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第三章
第三章最終話 大変なことになりました
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気が付けばダンスパーティーが終わりの時間になっていました。
「それではローザ嬢、女子寮までお送りしますよ」
「あ、ありがとうございます」
微笑む公子様に手を引かれ、出口へとゆっくり歩き始めます。するとレジーナさんが声を掛けてきました。
「公子殿下、お待ちになって」
「おや? どうかなさいましたか?」
「ローザに用があるのですわ」
「え? あたしにですか?」
「ええ。とても大切なお話があるのです」
お話ってなんでしょう?
「そして殿下、この話は時間がかかる話です。大変失礼だとは重々承知していますが、お一人でお帰りいただけませんでしょうか? ローザはわたくしが責任を持って帰しますわ」
え? そんなに急ぎの話って……。
「……今宵のローザ嬢のパートナーは私ですよ?」
公子様はさっきまでとはうってかわって冷たい声色でレジーナさんにそう抗議しました。するとレジーナさんは唇をぎゅっと噛みしめます。
「……そう、ですわよね。それではご一緒いただけますか? この話はすぐに殿下のお耳にも入ることでしょうから」
「……いいでしょう。さ、ローザ嬢」
「は、はい」
こうしてあたしはレジーナさんに連れられてダンスホールを出るとそのまま校門に向かい、レジーナさんの馬車に乗り込みました。
「そういえば、アンドレイはどうしたのですか?」
「王太子殿下はすでに城へ向かわれましたわ」
「なるほど。では私のところにもすぐに情報が回ってきそうですね」
えっと、何があったんでしょうか。
重苦しい空気に包まれてしまいました。でも公子様が優しい微笑みを浮かべながら話題を変えてくれます。
「そういえばローザ嬢は料理研究会の所属でしたね」
「は、はい」
「どのような料理をされるですか?」
「えっ? あ、えっと、この前はポタージュを作りました。その、園芸同好会の友達が育てた野菜が美味しくって、それで作ったんです」
「それはそれは。聞いているだけでも美味しそうですね」
「はい! そうなんです!」
それから馬車の中は楽しい雰囲気に変わり、気が付けばレジーナさんのお屋敷に到着していました。
あたしたちはそのまま応接室に通され、すぐにアロンさんがやってきました。
「公子殿下、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえ。公爵閣下こそ、このような突然の訪問をお許しいただきありがとうございます」
一通りの挨拶を済ませ、あたしたちは着席します。
「公子殿下、ご存じかとは思いますがローザはオーデルラーヴァの出身です」
「ええ、そう聞いております」
「そしてこれほど急いでローザを我が屋敷に連れてきた理由ですが、情報が公になるまでは口外なさらないようにお願い致します」
「もちろんです」
「はい。ローザ、君も心して聞いてほしい」
「は、はい」
アロンさんはいつになく真剣な表情をしています。
「どうやらオーデルラーヴァでクーデターが起きた模様です」
「えっ!?」
「公爵閣下、あの国にクーデターを起こすような勢力がいた記憶はありませんが?」
「首謀者は騎士団の第一隊です」
「っ!?」
「第一隊? 騎士団が丸ごとではなく?」
「だ、第一隊って……」
たしか、あのレオシュのいた部隊ですよね。オフェリアさんの手柄を奪って、あたしが逃げなきゃいけなくなった理由の……。
「かなり評判が悪かったように記憶していますね」
「そうです。貴族でもないくせにやたらと自意識過剰な連中です。ローザは第一隊は知っているかい?」
「はい。その、嫌がらせをされたことが……」
「そうだったのか。大変だったね」
アロンさんはそういって同情してくれました。
「ですが、彼らだけでクーデターが成功できるとは思えません。他の騎士たちや住民たちがいくらなんでも黙っていないでしょう」
「それが、どうやら連中は聖ルクシア教会とハプルッセン帝国の支援を受けているようなのです。そして他の騎士たちを排除して権力を手中に収め、ルクシア・オーデルラーヴァ王国の建国を宣言しました。そのうえ、国教を聖ルクシア教会と定めました」
「……そんなことをしてはオーデルラーヴァの民はまとまらないのではありませんか? オーデルラーヴァの住民の七割ほどが正教会のはずです」
「はい。ですが彼らはそのように宣言し、聖ルクシア教会に改宗しない者を容赦なく連れ去っているそうです」
「それにハプルッセン帝国も民は正教会のほうが多いはずです。貴族の間で聖ルクシア教会が流行っているという話は聞いていましたが……」
「帝国が国教を変更したという情報は今のところありません。ですが、ルクシア・オーデルラーヴァ王国を承認したということは間違いありません」
「……なるほど」
公子様が神妙な面持ちでそう答えますが、あたしには難しくて何を言っているのかさっぱりわかりません。
ただ、オーデルラーヴァに行けばユキたちが殺されてしまうということだけはわかりました。
それに!
