魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
34 / 182

第34話 足止め

しおりを挟む
 その日の三時ごろ、私たちはシュワインベルグに到着した。

「ホリーちゃん、キエルナ方面ならそこの三番の馬車乗り場からだよ。切符はあそこの建物で売っているからね」
「ウォーレンさん、ありがとうございます」
「うん。それじゃあ、気をつけて行っておいで」
「はい」
「ニールはちゃんとホリーちゃんを守るんだぞ?」
「もちろんですよ、ウォーレンさん」

 こうして私たちはウォーレンさんと別れ、切符を売っているという建物へと向かった。アレクシアさんたちも同じ建物に向かったが、二人は帰りの切符を買うために別の窓口に並んでいる。

 だが並んでいるとなんとなく周囲の人が私たちをジロジロと見ている気がする。

 あれ? これは?

 ……ああ、そうか。ホワイトホルンと違ってここには人族が住んでいないのだろう。だからきっと私の髪色が珍しく思われているに違いない。

 何かを言ってくる人はいないとはいえ、あまりジロジロ見られるのは気分がいいものではない。

 そうして落ち着かない気分で待っていると、ついに私たちの順番が回ってきた。

「はい、次の方」
「キエルナまで大人二名、お願いします」

 ニール兄さんが窓口の向こうに座っているお姉さんにそう伝えると、お姉さんの表情が曇った。

「キエルナ方面……少々お待ちください」

 お姉さんはそう言って窓口の向こう側で何かをいそいそと調べている。

「申し訳ありません。二週間先まで予約で満席となっています。この窓口でご予約いただけるのは二週間後までですので申し訳ございませんが、現在お取り扱いできません。次の予約受付は来週の月曜日からとなりますので、お手数ですがもう一度お越しください」
「えっ? どうしてそんなことに……」
「今は雪解けの季節ですから、ちょうど人が動き始める時期なんです。それに去年、ホワイトホルンで大規模なゾンビによる襲撃があったのをご存じですか? 実はその事件でホワイトホルンから入荷予定だった馬車馬が全滅してしまったのです。それで本来でしたらこの時期は毎日運行しているのですが減便をせざるを得なくなってしまっているのです」
「そんな……」

 まさかあのゾンビの襲撃事件がこんなところに影響を及ぼしていたなんて!

「お急ぎですか?」
「はい」
「それでしたら、魔動車を手配されてはいかがでしょう?」
「魔動車ですか……」

 ニール兄さんが渋い顔をした。

「ねえ、ニール兄さん。魔動車って何?」
「ああ、うちの町にはほとんどないもんな。魔動車っていうのは魔道具の一種で、馬の代わりに魔道具で動く車のことだよ」
「えっ! そんな車が!?」

 すごい! 知らなかった。

「ただ動かすにはかなりの魔力が必要だから、町長とか隊長くらいじゃないと他の町まで運転するのは厳しいんだ」
「あっ、そっか」

 というのも魔道具を動かすには通常、使用者が魔力を注ぎ続けなければならない。さすがに次の町までそれをし続けるのは大変だろう。

「その魔動車って、いくらくらいで借りられますか?」
「そうですね。借りる期間にもよりますが、キエルナまでの往復ですとおよそ千五百リーレくらいでしょうか」
「えっ、そんなに……」

 千五百リーレというのはとんでもない大金だ。たとえばうちのお店だと一か月の売上が百~二百リーレくらいなので、この金額は一年分の売上に近い。

「その他にも、運転手が必要でしたらその日当と宿泊費も必要ですね」
「う……」

 それは、どう考えても私たちでは無理だ。

「また、来ます」
「お待ちしております。それでは次の方」

 こうして私たちはチケットを買うどころか予約すらもできず、窓口を後にした。

 するとがっかりして窓口を離れた私たちにアレクシアさんたちが話しかけてきた。

「あら、どうしたの? 浮かない顔ね」
「そうなんです。実は――」

 私たちは事情を話した。

「そう。ワタクシたちもなんとかしてあげたいけど、魔動車はいくらなんでも無理ねぇ。次の月曜に朝一番で並ぶしかないんじゃないかしら?」
「やっぱりそうですよね」
「二人ともそんなに落ち込まないで、前向きに考えましょう? ホリーちゃんはせっかく初めての旅行なんだから、お兄さんと一緒に観光でもしてみたら?」
「観光ですか?」
「そうよ。グラン先生が亡くなられてからずっと一人で頑張ってきたじゃない。キエルナに呼ばれたってことは、行くのをやめて帰るっていうわけにもいかないんでしょう? それならそのくらいはしてもいいんじゃないの?」
「……そう、でしょうか?」
「そうよ。あなたも、ちゃんと大事な妹の息抜きをさせてやりなさい」
「は、はい」
「よろしい。それでね。この町で見るなら――」

 そうして私たちはアレクシアさんに観光スポットとお勧めの宿を紹介してもらった。

「ホリー、どうしようもないしアレクシアさんの言うとおりに観光するか」
「うん!」
「そうよ。それじゃあ、ワタクシたちはこれで失礼するわ」
「はい。ありがとうございました」
「いいえ」

 こうして私たちはアレクシアさんと別れ、お勧めしてもらった宿に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...