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聖女の旅路
第十三章第50話 懺悔
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ラージャ三世はそれから取調室という名の地下牢をすべて確認したが、兵士の言葉どおり知らない男が一人いただけだった。
「ええい! ならばお前たちは今すぐ城の中を探せ! 誰一人城から出られぬようにしろ! 出たものがいたらすべて拘束し、連れ戻せ!」
「えっ!?」
「命令が聞こえなかったのか! 王命だ! 早くしろ!」
「ははっ!」
取調室にいた兵士たちが大慌てで飛び出していった。
「聖女様、申し訳ありません。すぐに捕まるはずです」
「はい」
ううん。こんなに大事にしなくてもよかったのではないかという気もするが、ラージャ三世なりに気をつかってくれた結果なのだろう。
それから私たちは食堂へ行き、夕食をいただいた。そしてとんでもなく甘いデザートが出てきたところで兵士の一人がやってきた。
「陛下! お食事中失礼いたします」
「どうした? 見つかったか?」
「はい。発見はしたのですが……」
「何かあったのか?」
「はい。地下の物置で、泡を吹いて倒れておりました」
「何? どういうことだ? その者は喋れる状態なのか?」
すると報告に来た兵士が首を横に振った。
「いえ。それが見つけたときはすでに……」
「何? ではどうやってその者が聖女様の行く手を遮った者だと確認したのだ?」
「はっ! 聖女様を食堂に案内した者が顔を確認いたしました」
「むむむ……」
「それなら私が治療しますよ。どこですか?」
「はっ! ご案内いたします!」
「あ、いえ。どっちのほうですか?」
「えっ? あ、はい。とりあえず一階の部屋に運んでありますので、あちらですが……」
「わかりました」
私はとりあえず治癒魔法を言われた方向に向かって放ってみる。だがあまりはっきりとした手応えがない。
どうやら怪我の類いではなさそうだ。
続いて病気治療を放ってみるが同じように手応えがなかったので、今度は解毒を放ってみた。
お? これからな?
しっかりした手応えとともに解毒された感触が伝わってきた。
「毒を盛られていたみたいですね。それじゃあ、その人のところに案内してください」
兵士の人にそう言うが、あんぐりと口を開けたまま固まっている。気付けば兵士の人だけではなく、ラージャ三世まで固まっているではないか。
「あの? もしもーし?」
固まる兵士の人に私は再び声をかけるのだった。
◆◇◆
再起動した兵士の人に案内されやってきた部屋には、あのとき何かを伝えようと私の前に飛び出してきた男がベッドに寝かされていた。ぐっしょりと汗をかいてはいるが、穏やかな寝息を立てているので問題はなさそうだ。
「おおお、先ほどはあれほど苦しそうにしていたのに……」
報告に来た兵士の人がそんなことを言っている。ということはやはり先ほどの解毒された感触はこの人だったようだ。
「あの、この人は警備をしていた兵士の人が四人がかりで連れて行きましたよね? どうして毒なんかに?」
「それは……そうですね」
「ええい! 何をやっている! 関係する者たちを全員連れてこい!」
「はっははっ!」
ラージャ三世が怒りをあらわにすると周囲の兵士たちはテキパキと動き始める。
「聖女様、このような見苦しい様をお見せしてしまい申し訳ございません」
「いえ。でも毒を盛られたってことは、やっぱり口封じですよね?」
「はい。恐らくはそうでしょう。しかし……」
そんな話をしつつ、寝ている男に毒で失った分の体力を回復してやろうと治癒魔法をかけてやる。すると男はあっさりと目を覚ました。
「ううっ」
「あ、気付きましたね」
「……っ!? せ、聖女様!?」
「はい。一応そうですね」
「お、おおお! 聖女様! 聖女様!」
男はかなり混乱しているようだ。このままでは話を聞けないので鎮静魔法で落ち着けてやると、男はハッとしたような表情になった。
「落ち着きましたか?」
「は、はい。取り乱してしまい、大変失礼いたしました」
「それは良かったです。それでは先ほど私に何を言おうとしていたのか、あのあと何があったのかを教えてくれますか?」
「はい」
男は一度大きく息をつき、それから真剣な表情で私を真っすぐに見てきた。
「聖女様、懺悔いたします。私は宝物庫の警備兵を監視する任務に就いていたにもかかわらず、タルール祭事副長官から賄賂を受け取り、本来は誰も入れてはならない宝物庫に警備兵が立ち入った事実を隠蔽しました。まさか私の行いがヴェダにあれほどの魔物を招く結果になるなどとは思ってもおらず……申し訳ございませんでした」
「なんだと!? まさか警備の者たちが全員グルだったとは……道理で種の行方が分からぬわけだ」
……要するに汚職が蔓延しているということのようだ。この国に来てからというもの、ずっとまともな扱いを受けていたおかげもあり、この国の人たちはみんなまともなような気がしていたのだが……。
この国は違うかもしれないとにわかに期待していたのだが、残念だ。やはり国が違えども、人間というものはそうそう変わらないのかもしれない。
なんとも虚しい気持ちになり、私は小さくため息をつくのだった。
「ええい! ならばお前たちは今すぐ城の中を探せ! 誰一人城から出られぬようにしろ! 出たものがいたらすべて拘束し、連れ戻せ!」
「えっ!?」
「命令が聞こえなかったのか! 王命だ! 早くしろ!」
「ははっ!」
取調室にいた兵士たちが大慌てで飛び出していった。
「聖女様、申し訳ありません。すぐに捕まるはずです」
「はい」
ううん。こんなに大事にしなくてもよかったのではないかという気もするが、ラージャ三世なりに気をつかってくれた結果なのだろう。
それから私たちは食堂へ行き、夕食をいただいた。そしてとんでもなく甘いデザートが出てきたところで兵士の一人がやってきた。
「陛下! お食事中失礼いたします」
「どうした? 見つかったか?」
「はい。発見はしたのですが……」
「何かあったのか?」
「はい。地下の物置で、泡を吹いて倒れておりました」
「何? どういうことだ? その者は喋れる状態なのか?」
すると報告に来た兵士が首を横に振った。
「いえ。それが見つけたときはすでに……」
「何? ではどうやってその者が聖女様の行く手を遮った者だと確認したのだ?」
「はっ! 聖女様を食堂に案内した者が顔を確認いたしました」
「むむむ……」
「それなら私が治療しますよ。どこですか?」
「はっ! ご案内いたします!」
「あ、いえ。どっちのほうですか?」
「えっ? あ、はい。とりあえず一階の部屋に運んでありますので、あちらですが……」
「わかりました」
私はとりあえず治癒魔法を言われた方向に向かって放ってみる。だがあまりはっきりとした手応えがない。
どうやら怪我の類いではなさそうだ。
続いて病気治療を放ってみるが同じように手応えがなかったので、今度は解毒を放ってみた。
お? これからな?
しっかりした手応えとともに解毒された感触が伝わってきた。
「毒を盛られていたみたいですね。それじゃあ、その人のところに案内してください」
兵士の人にそう言うが、あんぐりと口を開けたまま固まっている。気付けば兵士の人だけではなく、ラージャ三世まで固まっているではないか。
「あの? もしもーし?」
固まる兵士の人に私は再び声をかけるのだった。
◆◇◆
再起動した兵士の人に案内されやってきた部屋には、あのとき何かを伝えようと私の前に飛び出してきた男がベッドに寝かされていた。ぐっしょりと汗をかいてはいるが、穏やかな寝息を立てているので問題はなさそうだ。
「おおお、先ほどはあれほど苦しそうにしていたのに……」
報告に来た兵士の人がそんなことを言っている。ということはやはり先ほどの解毒された感触はこの人だったようだ。
「あの、この人は警備をしていた兵士の人が四人がかりで連れて行きましたよね? どうして毒なんかに?」
「それは……そうですね」
「ええい! 何をやっている! 関係する者たちを全員連れてこい!」
「はっははっ!」
ラージャ三世が怒りをあらわにすると周囲の兵士たちはテキパキと動き始める。
「聖女様、このような見苦しい様をお見せしてしまい申し訳ございません」
「いえ。でも毒を盛られたってことは、やっぱり口封じですよね?」
「はい。恐らくはそうでしょう。しかし……」
そんな話をしつつ、寝ている男に毒で失った分の体力を回復してやろうと治癒魔法をかけてやる。すると男はあっさりと目を覚ました。
「ううっ」
「あ、気付きましたね」
「……っ!? せ、聖女様!?」
「はい。一応そうですね」
「お、おおお! 聖女様! 聖女様!」
男はかなり混乱しているようだ。このままでは話を聞けないので鎮静魔法で落ち着けてやると、男はハッとしたような表情になった。
「落ち着きましたか?」
「は、はい。取り乱してしまい、大変失礼いたしました」
「それは良かったです。それでは先ほど私に何を言おうとしていたのか、あのあと何があったのかを教えてくれますか?」
「はい」
男は一度大きく息をつき、それから真剣な表情で私を真っすぐに見てきた。
「聖女様、懺悔いたします。私は宝物庫の警備兵を監視する任務に就いていたにもかかわらず、タルール祭事副長官から賄賂を受け取り、本来は誰も入れてはならない宝物庫に警備兵が立ち入った事実を隠蔽しました。まさか私の行いがヴェダにあれほどの魔物を招く結果になるなどとは思ってもおらず……申し訳ございませんでした」
「なんだと!? まさか警備の者たちが全員グルだったとは……道理で種の行方が分からぬわけだ」
……要するに汚職が蔓延しているということのようだ。この国に来てからというもの、ずっとまともな扱いを受けていたおかげもあり、この国の人たちはみんなまともなような気がしていたのだが……。
この国は違うかもしれないとにわかに期待していたのだが、残念だ。やはり国が違えども、人間というものはそうそう変わらないのかもしれない。
なんとも虚しい気持ちになり、私は小さくため息をつくのだった。
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