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第四章
第四章第70話 数が多すぎます
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ディミトリエが送った応援の男たちが見たのは、すでに門を突破して村の作物を荒らすおびただしい数のゴブリンの姿だった。
「お、おい……」
「これは……」
「なんでこんな……」
あまりの数に足がすくんだ彼らにゴブリンのうちの一匹が気付いた。
「ゲギャッ!?」
「ゲギャギャギャ」
「ギャギャギャー!」
「ギャギャー!」
ゴブリンの上げた声で他のゴブリンたちも男たちに気付き、一斉に彼らに襲い掛かる。
「う、うわぁぁぁぁ!」
「や、やめろ!」
「助けて!」
手に持っていた武器を振るうことなく彼らはあっという間にゴブリンに組み付かれ、そのまま崩れ落ちた。そこにさらにゴブリンたちが殺到し、断末魔の声が聞こえてくる。
と、そこにエミールと四人の男たちが到着した。
「えっ?」
「そんな……」
「う、うわぁぁぁぁ! 逃げろ!」
彼らは一目散に領主の家のほうへと逃げ出す。だがすぐさまゴブリンたちはそれを追いかけ、あっという間に三人と同じ末路を辿ることとなってしまった。
さらにゴブリンたちは村の中を歩き回る。あるゴブリンは家の中に入って食料を漁り、あるゴブリンは畑の作物を食い荒らし、またあるゴブリンは家畜を襲う。
そうこうしているうちにゴブリンたちはディミトリエたちのいる広場にまでやってきた。
一方の守る村人たちはすでに門番の男に加えて七人の男を失ってしまったため、広場には十人も残っていない。
「なっ!?」
「ゴブリン!?」
「なんだ!? あの数は!」
「領主様!」
「え、ええい! 戦え! なんとしてでもここで食い止めろ!」
領主がそう命じるが、男たちは一様に顔を見合わせた。すると斧を持った一人の男が口を開く。
「お、俺は戦うぞ! 中には俺の妻と娘がいるんだ! 絶対行かせない!」
「そ、そうだ! 俺も中に妻と息子が避難しているんだ」
「俺もだ! よ、よし! やってやる!」
半数ほどの男たちは奮い立つが、残る者たちは腰が引けている。
「俺は武器を持ってくる! それまでここを死守しろ!」
ディミトリエはそう命じると、でっぷりとした太鼓腹を揺らしながらいそいそと家の中へと走っていく。
「はい! お願いします! 領主様!」
男たちは希望に満ちた目でそれを見送るのだった。
一方のディミトリエは家の中に入るなり、ホールに避難している避難者たちに向かって言い放つ。
「お前たちはこのままここに留まれ! いいな? 二階に上がることは禁止だ!」
避難者たちは、何故そんなことを言われたのか理解できていないようで、ポカンとした表情でディミトリエを見ている。
だがディミトリエはそれを気にした様子もなく、そそくさと階段を上がっていく。そして三階にある自室に入ると、そのまま内側から鍵を掛けたのだった。
◆◇◆
えっと……あ、あれって、まずいですよね。
この家の前の広場にまでゴブリンたちが来ちゃいました。それに村の男の人たちもどんどんやられています。
このままじゃ!
あたしは窓を開け、ゴブリンに魔力弾を撃ち込みました。
これだけたくさんいれば狙いなんて適当でもちゃんと当たります。
「ホーちゃん!」
「ホー!」
ホーちゃんが勢いよく窓から飛び立ちます。
「ホー!」
ホーちゃんは空中で止まり、ぱたぱたと羽ばたきました。するとものすごい風がゴブリンたちを襲い、ゴブリンたちは血しぶきを上げてバラバラになりました。
うわ……気持ち悪い……。
じゃないです! あたしも負けていられません!
魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾!
どうですか! 全弾命中です!
しつこいゴブリンは滅びてください!
そうしてしばらくホーちゃんと広場のゴブリンを倒していたのですが、ゴブリンがひっきりなしにやってきます。
ど、ど、どうなってるんですか?
ゴブリンは一匹見かけたら三十匹はいるって言いますけど、それにしても多すぎじゃないですか?
……あ! 気持ち悪い! 目が合っちゃいました。
しかもあのゴブリン、あたしを見てニタァって笑いました。
と、鳥肌が……じゃなくて! 魔力弾!
・
・
・
ふう。倒しました。倒しましたけど……あたしがここにいるの、バレちゃったみたいです。
ゴブリンたちはまだ戦っている男の人を無視して一斉にこの家を目指して走りだしました。
あああ! もう! 気持ち悪いです!
って! ちょっと! 下で戦っている人! なんで逃げてるんですか! そっちに逃げたって……。
ああ、やっぱり。
逃げようとした先でゴブリンに囲まれちゃいました。
あれじゃあ助けようがありません。ごめんなさい。
って、それより! ゴブリンがこっちに来ているじゃないですか!
中には避難している人がいるのに!
「あの! すみません! 下がってください! 家の中に!」
「あ、ああ!」
あたしが大声で声を掛けると、斧を持って戦っている男の人が返事をしてくれました。
「ホーちゃん、外はお願いします。あたしたちは中に入ってきたのを倒します」
「ホー!」
ホーちゃんはこちらを見ずに、羽ばたきながら答えました。
「ユキ、ピーちゃん、行きましょう」
「ミャ!」
「ピっ!」
こうしてあたしは部屋を出て、入口のほうを目指すのでした。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/06 (土) 18:00 を予定しております。
「お、おい……」
「これは……」
「なんでこんな……」
あまりの数に足がすくんだ彼らにゴブリンのうちの一匹が気付いた。
「ゲギャッ!?」
「ゲギャギャギャ」
「ギャギャギャー!」
「ギャギャー!」
ゴブリンの上げた声で他のゴブリンたちも男たちに気付き、一斉に彼らに襲い掛かる。
「う、うわぁぁぁぁ!」
「や、やめろ!」
「助けて!」
手に持っていた武器を振るうことなく彼らはあっという間にゴブリンに組み付かれ、そのまま崩れ落ちた。そこにさらにゴブリンたちが殺到し、断末魔の声が聞こえてくる。
と、そこにエミールと四人の男たちが到着した。
「えっ?」
「そんな……」
「う、うわぁぁぁぁ! 逃げろ!」
彼らは一目散に領主の家のほうへと逃げ出す。だがすぐさまゴブリンたちはそれを追いかけ、あっという間に三人と同じ末路を辿ることとなってしまった。
さらにゴブリンたちは村の中を歩き回る。あるゴブリンは家の中に入って食料を漁り、あるゴブリンは畑の作物を食い荒らし、またあるゴブリンは家畜を襲う。
そうこうしているうちにゴブリンたちはディミトリエたちのいる広場にまでやってきた。
一方の守る村人たちはすでに門番の男に加えて七人の男を失ってしまったため、広場には十人も残っていない。
「なっ!?」
「ゴブリン!?」
「なんだ!? あの数は!」
「領主様!」
「え、ええい! 戦え! なんとしてでもここで食い止めろ!」
領主がそう命じるが、男たちは一様に顔を見合わせた。すると斧を持った一人の男が口を開く。
「お、俺は戦うぞ! 中には俺の妻と娘がいるんだ! 絶対行かせない!」
「そ、そうだ! 俺も中に妻と息子が避難しているんだ」
「俺もだ! よ、よし! やってやる!」
半数ほどの男たちは奮い立つが、残る者たちは腰が引けている。
「俺は武器を持ってくる! それまでここを死守しろ!」
ディミトリエはそう命じると、でっぷりとした太鼓腹を揺らしながらいそいそと家の中へと走っていく。
「はい! お願いします! 領主様!」
男たちは希望に満ちた目でそれを見送るのだった。
一方のディミトリエは家の中に入るなり、ホールに避難している避難者たちに向かって言い放つ。
「お前たちはこのままここに留まれ! いいな? 二階に上がることは禁止だ!」
避難者たちは、何故そんなことを言われたのか理解できていないようで、ポカンとした表情でディミトリエを見ている。
だがディミトリエはそれを気にした様子もなく、そそくさと階段を上がっていく。そして三階にある自室に入ると、そのまま内側から鍵を掛けたのだった。
◆◇◆
えっと……あ、あれって、まずいですよね。
この家の前の広場にまでゴブリンたちが来ちゃいました。それに村の男の人たちもどんどんやられています。
このままじゃ!
あたしは窓を開け、ゴブリンに魔力弾を撃ち込みました。
これだけたくさんいれば狙いなんて適当でもちゃんと当たります。
「ホーちゃん!」
「ホー!」
ホーちゃんが勢いよく窓から飛び立ちます。
「ホー!」
ホーちゃんは空中で止まり、ぱたぱたと羽ばたきました。するとものすごい風がゴブリンたちを襲い、ゴブリンたちは血しぶきを上げてバラバラになりました。
うわ……気持ち悪い……。
じゃないです! あたしも負けていられません!
魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾!
どうですか! 全弾命中です!
しつこいゴブリンは滅びてください!
そうしてしばらくホーちゃんと広場のゴブリンを倒していたのですが、ゴブリンがひっきりなしにやってきます。
ど、ど、どうなってるんですか?
ゴブリンは一匹見かけたら三十匹はいるって言いますけど、それにしても多すぎじゃないですか?
……あ! 気持ち悪い! 目が合っちゃいました。
しかもあのゴブリン、あたしを見てニタァって笑いました。
と、鳥肌が……じゃなくて! 魔力弾!
・
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ふう。倒しました。倒しましたけど……あたしがここにいるの、バレちゃったみたいです。
ゴブリンたちはまだ戦っている男の人を無視して一斉にこの家を目指して走りだしました。
あああ! もう! 気持ち悪いです!
って! ちょっと! 下で戦っている人! なんで逃げてるんですか! そっちに逃げたって……。
ああ、やっぱり。
逃げようとした先でゴブリンに囲まれちゃいました。
あれじゃあ助けようがありません。ごめんなさい。
って、それより! ゴブリンがこっちに来ているじゃないですか!
中には避難している人がいるのに!
「あの! すみません! 下がってください! 家の中に!」
「あ、ああ!」
あたしが大声で声を掛けると、斧を持って戦っている男の人が返事をしてくれました。
「ホーちゃん、外はお願いします。あたしたちは中に入ってきたのを倒します」
「ホー!」
ホーちゃんはこちらを見ずに、羽ばたきながら答えました。
「ユキ、ピーちゃん、行きましょう」
「ミャ!」
「ピっ!」
こうしてあたしは部屋を出て、入口のほうを目指すのでした。
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