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聖女の旅路
第十三章第45話 盗難事件
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「聖女様、この度は大変申し訳ございませんでした」
部屋に入ってくるなり、ラージャ三世は頭を下げてきた。
「ラージャ三世、大まかに話は聞いています。種がいくつか盗まれたんですよね?」
「いえ、そうではありません。すべて盗まれてしまいました」
「えっ!? すべてですか?」
「はい。人口から適切な配布先を決めようと考えておったのですが、計画が決まった段階で宝物庫に取りに行ったのですが跡形もなく……」
「そうでしたか。犯人の目星はついているんですか?」
「それが残念ながらまったく。いつ、誰がどうやって宝物庫に侵入したのかすら分かっておりません」
「え? でも入口は限られているんですよね?」
「はい。宝物庫に窓はなく、出入り口も一ヵ所のみです。しかも複数の者を見張りに立ておりますが、誰一人として侵入者に気付いておりません」
「……その状況であれば見張りの者が不正を犯したのではござらんか?」
「いえ、それもありません。実は、その可能性を考慮して見張りの者を監視する者がいるのです。しかしその者たちの報告によれば、見張りの者が怪しい動きをしたことはないそうです」
「じゃあ、ある日突然消えていることに気付いたってことですか?」
「左様でございます」
ううん。たしかに種があれば自分たちの町や村の周囲で魔物が発生しづらくすることができるので、盗んででも植えたいという気持ちは理解できる。実際ブルースター共和国ではやたらと高値で取引されていたわけだしね。
「でも、種を植えたらすぐにバレますよね?」
「はい。ですので犯人は国外に持ちだし、闇市場で売りさばこうと考えているのではないかと考えております」
「国外ですか」
となるとイエロープラネット首長国連邦のあった砂漠地帯を抜ける、もしくはレッドスカイ帝国に運ぶといったところだろうか?
「各都市にすでに通達を出し、検問を厳しくするようにはしておりますが、何分小さなものですので小分けにして持ち運ばれては見つからないかもしれません」
「そうですね……」
誰が犯人なのかは分からないが、種がすぐに戻ってくる可能性はなさそうだ。
「わかりました。私たちはひとまずホワイトムーン王国へ戻ろうと思います。そのついでに種を植えていきましょう。それとこの町も、どこかに場所をいただければ私が植えようと思います」
「ありがとうございます!」
ラージャ三世はそう言って再び頭を下げた。
と、そのとき突然扉が乱暴にノックされた。
「どうぞ」
「お話し中に失礼します! 魔物どもが大量発生し、こちらに向かって来ております!」
「えっ!?」
「なんだと!?」
どういうことだろう? 私たちが戻ってきたときは魔物の気配すらなかったはずだが……。
◆◇◆
私はビビをルーちゃんに任せ、会議室にやってきた。
「状況は?」
「はっ! 記録にない規模の巨大な魔物暴走が発生しております。方角は全方位となります」
「全方位!? なぜ気付かなかったのだ!」
「前触れもなく突然魔物が大量に現れたとの報告を受けております」
「なんだと? そんな馬鹿なことがあるものか!」
ラージャ三世が声を荒らげているが、報告をしている兵士の人を怒鳴ってもしかたがない。
「あの」
私が止めようと声を掛けると、ラージャ三世と兵士の人はまるでシンクロしているかのように同時に顔をこちらに向けてきた。
「ええと、とりあえず魔物が向かってきているんですよね?」
「はい。そのとおりでございます」
「じゃあ、どうして魔物が現れたのに気付かなかったのかはさておき、まずはどうやって町の人たちを守るかを考えたほうがいいと思うんですけど……」
「む……そうですな、聖女様」
ラージャ三世は少し冷静さを取り戻してくれたようだ。
