174 / 227
第四章
第四章第24話 魔法学園に戻りました
しおりを挟む
「なんでしょうか?」
「公爵閣下、どうかローザを養女として迎え入れる手続きを早めてはいただけないでしょうか?」
「……なぜそのようなことを?」
アロンさんがまるであたしが養女になる話などなかったかのような口ぶりでツェツィーリエ先生に尋ねました。
「それは……ああ、そいうことでしたか」
ツェツィーリエ先生は何かを悟った様子です。
「では公爵閣下、わたしは退室していたほうがよろしいですね?」
「ええ」
アロンさんはそう言って小さく頷くと、ベルを鳴らしました。するとすぐにメイドさんがやってきます。
「君、イオネスク夫人を別の応接室にお通しし、紅茶をお出ししてくれ」
「かしこまりました。イオネスク夫人、ご案内いたします」
「ええ」
こうしてツェツィーリエ先生は応接室から出ていき、アロンさんと二人っきりになりました。
「ふう、やれやれ。面倒なことになったね」
「えっと……」
「実は、国王陛下がローザちゃんの扱いに迷っていてね。本当ならもうとっくに手続きが終わっている予定だったんだけど、止められているんだ」
「え?」
そういえば最初の話だと去年の年末から今年の春ぐらいにって話でしたね。
ということは、もしかして養女の話って無しになっちゃったんでしょうか?
「大丈夫だよ。最終的には私が必ず許可させるからね。ただ、細かい条件を決めかねているんだ。特に陛下が気にしているのは結婚なんだ」
「え? 結婚ですか?」
「そうだよ。本来であれば王子のうちの誰かと、という話になるのが普通なんだけど、色々と難しくてね。それに、無理な結婚は望んでいないんだよね?」
「はい……」
それから少しの間、応接室は沈黙に包まれます。
「ローザちゃんはどうしたいんだい? 公表しようと思えばすることはできるよ。正式な許可が降りていなくても、ちょっと喧嘩するぐらいで済むしね」
「え? でも迷惑が……」
「そもそもここまでダラダラと先延ばしにしているのは陛下だからね。それに陛下には、、この件に関しては王太子殿下の一件という負い目もあるからね」
え? 王太子様が?
……えっと、なんのことでしょう?
「ほら、ローザちゃんをウチが保護するきっかけがそもそも王太子殿下のせいみたいなものだろう?」
「あ、はい」
そうでした。なぜか決闘することになって大変な目に遭ったんでした。
「だからね。もうこの一件はローザちゃんがどうしたいかで決めようと思うんだ。ただし、養女になると公表した瞬間から、もう気軽に外を歩くことはできなくなるよ?」
「えっと、でも公表しないと論文が公表できなくて、瀉血で苦しむ人がこれからも増えちゃうんですよね?」
「そうだね。クルージュまで査読結果を送ってもう一度審査をして、となるだろうからかなり時間が掛かるはずだよ」
それは……やっぱりダメですよね。あんなので殺されるなんてひどすぎですし、あれが治療だと思ってやっているお医者さんたちだって可哀想です。だって、お医者さんたちだって治療だって信じてやっているはずなのに、それが人を殺すことになっているんですから。
「分かりました。その、お願いします」
「そう、分かったよ。それじゃあ一番早い日程で公表できるようにするから、それまでは秘密にしておくように」
「はい」
こうしてアーロンさんとの話合いを終え、あたしたちは魔法学園へと戻るのでした。
◆◇◆
魔法学園に戻ってきたのは夕方になってしまいました。学園の校舎は茜色に染められていて、長い影が地面に落ちています。
「ツェツィーリエ先生、ありがとうございました」
「ええ。それじゃあまた」
「はい」
こうしてあたしはツェツィーリエ先生と別れ、寮のほうへと歩きだします。少し歩いていくと、向こうから花束を抱えた公子様が慌てた様子で走ってきました。
珍しいですね。公子様が慌てているところを見るのは初めてだった気がします。それに花束を抱えているってことは、もしかして何かのお祝いでしょうか?
