと言われてしまったため、とりあえず大人しくしているのだが、情報がまったく入ってこないのでなんとももどかしい気分だ。
襲ってきた魔物は結局なんだったのだろう?
場所を考えても最初はシーサーペントではないかと心配していたのだが、ダルハで戦ったときの経験を踏まえると違う気がする。あの強力な水のブレスにはかなり苦労させられたし、水の中にいるせいでシズクさんとクリスさんの攻撃は届かなかった。それに普通の矢や魔法では歯が立たず、あのときは本当に苦労させられたものだ。
今よりもレベルが低かったとはいえ、当時のシズクさんの実力は一般的な人間のそれを大きく上回っていた。にもかかわらず小さな傷をつけるだけで精一杯だったのだから、普通の人間であるこの町の人たちがこれほど短時間でシーサーペントを撃退できるとは考えにくい。
だが、一体どんな魔物が襲ってきたというのだろうか?
「怪我人が出ていなければいいですけど……」
私のそんな呟きにクリスさんが答えてくれる。
「フィーネ様、港での海の魔物との戦闘で死傷者が出ることは少ないはずです」
「そうなんですか?」
「はい。何せ海の魔物は陸上に上がってこられませんので、遠くから矢を放つなどして攻撃し、追い払うのが主になります」
なるほど。たしかに魚の魔物とかが襲ってきたとしても、もし魚が陸上に上がってきたのなら誰でも倒せそうだ。
「じゃあダルハでのことは――」
「シーサーペントは例外です。シーサーペントは陸上でも行動できますので大きな被害が出ます」
「ということは、やっぱり今回襲ってきたのは多分シーサーペントじゃないですよね?」
「はい。私もそう思います」
「そうですよね。もっと苦戦しそうですもんね」
そんな話をしていると、私たちの部屋の扉がノックされた。
「はい。どうぞ」
「失礼いたします」
私が入室を許可すると、立派な服装をした男性が入ってきたのだった。
それからヴェダを旅立った私たちは今、南部にあるヴィハーラというとても大きな港町にやってきており、馬車で町中をゆっくりと移動しているところだ。
なぜヴィハーラにやってきたのかだが、聞いたところによるとこの町にはドラゴンに関する言い伝えが残されているらしい。であれば、もしかすると嵐龍王か地龍王の封印されている場所に関するなんらかの手掛かりが見つかるかもしれない。そんな一縷の望みを頼りにやってきたというわけだ。
当然のことだが、今はまだ嵐龍王の封印を解くつもりはない。封印を解くのは確実に龍王を解放してあげられる目途が立ち、なおかつ瘴気の問題を解決する道筋が見つけられてからの話だ。そうでなければむやみに瘴気を拡散するだけになってしまう。
ただ、嵐龍王と地龍王が封印されている場所を見つけておくことに損はないはずだ。
と、突然「カンカンカンカン!」というけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「聖女様、急いで迎賓館に向かいます。揺れますのでおつかまりください」
御者の人が慌てた様子でそう声を掛けてきた。
「何があったんですか?」
「これは魔物警報です。港のほうから聞こえていますので、海から魔物が迫っているのだと思われます。さあ、おつかまりください!」
「はい」
するとすぐに馬車はスピードを上げた。路面の凹凸をダイレクトに拾い、馬車がガタガタと大きく揺れる。
海の魔物といえば思い出すのはやはりシーサーペントだ。セラポンよりも生息地は近いわけだし、本当にシーサーペントが襲ってきたのであれば苦労しそうだ。
ゴトン!
「ひゃっ!?」
大きな音と共に馬車が大きく揺れ、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「フィーネ様、大丈夫ですか?」
「は、はい」
だが馬車はスピードを落とさず、激しい振動を私たちに伝えながらもヴィハーラの町を疾走していく。
それからしばらくすると馬車はスピードを落とし、やがて停車した。しかし外からはけたたましい鐘の音が相変わらず鳴り響いている。
「聖女様、到着しました」
「は、はい」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りると目の前には立派な建物があり、大勢の兵士たちが建物を取り囲んでいる。ただ私のイメージしていた迎賓館とは違い、建物が壁に囲まれていない。
「聖女様、ようこそお越しくださいました。私はヴィハーラ迎賓館の館長アニクと申します。本来であれば太守ルドラがお出迎えする予定だったのですが、現在海より魔物が襲撃してきたため、その防衛の指揮に向かっております。緊急事態でございますので、どうぞご無礼をお許しください」
「あ、いえ。ご丁寧にありがとうございます。フィーネ・アルジェンタータです」
「聖女様にお会いできたこと、光栄の至りに存じます」
館長さんはそう言って恭しく合掌し、頭を下げてきたので私もそれを真似る。
「さあ、お部屋にご案内いたします」
こうして私たちは部屋に案内されるのだった。
◆◇◆
それから一時間ほどすると鐘の音が止まった。
「終わったんですかね?」
「おそらくは……」
館長さんに危険だから外に出ないでほしいと言われてしまったため、とりあえず大人しくしているのだが、情報がまったく入ってこないのでなんとももどかしい気分だ。
襲ってきた魔物は結局なんだったのだろう?
場所を考えても最初はシーサーペントではないかと心配していたのだが、ダルハで戦ったときの経験を踏まえると違う気がする。あの強力な水のブレスにはかなり苦労させられたし、水の中にいるせいでシズクさんとクリスさんの攻撃は届かなかった。それに普通の矢や魔法では歯が立たず、あのときは本当に苦労させられたものだ。
今よりもレベルが低かったとはいえ、当時のシズクさんの実力は一般的な人間のそれを大きく上回っていた。にもかかわらず小さな傷をつけるだけで精一杯だったのだから、普通の人間であるこの町の人たちがこれほど短時間でシーサーペントを撃退できるとは考えにくい。
だが、一体どんな魔物が襲ってきたというのだろうか?
「怪我人が出ていなければいいですけど……」
私のそんな呟きにクリスさんが答えてくれる。
「フィーネ様、港での海の魔物との戦闘で死傷者が出ることは少ないはずです」
「そうなんですか?」
「はい。何せ海の魔物は陸上に上がってこられませんので、遠くから矢を放つなどして攻撃し、追い払うのが主になります」
なるほど。たしかに魚の魔物とかが襲ってきたとしても、もし魚が陸上に上がってきたのなら誰でも倒せそうだ。
「じゃあダルハでのことは――」
「シーサーペントは例外です。シーサーペントは陸上でも行動できますので大きな被害が出ます」
「ということは、やっぱり今回襲ってきたのは多分シーサーペントじゃないですよね?」
「はい。私もそう思います」
「そうですよね。もっと苦戦しそうですもんね」
そんな話をしていると、私たちの部屋の扉がノックされた。
「はい。どうぞ」
「失礼いたします」
私が入室を許可すると、立派な服装をした男性が入ってきたのだった。
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