「ふむ。考えられる魔物の種類と数は? それと接敵までにどの程度時間がある?」
「はっ! 数は不明ですが、見張り塔からの報告によりますと見渡す限り地平線の彼方まで魔物で埋めつくされている、とのことです。魔物の種類は様々ですので混成魔物暴走となります。ただ、南から来る魔物の中にはオーガが、東からのものにはトレントが多数含まれていることが確認されております。そのため過去の事例に照らし合わせますと、この規模の魔物暴走であればグレートオーガやエビルトレントがいる可能性が高いと推測されております。また、接敵まではあと二時間ほどと予想されます」
「なんだと!? まさかそのような魔物まで……」
ラージャ三世は沈痛な面持ちでそう呟き、他の重鎮たちも一様に暗い表情となった。だが、別に悲観する必要はない。
「グレートオーガは問題ありません。アイロールでも倒していますし、エビルトレントは……シズクさん、どうでしょう?」
「遅れを取るつもりはないでござるよ」
シズクさんはそう言うと右の手のひらを上に向けて腕を突き出し、その上に【狐火】の青白い炎を灯らせた。
「そうですか。ならば私たちが前に出ます。とはいえ、複数の場所を一度に守るのはできないですから、兵士の皆さんは魔物たちが町に来ないように押しとどめてもらえますか?」
「聖女様が前に出られるのですか?」
「危険です!」
「御身に万が一のことがあれば!」
重鎮らしい人たちが一斉に反対してくるが、このまま放っておけば町に甚大な被害が出るのは間違いない。
「じゃあ、どうすればいいと思うんですか?」
「う……」
「それは……」
「み、皆で力を合わせ、グリーンクラウド王国の誇りにかけ……」
……どうやら頑張る以外の対策はないようだ。
「つまり、作戦はないと?」
「それは……その……」
「なら、私の案でいいですよね?」
「う……」
重鎮たちはそのまま押し黙る。
「う、うむ。意見はないようだな。残念だが、我々にそれほどの魔物の群れを撃退する力はない。ここは聖女様と聖剣の担い手たちの支援に徹し、町を防衛する。良いな?」
ラージャ三世の決定に、重鎮たちは渋々と言った表情ではあるものの頷いたのだった。
部屋に入ってくるなり、ラージャ三世は頭を下げてきた。
「ラージャ三世、大まかに話は聞いています。種がいくつか盗まれたんですよね?」
「いえ、そうではありません。すべて盗まれてしまいました」
「えっ!? すべてですか?」
「はい。人口から適切な配布先を決めようと考えておったのですが、計画が決まった段階で宝物庫に取りに行ったのですが跡形もなく……」
「そうでしたか。犯人の目星はついているんですか?」
「それが残念ながらまったく。いつ、誰がどうやって宝物庫に侵入したのかすら分かっておりません」
「え? でも入口は限られているんですよね?」
「はい。宝物庫に窓はなく、出入り口も一ヵ所のみです。しかも複数の者を見張りに立ておりますが、誰一人として侵入者に気付いておりません」
「……その状況であれば見張りの者が不正を犯したのではござらんか?」
「いえ、それもありません。実は、その可能性を考慮して見張りの者を監視する者がいるのです。しかしその者たちの報告によれば、見張りの者が怪しい動きをしたことはないそうです」
「じゃあ、ある日突然消えていることに気付いたってことですか?」
「左様でございます」
ううん。たしかに種があれば自分たちの町や村の周囲で魔物が発生しづらくすることができるので、盗んででも植えたいという気持ちは理解できる。実際ブルースター共和国ではやたらと高値で取引されていたわけだしね。
「でも、種を植えたらすぐにバレますよね?」
「はい。ですので犯人は国外に持ちだし、闇市場で売りさばこうと考えているのではないかと考えております」
「国外ですか」
となるとイエロープラネット首長国連邦のあった砂漠地帯を抜ける、もしくはレッドスカイ帝国に運ぶといったところだろうか?
「各都市にすでに通達を出し、検問を厳しくするようにはしておりますが、何分小さなものですので小分けにして持ち運ばれては見つからないかもしれません」
「そうですね……」
誰が犯人なのかは分からないが、種がすぐに戻ってくる可能性はなさそうだ。
「わかりました。私たちはひとまずホワイトムーン王国へ戻ろうと思います。そのついでに種を植えていきましょう。それとこの町も、どこかに場所をいただければ私が植えようと思います」
「ありがとうございます!」
ラージャ三世はそう言って再び頭を下げた。
と、そのとき突然扉が乱暴にノックされた。
「どうぞ」
「お話し中に失礼します! 魔物どもが大量発生し、こちらに向かって来ております!」
「えっ!?」
「なんだと!?」
どういうことだろう? 私たちが戻ってきたときは魔物の気配すらなかったはずだが……。
◆◇◆
私はビビをルーちゃんに任せ、会議室にやってきた。
「状況は?」
「はっ! 記録にない規模の巨大な魔物暴走が発生しております。方角は全方位となります」
「全方位!? なぜ気付かなかったのだ!」
「前触れもなく突然魔物が大量に現れたとの報告を受けております」
「なんだと? そんな馬鹿なことがあるものか!」
ラージャ三世が声を荒らげているが、報告をしている兵士の人を怒鳴ってもしかたがない。
「あの」
私が止めようと声を掛けると、ラージャ三世と兵士の人はまるでシンクロしているかのように同時に顔をこちらに向けてきた。
「ええと、とりあえず魔物が向かってきているんですよね?」
「はい。そのとおりでございます」
「じゃあ、どうして魔物が現れたのに気付かなかったのかはさておき、まずはどうやって町の人たちを守るかを考えたほうがいいと思うんですけど……」
「む……そうですな、聖女様」
ラージャ三世は少し冷静さを取り戻してくれたようだ。
「ふむ。考えられる魔物の種類と数は? それと接敵までにどの程度時間がある?」
「はっ! 数は不明ですが、見張り塔からの報告によりますと見渡す限り地平線の彼方まで魔物で埋めつくされている、とのことです。魔物の種類は様々ですので混成魔物暴走となります。ただ、南から来る魔物の中にはオーガが、東からのものにはトレントが多数含まれていることが確認されております。そのため過去の事例に照らし合わせますと、この規模の魔物暴走であればグレートオーガやエビルトレントがいる可能性が高いと推測されております。また、接敵まではあと二時間ほどと予想されます」
「なんだと!? まさかそのような魔物まで……」
ラージャ三世は沈痛な面持ちでそう呟き、他の重鎮たちも一様に暗い表情となった。だが、別に悲観する必要はない。
「グレートオーガは問題ありません。アイロールでも倒していますし、エビルトレントは……シズクさん、どうでしょう?」
「遅れを取るつもりはないでござるよ」
シズクさんはそう言うと右の手のひらを上に向けて腕を突き出し、その上に【狐火】の青白い炎を灯らせた。
「そうですか。ならば私たちが前に出ます。とはいえ、複数の場所を一度に守るのはできないですから、兵士の皆さんは魔物たちが町に来ないように押しとどめてもらえますか?」
「聖女様が前に出られるのですか?」
「危険です!」
「御身に万が一のことがあれば!」
重鎮らしい人たちが一斉に反対してくるが、このまま放っておけば町に甚大な被害が出るのは間違いない。
「じゃあ、どうすればいいと思うんですか?」
「う……」
「それは……」
「み、皆で力を合わせ、グリーンクラウド王国の誇りにかけ……」
……どうやら頑張る以外の対策はないようだ。
「つまり、作戦はないと?」
「それは……その……」
「なら、私の案でいいですよね?」
「う……」
重鎮たちはそのまま押し黙る。
「う、うむ。意見はないようだな。残念だが、我々にそれほどの魔物の群れを撃退する力はない。ここは聖女様と聖剣の担い手たちの支援に徹し、町を防衛する。良いな?」
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