魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第35話 崩落事故

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 アレクシアさんのお勧めの宿は馬車の発着場から歩いておよそ十五分ほどの場所にあるのだそうだ。

 私たちは大通りを町の中心部に向かって歩いているのだが、その町並みはホワイトホルンとあまり変わらない印象だ。

 ホワイトホルンと一つ違うとすれば、あちこちで工事が行われているということだろう。ホワイトホルンでは雪がなくなってから補修工事をすることが多いのだが、この町ではまだ屋根に雪が積もっているところがたくさんあるというのにもう工事が始まっている。

 足場が作られ、その上では大工さんたちがせわしなく働いている。

 そんな様子を横目に見ながら歩いていると、なんと私たちから二十メートルくらい先にある工事現場が音を立てて崩れ落ちた。

 ものすごい音とともにもうもうと土煙が上がっている。

「ニール兄さん!」
「ああ!」

 私たちは急いでその現場に駆け寄った。するとそこには折れた石の柱や崩れ落ちた三角屋根の一部が無残な状態で積み上がっている。

「ひどいな……」
「それより怪我人は?」

 私は周りを見回して工事関係者を探すが、周囲にはそれらしき人は見当たらない。

「あれ? どうして?」
「ここは、去年から工事が中断してたんじゃよ。人族のお嬢ちゃん」
「え?」

 振り返るとそこには一人の魔族のおじいさんが立っていた。

「あ、じゃあ怪我人は……」
「おらんはずじゃよ」
「よかった……」

 私はほっと胸をなでおろす。

「それにしてもお前さんたちは見ない顔じゃのう。どこから来たんじゃ?」
「ホワイトホルンからです。キエルナに行きたかったんですけど……」
「ああ、ホワイトホルンか。ゾンビで大変なことになったそうじゃのぉ」
「はい」

 そう相槌を打ったところで、どこかからかか細い子供の声が聞こえたような気がした。

「あれ?」

 私はもう一度よく耳を澄ませてみる。

「……いたいよぉ」
「!?」

 今、たしかに痛いと聞こえた気がする。

「ねえ、ニール兄さん。子供の痛がる声が聞こえない?」
「え?」
「なんじゃと!?」

 私たちはもう一度耳を澄ませる。すると、たしかに子供のか細い子供の声が聞こえてくる。

「だれか……」
「!」
「まさか!」

 おじいさんが慌てて瓦礫のほうへと近づいていく。

「おーい! 誰かおるのかー?」

 するとやはり子供のか細い声が聞こえてくる。

「ニール兄さん!」
「ああ! ホリーはそこで待ってるんだ。じいさん! 衛兵か大工を連れてきてくれ! 早く救助を!」
「お、おお! そうじゃな!」

 おじいさんが近くを通りかかった二人組の衛兵さんに話しかけると、彼らは慌てて駆け寄ってきた。

 それと気付けば多くのやじ馬が周囲に集まっている。

「この中から子供の声が!?」
「ああ! 早く手伝ってくれ。早くしないと!」
「わかった! おい!」
「ああ!」

 ニール兄さんと衛兵さんたちは協力し、崩れないように一つ一つ丁寧に瓦礫を動かしていく。

 そうしているうちに徐々に他の衛兵さんや大工さんたちも集まってきて、そのおかげで瓦礫の撤去はどんどんとペースアップしていく。

 それから三十分ほど経つと、ニール兄さんの声が聞こえた。

「いた! ここだ! 上がかなりでかい! 手伝ってくれ!」

 その声に反応して大工さんがそちらに集まっていく。

「あっ!」
「これは……」

 ここからでは見えないが、大工さんたちのそんな声が聞こえてきた。すると、ニール兄さんの叫ぶ声が聞こえてくる。

「ホリー! 来てくれ!」
「うん!」
「待ちなさい! 人族に何ができるんだ! 危ないから下がっていなさい!」

 中に入ろうとしたのだが、現場を止めていた衛兵さんに止められてしまった。

「でも! ニール兄さんが! きっと治療が!」
「治療なら病院の薬師がもう来ている。助けたい気持ちはありがたいが、邪魔はしないでくれ」
「う……でも……」

 ニール兄さんが呼んでいるということは、たぶん普通の治療ではダメなくらい重症なのだと思う。

「おい! 早くホリーを呼んでくれ! 動かしちゃダメなんだ!」
「素人が何を言うか! 病院に運ばないと助かる命も助からないだろうが! 早く担架を持ってこい!」
「でも! このままじゃ!」
「黙りなさい! ここじゃ薬も道具も足りないんだ。そんなこともわからないのか!」
「でも!」
「君も片腕を失っているんだからこの怪我がどれだけ大変か分かるだろう! 足を落として傷口を焼けば助かる可能性があるのが分からんのか! 運びなさい!」

 そんな怒号が飛び交っているが、その状況なら早く大治癒の奇跡をかけなければ手遅れになってしまう。

 やがて中から担架が担ぎ出されてきた。担架からはぼたぼたと大量の血が流れ落ちている。

 あの出血量ではどう考えてもあれでは搬送中に死んでしまうだろう。

 だが、よそ者の私たちが余計な口を挟んでいいのだろうか?

 私がどうしたものかと悩んでいると、女性の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! バートちゃん! バートちゃん!」
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