テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第三章

第三章第54話 鹿の丸焼きを作りました

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 血抜きが終わったので、あたしは一足先に野営場所へ戻ってきました。

 鹿の丸焼きは時間がかかりますからね。早めに焼き始めないといけないんです。

 鹿は木の枝に括りつけて、その両端をコンラートさんとピーちゃんが支えて運んでくれました。

 え? アレックさんですか?

 えっと、はい。本当はアレックさんの係なんですが、なぜか怖がられてしまうので、仕方なくコンラートさんに交代してもらいました。

 だからアレックさんはコンラートさんのかわりにマリウスさんたちと魔物退治です。

「んで? どうすりゃいいの?」
「はい。まずは焼き台を作ってください。この大きさの鹿だと、このくらいの高さでお願いします。それでこう、棒を渡して鹿をぶら下げて、回して全体に火を通すんです」
「へぇ。丸焼きなんて食ったことないから楽しみだよ」
「えへへ。美味しいですよ。丸焼きは得意料理ですから、任せてください」
「ん? あ、ああ。そっか。楽しみにしてるよ」

 コンラートさんがなぜか微妙な表情をしています。

「えっと、それじゃあ皮はいじゃいますね」

 あたしは一度棒から鹿を外すと、皮を剥ぎ取っていきます。この作業は慣れているのですぐに終わります。

「ピーちゃん、お願いします」
「ピッ!」

 毛皮をきれいにしてもらっている間にあたしはお肉を焼く準備です。

 鹿の内臓はもうすべて取ってあるので、まずは前脚と後ろ脚をそれぞれ開いた状態で固定します。それから背骨の位置でお腹側に棒を通します。

 これは運んできたときのやつで大丈夫ですね。

 あとは、これを遠火でじっくり焼き上げます。

「ピーちゃん」
「ピッ」
「おっ? もう終わったの? 早いね。乗せればいいの?」
「え? あ、はい」

 あたしがピーちゃんと一緒に焼き台まで運ぼうとすると、コンラートさんが手伝ってくれました。

「あ、ありがとうございます」
「え? ああ、いいって」

 コンラートさんは照れくさそうにそう言って頬をきました。

「あとはお塩を……」

 あたしは乗せられた鹿のお肉に適当にお塩をまぶしていきます。

 お塩は無くても美味しいですが、あったほうがより美味しいですからね。

 鹿のお肉の両側にお塩をまぶしたので、あとは焼くだけです。

 あたしは焼き台の下の薪に火をつけました。

「はい。できました。あとは時々ひっくり返すだけです。
「ん? 全然火が届いてないけどいいの?」
「はい。丸焼きは遠火でじっくり焼き上げるのが美味しく焼くコツなんです。火が強すぎると表面だけ焦げちゃって、中までちゃんと焼けないんです」
「そっか……」

 コンラートさんはそう言ってそっぽを向いてしまいました。

 あれれ? あたし、何か失礼なこと言いましたっけ?

◆◇◆

 夕方になり、魔物退治に向かったマリウスさんたちが帰ってきました。

 ですが、何やら険悪な様子です。

「おい! アレック! お前いい加減にしろよ!」
「ひっ」
「お前がビビッてあんなでかい音立てるから逃げられただろうが!」
「で、でもっ! あ、あれはほ、ほ――」
「ホーンラビットだ! 魔物の名前もまともに言えないのか!」
「で、で、でも、ま、ま、ま……」
「だからその魔物を倒しに来てんだろうが!」
「ひっ! すみませんすみませんすみませんすみません」

 あれ? もしかしてアレックさん、魔物が苦手なんでしょうか?

 だからピーちゃんのことをあんなに怖がっていたんですね。

 ……あれ? ならどうして魔法学園に入ったんでしょうか? 従魔科があるんですから、魔物と関わることは最初から分かっていたんじゃ……。

 それにあたしも怖がられていたような?

 そんなことを考えていると、ロクサーナさんがやってきました。

「あら、いい香りですわね」
「はい。もうそろそろ焼けます」
「そう。わたくし、丸焼きなんて初めて見ましたわ。冒険者とはこのようなものを食べるのですのね」「え? あ、はい。そう、かもしれません」

 あたしが丸焼きをよく食べていたのはサバイバルをしていたときですけど、もしかしたら他の冒険者たちだって丸焼きにして食べているかもしれません。

 あ、そろそろ良さそうですね。

 あたしはナイフを入れ、肉を削ります。

 うん。しっかり火が通っていて、ジューシーな肉汁がドバッと出てきます。

「焼けたので取り分けますね」
「まあ、このように取り分けるんですのね」

 ロクサーナさんが興味津々な様子であたしの作業を観察してきます。

 ちょっとやりづらいですが、放っておくと焼けすぎちゃいますからね。

 あたしは急いで焼けたお肉をお皿に取り分けていくのでした。
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