「あ、あのっ!」
「なんだい?」
「オフェリアさんは? オフェリアさんたちは無事なんですか?」
「オフェリア・ピャスク殿をはじめとする第七隊については消息不明なんだ」
「……」
でも、オフェリアさんがクーデターなんかに加担するとは思えません。確かめに行きたいですけど……。
「ローザ嬢、故郷と大切な人を思う気持ちはよく分かります。ですが、光属性を持つ貴女は決して聖ルクシア教会の支配する場所に行ってはいけません。そのまま聖ルクシア教会の聖女とされ、一切の自由がなくなります」
「う……はい」
「私のほうでも第七隊の情報については探ってみますよ」
「あ、ありがとうございます」
「公爵閣下、ローザ嬢をこれからどうなさるおつもりですか?」
「どう、とは?」
「今までどおり後ろ盾を続けていただけるのか? ということです。もしそうでないなら――」
「もちろん、今までどおりローザの後ろ盾となるつもりです」
「……なるほど。もし難しくなった場合はいつでも仰ってください。私がその役目を引き継ぎましょう」
「いえ、それには及びません」
「そうですか」
公子様とアロンさんはニコニコと笑顔で話していますが、なんだか怖いです。
「さて、こんな時間にご足労いただきありがとうございます。公子殿下」
「いえいえ、こちらこそ貴重な情報をありがとうございました」
「ローザにはこのまま我が家で休ませますが、公子殿下はいかがなさいますか? 泊まっていかれるのでしたら部屋をご用意いたします」
「いえ。私はやるべきことができましたので、これにて失礼いたします」
「かしこまりました」
「それではローザ嬢、またお会いしましょう」
そう言って跪いた公子様はあたしの手を取り、やさしく手の甲にキスをしてくれてました。
「は、はい。あ! その、今日はありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。公爵閣下、レジーナ嬢、失礼いたします」
こうして公子様は足早にレジーナさんのお屋敷から出ていき、あたしは用意されたお部屋で休むこととなったのでした。
まさかオーデルラーヴァがこんなことになるなんて……一体どうなっちゃうんでしょうか?
================
やたらと長くなってしまいましたが、これにて第三章は完結となります。いかがだったでしょうか?
ようやく魔法学園での立ち位置をしっかり築いてきたところで、オーデルラーヴァが大変なことになってしまいました。危険な聖ルクシア教会が隣国にまで迫ってきてしまいましたが、ローザたちはここマルダキアで安住の地を手に入れることができるのでしょうか? そしてオフェリアたちの運命は……。
第四章は一度しっかりと構想を練ってからの執筆となります。通常のスケジュールに間に合うように執筆するつもりですが、間に合わない場合は一回だけお休みし、 11/26 (土) の更新再開となります。
追伸
思えば二章で完結のつもりで書いていたはずが、三章で完結予定になり、四章完結予定になりました。……完結するはず……たぶん。
え? 二度あることは三度ある?
(꒪ཀ꒪*)グフッ
「それではローザ嬢、女子寮までお送りしますよ」
「あ、ありがとうございます」
微笑む公子様に手を引かれ、出口へとゆっくり歩き始めます。するとレジーナさんが声を掛けてきました。
「公子殿下、お待ちになって」
「おや? どうかなさいましたか?」
「ローザに用があるのですわ」
「え? あたしにですか?」
「ええ。とても大切なお話があるのです」
お話ってなんでしょう?
「そして殿下、この話は時間がかかる話です。大変失礼だとは重々承知していますが、お一人でお帰りいただけませんでしょうか? ローザはわたくしが責任を持って帰しますわ」
え? そんなに急ぎの話って……。
「……今宵のローザ嬢のパートナーは私ですよ?」
公子様はさっきまでとはうってかわって冷たい声色でレジーナさんにそう抗議しました。するとレジーナさんは唇をぎゅっと噛みしめます。
「……そう、ですわよね。それではご一緒いただけますか? この話はすぐに殿下のお耳にも入ることでしょうから」
「……いいでしょう。さ、ローザ嬢」
「は、はい」
こうしてあたしはレジーナさんに連れられてダンスホールを出るとそのまま校門に向かい、レジーナさんの馬車に乗り込みました。
「そういえば、アンドレイはどうしたのですか?」
「王太子殿下はすでに城へ向かわれましたわ」
「なるほど。では私のところにもすぐに情報が回ってきそうですね」
えっと、何があったんでしょうか。
重苦しい空気に包まれてしまいました。でも公子様が優しい微笑みを浮かべながら話題を変えてくれます。
「そういえばローザ嬢は料理研究会の所属でしたね」
「は、はい」
「どのような料理をされるですか?」
「えっ? あ、えっと、この前はポタージュを作りました。その、園芸同好会の友達が育てた野菜が美味しくって、それで作ったんです」
「それはそれは。聞いているだけでも美味しそうですね」
「はい! そうなんです!」
それから馬車の中は楽しい雰囲気に変わり、気が付けばレジーナさんのお屋敷に到着していました。
あたしたちはそのまま応接室に通され、すぐにアロンさんがやってきました。
「公子殿下、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえ。公爵閣下こそ、このような突然の訪問をお許しいただきありがとうございます」
一通りの挨拶を済ませ、あたしたちは着席します。
「公子殿下、ご存じかとは思いますがローザはオーデルラーヴァの出身です」
「ええ、そう聞いております」
「そしてこれほど急いでローザを我が屋敷に連れてきた理由ですが、情報が公になるまでは口外なさらないようにお願い致します」
「もちろんです」
「はい。ローザ、君も心して聞いてほしい」
「は、はい」
アロンさんはいつになく真剣な表情をしています。
「どうやらオーデルラーヴァでクーデターが起きた模様です」
「えっ!?」
「公爵閣下、あの国にクーデターを起こすような勢力がいた記憶はありませんが?」
「首謀者は騎士団の第一隊です」
「っ!?」
「第一隊? 騎士団が丸ごとではなく?」
「だ、第一隊って……」
たしか、あのレオシュのいた部隊ですよね。オフェリアさんの手柄を奪って、あたしが逃げなきゃいけなくなった理由の……。
「かなり評判が悪かったように記憶していますね」
「そうです。貴族でもないくせにやたらと自意識過剰な連中です。ローザは第一隊は知っているかい?」
「はい。その、嫌がらせをされたことが……」
「そうだったのか。大変だったね」
アロンさんはそういって同情してくれました。
「ですが、彼らだけでクーデターが成功できるとは思えません。他の騎士たちや住民たちがいくらなんでも黙っていないでしょう」
「それが、どうやら連中は聖ルクシア教会とハプルッセン帝国の支援を受けているようなのです。そして他の騎士たちを排除して権力を手中に収め、ルクシア・オーデルラーヴァ王国の建国を宣言しました。そのうえ、国教を聖ルクシア教会と定めました」
「……そんなことをしてはオーデルラーヴァの民はまとまらないのではありませんか? オーデルラーヴァの住民の七割ほどが正教会のはずです」
「はい。ですが彼らはそのように宣言し、聖ルクシア教会に改宗しない者を容赦なく連れ去っているそうです」
「それにハプルッセン帝国も民は正教会のほうが多いはずです。貴族の間で聖ルクシア教会が流行っているという話は聞いていましたが……」
「帝国が国教を変更したという情報は今のところありません。ですが、ルクシア・オーデルラーヴァ王国を承認したということは間違いありません」
「……なるほど」
公子様が神妙な面持ちでそう答えますが、あたしには難しくて何を言っているのかさっぱりわかりません。
ただ、オーデルラーヴァに行けばユキたちが殺されてしまうということだけはわかりました。
それに!