不思議に思いながら歩いていると、公子様はなぜかあたしの前で立ち止まりました。
「公子様、ごきげんよう」
公子様に失礼なことはできませんからね。あたしは最近褒められてちょっと自信のついてきたカーテシーで挨拶をしました。すると公子様は驚いたような表情を浮かべましたが、すぐにいつものように紳士な微笑みを浮かべてくれました。
それから胸に手を当てて紳士の挨拶をしてくれます。
「学園に戻ってきたその日にローザ嬢にお目にかかれ、光栄です」
「え?」
何かあったんでしょうか?
すると公子様は一瞬、複雑な表情になりました。
「実は我がカルリア公国も色々と大変でして。それで諸々の問題を処理していたおかげで戻ってくるのが遅れてしまったのです」
……そうですよね。やっぱり公子様は偉い人ですし、どんなことをしているのかはまるで想像がつかないですけど、きっと忙しくて大変なんだと思います。
あ! だったらこんなところで立ち話なんてさせていたらいけませんよね。さっきも急いでいたみたいですし。
「あ、えっと、はい。じゃ、じゃああたしはこのへんで失礼します」
「お待ちください、ローザ嬢」
そう告げて寮に帰ろうとしたのですが、公子様に止められてしまいました。
「は、はい。なんでしょうか?」
公子様はあたしの前に跪き、なんと持っていた花束を差し出してきたではありませんか!
え? え?
「ローザ嬢、進級おめでとうございます。遅くなりましたが、これは私からのお祝いです」
「へ?」
えっと……公子様が、あたしに? えっと、えっと……。
頭が真っ白になって固まっていると公子様がいつの間にか立ち上がっていて、あたしは花束を胸に抱えていました。
え? あれ? あたし今、どうやって花束受け取ったんでしたっけ?
「ローザ嬢、そんなに構えないでください。複雑な事情がおありなことも理解しているつもりです。ですが、ダンスパーティーで申し上げたことは私の本心ですから」
「あ……」
あたしはあのとき公子様が言ってくれたことを思い出し、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなってしまいました。
「これは単なるお祝いですから深い意味など考えず、部屋にでも飾っていただけると嬉しいです」
公子様はそう言って優しく微笑んでくれたのでした。
「公爵閣下、どうかローザを養女として迎え入れる手続きを早めてはいただけないでしょうか?」
「……なぜそのようなことを?」
アロンさんがまるであたしが養女になる話などなかったかのような口ぶりでツェツィーリエ先生に尋ねました。
「それは……ああ、そいうことでしたか」
ツェツィーリエ先生は何かを悟った様子です。
「では公爵閣下、わたしは退室していたほうがよろしいですね?」
「ええ」
アロンさんはそう言って小さく頷くと、ベルを鳴らしました。するとすぐにメイドさんがやってきます。
「君、イオネスク夫人を別の応接室にお通しし、紅茶をお出ししてくれ」
「かしこまりました。イオネスク夫人、ご案内いたします」
「ええ」
こうしてツェツィーリエ先生は応接室から出ていき、アロンさんと二人っきりになりました。
「ふう、やれやれ。面倒なことになったね」
「えっと……」
「実は、国王陛下がローザちゃんの扱いに迷っていてね。本当ならもうとっくに手続きが終わっている予定だったんだけど、止められているんだ」
「え?」
そういえば最初の話だと去年の年末から今年の春ぐらいにって話でしたね。
ということは、もしかして養女の話って無しになっちゃったんでしょうか?
「大丈夫だよ。最終的には私が必ず許可させるからね。ただ、細かい条件を決めかねているんだ。特に陛下が気にしているのは結婚なんだ」
「え? 結婚ですか?」
「そうだよ。本来であれば王子のうちの誰かと、という話になるのが普通なんだけど、色々と難しくてね。それに、無理な結婚は望んでいないんだよね?」
「はい……」
それから少しの間、応接室は沈黙に包まれます。
「ローザちゃんはどうしたいんだい? 公表しようと思えばすることはできるよ。正式な許可が降りていなくても、ちょっと喧嘩するぐらいで済むしね」
「え? でも迷惑が……」
「そもそもここまでダラダラと先延ばしにしているのは陛下だからね。それに陛下には、、この件に関しては王太子殿下の一件という負い目もあるからね」
え? 王太子様が?
