テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
221 / 227
第四章

第四章第71話 ゴブリンが入ってきました

しおりを挟む
 バキ! バコン! ガコン!

「まずい!」
「ドアが破られる!」
「うわぁぁぁん」
「大丈夫だから!」

 エントランスホールのほうから鈍い音が聞こえ、それと同時に避難している人たちの声が聞こえてきます。

 急がないと!

 必死に走り、エントランスホールを見下ろせる廊下にようやく着きました。

 ですが、着いたのと同時に扉が破られ、ゴブリンたちが雪崩れ込んできます。

 う……気持ち悪い……。

「扉が!」
「イヤァァァァ!」
「ゴブリン!」
「あなた! 助けて!」
「妻に近づくな!」
「俺の後ろに下がれ!」
「パパァ」

 あ! いけません! ここで止めないと!

「ユキ!」
「ミャッ!」

 ユキはすぐさま吹雪を吹かせ、入ってくるゴブリンたちを氷漬けにしていきます。

 あたしも……あっ! 危ない!

 あたしは避難している人たちに襲い掛かろうとしていたゴブリンを魔力弾で撃ち抜きました。

「ゲギャッ!?」
「ギャギャー!」
「ゲギャギャー」

 うえっ。ゴブリンたちがあたしのほうを指さして、ニタァって……き、気持ち悪い。

 あっ! しかも階段を登ってこっちに来ようとしているじゃないですか!

「ピッ! ピピッ!」
「ミャー」

 ピーちゃんがあたしの前に出ようとしましたが、ユキがさらにその前に出ました。そして階段を登ってきたゴブリンたちをまとめて大きな氷に閉じ込めます。

 す、すごい……。

「ミャッ!」

 続いてユキは破られた扉を氷漬けにしました。

 あ! なるほど! これならもうゴブリンは入ってきませんね。

 あとはここから魔力弾でゴブリンを倒せばいいだけです。

 なぜか分かりませんけど、ゴブリンはあたしのほうに向かって来ようとしていますし、これなら狙い放題です。

 魔力弾! 魔力弾! 魔力弾っ!

◆◇◆

 それからひたすらゴブリンたちを魔力弾で倒し、家の中に侵入したゴブリンを退治しました。それでも外にはまだまだたくさんいるみたいなので、きっと氷が溶けたら入ってきちゃうと思います。

 そうなると、あそこにいたら危ないですよね。

「あ、あのっ!」

 階段の上から声を掛けます。

「二階に上がってきてください。そこだとゴブリンが……」
「え? で、ですが領主様がここにいろって……」
「えっ? どういうことですか? 氷が溶けたら外のゴブリンが来ちゃいますよ? 早く上がってきてください」
「で、ですが領主様の命令ですし……」
「えっと……」

 なんであいつはそんな命令をしたんでしょう?

 ここにいたらあの人たちがゴブリンにやられちゃうって分かっていたはずですよね?

 ……理由は全然分からないですけど、やっぱりそんな命令、おかしいと思います。

「あの! 早く避難しましょう! そんなおかしな命令、聞かなくていいんじゃないんですか?」
「そ! そんなこと! 領主様の命令に逆らったらどうなるか……」
「えっ?」

 ……あの、それってもしかして、あいつが貴族だから、ですかね?

 えっと、それなら!

「あ、あたしはマレスティカ公爵家のローザ・マレスティカです! 公爵令嬢として命じます。皆さん、二階に避難してください!」
「えっ?」
「公爵?」
「それって男爵様より偉いのよね?」
「あー、多分?」
「ディミトリエ・ランスカの命令を破っても罪にならないと保証します! だからこっちに避難してください!」

 すると村の人たちがひそひそと話合いを始めました。

 う……やっぱりあたしじゃダメなんでしょうか……。

 きっとお義姉さまならビシッと命令して、あの人たちも素直に従ってくれるんでしょうけど……。

 ガシャーン!

 突然窓ガラスが割れ、そこからゴブリンが飛び込んできました。

「ミャッ!」

 ですがすぐにユキが窓ごとゴブリンを氷漬けにしてくれました。

「ユキ……ありがとうございます」
「ミャッ」

 ユキは気にするなと言わんばかりの感じです。

 あたしはユキの頭を軽くでてあげました。いつもどおりのふわふわの毛並みが気持ちいいです。

 じゃなくて!

「早くしてください!」

 すると、一人の若い女性が階段のほうに向かって歩き出しました。

「あ、あたしは上に逃げる! ゴブリンにやられるなんて絶対に嫌だもの」
「私も!」
「な、ならあたしも!」

 こうして村人たちはぞろぞろと階段を登り、二階へと避難を始めます。

 そして全員が二階にやってきたのと同時に入口の氷が破られ、再びゴブリンが雪崩れ込んできました。

「ユキ!」
「ミャッ」

 あたしはユキと力を合わせて入ってきたゴブリンたちを次々と倒していきます。

「ピピー?」
「え? ピーちゃん?」

 えっと、もしかしてピーちゃんも戦いたいんでしょうか?

 でも、ピーちゃんは他のスライムにいじめられていた子ですし、決闘のときもゴーレムに歯が立ちませんでした。

 だから無理して戦わなくていいと思います。

「えっと、ピーちゃんは危ないので、ここであたしたちを応援しててください」
「ピピッ!?」

 あれ? なんだか不満そうです。

「ピー……ピッ! ピピッ!」

 あ、でも納得してくれたみたいです。

「ピッ! ピッ! ピッピッピー!」

 ピーちゃん、ふるふると動いていますね。なんだかダンスを踊っているみたいです。

 これはきっとダンスであたしたちを応援してくれているんだと思います。

 えへへ、そう思うとなんだか元気が出てきました!

 よーし、それじゃあいきますよ!

================
 次回更新は通常どおり、2024/04/13 (土) 20:00 を予定しております。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クリトリス小話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:482pt お気に入り:47

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:4

蛍降る駅

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:35

潰れた瞳で僕を見ろ

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:21

窓側の指定席

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:844pt お気に入り:13

俺の妹になってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:9

メロカリで買ってみた

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:10

私の好きな人は、どうやら想い人がいるようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:29

処理中です...