「あ、あのっ!」
「なんだい?」
「オフェリアさんは? オフェリアさんたちは無事なんですか?」
「オフェリア・ピャスク殿をはじめとする第七隊については消息不明なんだ」
「……」
でも、オフェリアさんがクーデターなんかに加担するとは思えません。確かめに行きたいですけど……。
「ローザ嬢、故郷と大切な人を思う気持ちはよく分かります。ですが、光属性を持つ貴女は決して聖ルクシア教会の支配する場所に行ってはいけません。そのまま聖ルクシア教会の聖女とされ、一切の自由がなくなります」
「う……はい」
「私のほうでも第七隊の情報については探ってみますよ」
「あ、ありがとうございます」
「公爵閣下、ローザ嬢をこれからどうなさるおつもりですか?」
「どう、とは?」
「今までどおり後ろ盾を続けていただけるのか? ということです。もしそうでないなら――」
「もちろん、今までどおりローザの後ろ盾となるつもりです」
「……なるほど。もし難しくなった場合はいつでも仰ってください。私がその役目を引き継ぎましょう」
「いえ、それには及びません」
「そうですか」
公子様とアロンさんはニコニコと笑顔で話していますが、なんだか怖いです。
「さて、こんな時間にご足労いただきありがとうございます。公子殿下」
「いえいえ、こちらこそ貴重な情報をありがとうございました」
「ローザにはこのまま我が家で休ませますが、公子殿下はいかがなさいますか? 泊まっていかれるのでしたら部屋をご用意いたします」
「いえ。私はやるべきことができましたので、これにて失礼いたします」
「かしこまりました」
「それではローザ嬢、またお会いしましょう」
そう言って跪いた公子様はあたしの手を取り、やさしく手の甲にキスをしてくれてました。
「は、はい。あ! その、今日はありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。公爵閣下、レジーナ嬢、失礼いたします」
こうして公子様は足早にレジーナさんのお屋敷から出ていき、あたしは用意されたお部屋で休むこととなったのでした。
まさかオーデルラーヴァがこんなことになるなんて……一体どうなっちゃうんでしょうか?
================
やたらと長くなってしまいましたが、これにて第三章は完結となります。いかがだったでしょうか?
ようやく魔法学園での立ち位置をしっかり築いてきたところで、オーデルラーヴァが大変なことになってしまいました。危険な聖ルクシア教会が隣国にまで迫ってきてしまいましたが、ローザたちはここマルダキアで安住の地を手に入れることができるのでしょうか? そしてオフェリアたちの運命は……。
第四章は一度しっかりと構想を練ってからの執筆となります。通常のスケジュールに間に合うように執筆するつもりですが、間に合わない場合は一回だけお休みし、 11/26 (土) の更新再開となります。
追伸
思えば二章で完結のつもりで書いていたはずが、三章で完結予定になり、四章完結予定になりました。……完結するはず……たぶん。
え? 二度あることは三度ある?
(꒪ཀ꒪*)グフッ
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