……えっと、なんのことでしょう?
「ほら、ローザちゃんをウチが保護するきっかけがそもそも王太子殿下のせいみたいなものだろう?」
「あ、はい」
そうでした。なぜか決闘することになって大変な目に遭ったんでした。
「だからね。もうこの一件はローザちゃんがどうしたいかで決めようと思うんだ。ただし、養女になると公表した瞬間から、もう気軽に外を歩くことはできなくなるよ?」
「えっと、でも公表しないと論文が公表できなくて、瀉血で苦しむ人がこれからも増えちゃうんですよね?」
「そうだね。クルージュまで査読結果を送ってもう一度審査をして、となるだろうからかなり時間が掛かるはずだよ」
それは……やっぱりダメですよね。あんなので殺されるなんてひどすぎですし、あれが治療だと思ってやっているお医者さんたちだって可哀想です。だって、お医者さんたちだって治療だって信じてやっているはずなのに、それが人を殺すことになっているんですから。
「分かりました。その、お願いします」
「そう、分かったよ。それじゃあ一番早い日程で公表できるようにするから、それまでは秘密にしておくように」
「はい」
こうしてアーロンさんとの話合いを終え、あたしたちは魔法学園へと戻るのでした。
◆◇◆
魔法学園に戻ってきたのは夕方になってしまいました。学園の校舎は茜色に染められていて、長い影が地面に落ちています。
「ツェツィーリエ先生、ありがとうございました」
「ええ。それじゃあまた」
「はい」
こうしてあたしはツェツィーリエ先生と別れ、寮のほうへと歩きだします。少し歩いていくと、向こうから花束を抱えた公子様が慌てた様子で走ってきました。
珍しいですね。公子様が慌てているところを見るのは初めてだった気がします。それに花束を抱えているってことは、もしかして何かのお祝いでしょうか?
不思議に思いながら歩いていると、公子様はなぜかあたしの前で立ち止まりました。
「公子様、ごきげんよう」
公子様に失礼なことはできませんからね。あたしは最近褒められてちょっと自信のついてきたカーテシーで挨拶をしました。すると公子様は驚いたような表情を浮かべましたが、すぐにいつものように紳士な微笑みを浮かべてくれました。
それから胸に手を当てて紳士の挨拶をしてくれます。
「学園に戻ってきたその日にローザ嬢にお目にかかれ、光栄です」
「え?」
何かあったんでしょうか?
すると公子様は一瞬、複雑な表情になりました。
「実は我がカルリア公国も色々と大変でして。それで諸々の問題を処理していたおかげで戻ってくるのが遅れてしまったのです」
……そうですよね。やっぱり公子様は偉い人ですし、どんなことをしているのかはまるで想像がつかないですけど、きっと忙しくて大変なんだと思います。
あ! だったらこんなところで立ち話なんてさせていたらいけませんよね。さっきも急いでいたみたいですし。
「あ、えっと、はい。じゃ、じゃああたしはこのへんで失礼します」
「お待ちください、ローザ嬢」
そう告げて寮に帰ろうとしたのですが、公子様に止められてしまいました。
「は、はい。なんでしょうか?」
公子様はあたしの前に跪き、なんと持っていた花束を差し出してきたではありませんか!
え? え?
「ローザ嬢、進級おめでとうございます。遅くなりましたが、これは私からのお祝いです」
「へ?」
えっと……公子様が、あたしに? えっと、えっと……。
頭が真っ白になって固まっていると公子様がいつの間にか立ち上がっていて、あたしは花束を胸に抱えていました。
え? あれ? あたし今、どうやって花束受け取ったんでしたっけ?
「ローザ嬢、そんなに構えないでください。複雑な事情がおありなことも理解しているつもりです。ですが、ダンスパーティーで申し上げたことは私の本心ですから」
「あ……」
あたしはあのとき公子様が言ってくれたことを思い出し、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなってしまいました。
「これは単なるお祝いですから深い意味など考えず、部屋にでも飾っていただけると嬉しいです」
公子様はそう言って優しく微笑んでくれたのでした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
905
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる