37 / 182
第37話 ヒューバート町長
しおりを挟む
衛兵さんの詰め所で簡単な事情聴取を受けた私たちは馬車に乗り、とても豪華なホテルの二部屋を提供してもらった。
なんでもこのホテルは町一番の高級ホテルだそうで、私たちの格好は場違いなのではないかと心配になってしまうほどだ。
もちろん宿泊費も相応で、この部屋に宿泊するとお店のひと月分の売上が飛んでいくことになる。
そんなホテルに泊まれた幸運に感謝しながらゆっくりしていると、なんとこの町の町長が尋ねてきた。
「ホリー様とニール様、本日は住民の救助にご尽力いただきありがとうございました。私はシュワインベルグの町長をしておりますヒューバートと申します」
ヒューバート町長はピッタリと体にフィットした濃い色の燕尾服に淡い色のズボンとウェストコート、白いシャツとクラヴァット、そして背の高いブーツという典型的な紳士の服装をしている。
対する私たちは質素な普段着なのでちょっと恥ずかしいが、失礼な対応をする訳にはいかない。
「ホワイトホルンから来ましたニールです。衛兵をしています」
「薬師のホリーです」
「どうぞお見知りおき」
ヒューバート町長は流れるように私の手を取り、手の甲にキスを落とす仕草をした。
「本日はお二人にお礼を申し上げに参りました。どうぞ、楽になさってください」
ヒューバート町長はとても紳士的にそう言ってくれるが、私としてはそれどころではない。
「ではヒューバート町長閣下、どうぞおかけください」
「ありがとうございます」
ニール兄さんがなんとか着席を促してくれ、私たちもようやく座ることができた。
「ところでホリー様」
「はい」
「ホリー様のことはですね。実はエルドレッド殿下よりお伺いしていました」
「え? そうなんですか?」
「はい。人を癒す奇跡の力をお持ちで、大変な勇気と人を救う決意をお持ちの類まれなる女性であると」
「え、そ、そんな……」
突然そんな風に褒められ、私は恥ずかしさで顔から火が出たかと錯覚しそうになる。
「私は今回のことで確信いたしました。エルドレッド殿下の仰っていたことは誇張でもなんでもなく、事実だったのだと」
「あ、あの……?」
ヒューバート町長は何を言いたいんだろうか?
「おっと、失礼いたしました。ところで衛兵たちよりお二人はキエルナへ向かわれるご予定で、馬車のチケットが入手できずに困っていると伺いました」
「はい、そうですね」
「それでしたら、ぜひ我々にその旅のお手伝いをさせていただけませんでしょうか?」
「……どういうことでしょうか?」
ニール兄さんがやや疑っているような表情で聞き返す。
「はい。今の状況ですと馬車の予約は相当難しいかと存じます。そこで、もしよろしければ今回のお礼も兼ねてキエルナまで魔動車でお送りいたしたいと思っておる次第です」
「えっ? 本当ですか?」
私はつい聞き返してしまった。
「もちろんでございます」
ヒューバート町長は紳士的な微笑みを浮かべたままそう答えた。
「あ、でもわざわざ私たちのためにそんな貴重な魔動車を……」
「いえいえ、実はそうでもないのです。と申しますのも、我々はキエルナの造幣局に用事がございまして。それでちょうど明日、出発する予定だったのです」
「でも……」
「造幣局へは職員が二人で向かう予定なのですが、魔動車は四人乗りなのです。つまり、二人分の空席があり、人を乗せても乗せなくても変わりません。いかがでしょうか? 我々としてもついでですので大した負担はございません」
なるほど。それならお言葉に甘えるのもいいかもしれない。
私がニール兄さんのほうを見て頷くと、ニール兄さんも小さく頷き返す。
「わかりました。じゃあ、お願いしてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。私としても恩返しができて何よりでございます」
こうして私たちは魔動車に乗せてもらい、キエルナへと向かうこととなったのだった。
なんでもこのホテルは町一番の高級ホテルだそうで、私たちの格好は場違いなのではないかと心配になってしまうほどだ。
もちろん宿泊費も相応で、この部屋に宿泊するとお店のひと月分の売上が飛んでいくことになる。
そんなホテルに泊まれた幸運に感謝しながらゆっくりしていると、なんとこの町の町長が尋ねてきた。
「ホリー様とニール様、本日は住民の救助にご尽力いただきありがとうございました。私はシュワインベルグの町長をしておりますヒューバートと申します」
ヒューバート町長はピッタリと体にフィットした濃い色の燕尾服に淡い色のズボンとウェストコート、白いシャツとクラヴァット、そして背の高いブーツという典型的な紳士の服装をしている。
対する私たちは質素な普段着なのでちょっと恥ずかしいが、失礼な対応をする訳にはいかない。
「ホワイトホルンから来ましたニールです。衛兵をしています」
「薬師のホリーです」
「どうぞお見知りおき」
ヒューバート町長は流れるように私の手を取り、手の甲にキスを落とす仕草をした。
「本日はお二人にお礼を申し上げに参りました。どうぞ、楽になさってください」
ヒューバート町長はとても紳士的にそう言ってくれるが、私としてはそれどころではない。
「ではヒューバート町長閣下、どうぞおかけください」
「ありがとうございます」
ニール兄さんがなんとか着席を促してくれ、私たちもようやく座ることができた。
「ところでホリー様」
「はい」
「ホリー様のことはですね。実はエルドレッド殿下よりお伺いしていました」
「え? そうなんですか?」
「はい。人を癒す奇跡の力をお持ちで、大変な勇気と人を救う決意をお持ちの類まれなる女性であると」
「え、そ、そんな……」
突然そんな風に褒められ、私は恥ずかしさで顔から火が出たかと錯覚しそうになる。
「私は今回のことで確信いたしました。エルドレッド殿下の仰っていたことは誇張でもなんでもなく、事実だったのだと」
「あ、あの……?」
ヒューバート町長は何を言いたいんだろうか?
「おっと、失礼いたしました。ところで衛兵たちよりお二人はキエルナへ向かわれるご予定で、馬車のチケットが入手できずに困っていると伺いました」
「はい、そうですね」
「それでしたら、ぜひ我々にその旅のお手伝いをさせていただけませんでしょうか?」
「……どういうことでしょうか?」
ニール兄さんがやや疑っているような表情で聞き返す。
「はい。今の状況ですと馬車の予約は相当難しいかと存じます。そこで、もしよろしければ今回のお礼も兼ねてキエルナまで魔動車でお送りいたしたいと思っておる次第です」
「えっ? 本当ですか?」
私はつい聞き返してしまった。
「もちろんでございます」
ヒューバート町長は紳士的な微笑みを浮かべたままそう答えた。
「あ、でもわざわざ私たちのためにそんな貴重な魔動車を……」
「いえいえ、実はそうでもないのです。と申しますのも、我々はキエルナの造幣局に用事がございまして。それでちょうど明日、出発する予定だったのです」
「でも……」
「造幣局へは職員が二人で向かう予定なのですが、魔動車は四人乗りなのです。つまり、二人分の空席があり、人を乗せても乗せなくても変わりません。いかがでしょうか? 我々としてもついでですので大した負担はございません」
なるほど。それならお言葉に甘えるのもいいかもしれない。
私がニール兄さんのほうを見て頷くと、ニール兄さんも小さく頷き返す。
「わかりました。じゃあ、お願いしてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。私としても恩返しができて何よりでございます」
こうして私たちは魔動車に乗せてもらい、キエルナへと向かうこととなったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる