63 / 182
第63話 従軍依頼
しおりを挟む
「よく来たな。そなたがホワイトホルンのホリーだな」
「はい。ホワイトホルンから来ましたホリーと申します」
「良い。楽にせよ」
そう言われ、私はスカートのすそをつまんで膝をちょこんと折るという窮屈な姿勢をやめた。
「エルドレッドより話は聞いている。市民を助けるために色々と尽力してくれたこと、感謝する」
「ありがとうございます」
私は魔王城の謁見の間で今、魔王様の御前にいる。数段高い場所にある玉座にはエルドレッド様とよく似た魔族の男性が座っており、ものすごい威厳を放っていて思わず圧倒されてしまいそうになる。
「さて、礼を言いたかったということもあるが、今日はホリーの腕を見込んで頼みがあるのだ」
「頼みですか?」
「そうだ。現在、我々は人族の国シェウミリエ帝国軍と戦争状態に突入している」
「え? 戦争ですか?」
たしかに人族の国がゾンビを発生させる魔道具を使って私たちにとんでもないことをしたということは知っている。だが、話し合いでどうにか解決することはできなかったのだろうか?
「まずは経緯を説明しよう。ホリー、君も知っているだろうがシェウミリエ帝国の者たちがゾンビ発生器を使ってボーダーブルクを攻撃したことは知っているだろう」
「はい」
「それに対して我々は抗議を行った。しかし、シェウミリエ帝国はそれに対してラントヴィルという我々の村を襲い、村の住民を皆殺しにするという暴挙に及んだ」
「みな……ごろし?」
「そうだ。建物はすべて焼き払われ、老若男女の区別なく殺された。特に女は……いや、それはやめておこう。それを知ったボーダーブルク軍は怒り、報復としてシェウミリエ帝国の砦を襲撃し、敵兵とその直接的な協力者を殺害した」
「……」
「それに対し、シェウミリエ帝国軍はコーデリア峠を陥落させるべくおよそ一万の軍を差し向けてきた」
「そんな……」
「そこでホリーよ。そなたには従軍し、負傷兵と捕虜の治療をしてもらいたい」
「え? 人族もですか?」
「そうだ。我々は殺すことを是とはしていない。それにそなたは人族だ。人族であるそなたが魔族側におり、捕虜の治療をしていると知らしめることで彼らにも我々は敵ではないということを理解してもらいたいのだ」
「……」
私は、どうしたらいいんだろうか?
いくら治療をしに行くとはいえ、いきなり戦争に行ってくれと言われても決められない。
それに、私は本当に行ってもいいのだろうか?
魔族を治療するのは当然だ。私は魔族であるおじいちゃんに育ててもらった魔族の同胞だ。
だからゾンビをわざわざ増やすような魔道具を使って酷いことをしてくるような人族は、私にとって仲間でもなんでもない。
あんな魔道具さえなければ、ニール兄さんだって腕を失うことなどなかったのだ。
そうしたことに無関係な人族を治療するならまだしも、その首謀者の仲間を私が治療していいのだろうか?
いや、でも私はおじいちゃんにどんな人でも助けられるならば助けるのが薬師としての正しい姿だと教わった。
傷ついている人がいるなら、助けを求めている人がいるなら救う。それが薬師だ。
でも、だからといって……。
「ホリー」
「え?」
私が悩んでいるのを察してくれたのか、ニール兄さんが優しく声をかけてくれた。
「自分が正しいと思うことをすればいいんだ」
「正しいと……思うこと?」
「そうだ。ホリーはなんだ? あのグラン先生の孫娘だろ?」
その言葉に私はハッとした。
「なら、グラン先生に恥じない道を選べばいいんだ」
「おじいちゃんに……恥じない道……」
ああ、うん。そうだ。私はおじいちゃんの孫娘で、おじいちゃんの教えを受けた薬師だ。
薬師は人を助け、救う。魔族とか人族とか、そんなことは薬師には関係ない。
「うん。ありがとう、ニール兄さん」
私がそう言うと、ニール兄さんは満足そうに頷いた。
「魔王様、わかりました。私に助けられる命があるなら、行きます!」
「そうか。辛い役目になると思うが、頼むぞ」
「はい!」
私がそう返事をすると、ニール兄さんが魔王様に向かって発言した。
「魔王陛下、お願いがあります」
「……なんだ?」
私の斜め後ろにいるニール兄さんに対し、魔王様は怪訝そうな表情を浮かべた。
「俺に! ホリーの護衛をさせてください! ホリーのことを待っている人がホワイトホルンにはたくさんいます。それなのに俺一人でホリーを置いて帰るなんてできません」
「……」
魔王様は近くに立っている人に何かを確認した。
「いいだろう。ホワイトホルンにもホリーを護衛する者を派遣するように依頼をしておこう。そうすればそなたも正式な任務としてホリーについていくことが出来よう」
「ありがとうございます!」
「では、早速ボーダーブルクへと向かってもらおう」
「はい」
「この二人をボーダーブルクまで護送せよ」
「はは! かしこまりました」
魔王様の命令に衛兵の一人が力強く返事をする。
こうして私たちは再びボーダーブルクへと向かうこととなったのだった。
「はい。ホワイトホルンから来ましたホリーと申します」
「良い。楽にせよ」
そう言われ、私はスカートのすそをつまんで膝をちょこんと折るという窮屈な姿勢をやめた。
「エルドレッドより話は聞いている。市民を助けるために色々と尽力してくれたこと、感謝する」
「ありがとうございます」
私は魔王城の謁見の間で今、魔王様の御前にいる。数段高い場所にある玉座にはエルドレッド様とよく似た魔族の男性が座っており、ものすごい威厳を放っていて思わず圧倒されてしまいそうになる。
「さて、礼を言いたかったということもあるが、今日はホリーの腕を見込んで頼みがあるのだ」
「頼みですか?」
「そうだ。現在、我々は人族の国シェウミリエ帝国軍と戦争状態に突入している」
「え? 戦争ですか?」
たしかに人族の国がゾンビを発生させる魔道具を使って私たちにとんでもないことをしたということは知っている。だが、話し合いでどうにか解決することはできなかったのだろうか?
「まずは経緯を説明しよう。ホリー、君も知っているだろうがシェウミリエ帝国の者たちがゾンビ発生器を使ってボーダーブルクを攻撃したことは知っているだろう」
「はい」
「それに対して我々は抗議を行った。しかし、シェウミリエ帝国はそれに対してラントヴィルという我々の村を襲い、村の住民を皆殺しにするという暴挙に及んだ」
「みな……ごろし?」
「そうだ。建物はすべて焼き払われ、老若男女の区別なく殺された。特に女は……いや、それはやめておこう。それを知ったボーダーブルク軍は怒り、報復としてシェウミリエ帝国の砦を襲撃し、敵兵とその直接的な協力者を殺害した」
「……」
「それに対し、シェウミリエ帝国軍はコーデリア峠を陥落させるべくおよそ一万の軍を差し向けてきた」
「そんな……」
「そこでホリーよ。そなたには従軍し、負傷兵と捕虜の治療をしてもらいたい」
「え? 人族もですか?」
「そうだ。我々は殺すことを是とはしていない。それにそなたは人族だ。人族であるそなたが魔族側におり、捕虜の治療をしていると知らしめることで彼らにも我々は敵ではないということを理解してもらいたいのだ」
「……」
私は、どうしたらいいんだろうか?
いくら治療をしに行くとはいえ、いきなり戦争に行ってくれと言われても決められない。
それに、私は本当に行ってもいいのだろうか?
魔族を治療するのは当然だ。私は魔族であるおじいちゃんに育ててもらった魔族の同胞だ。
だからゾンビをわざわざ増やすような魔道具を使って酷いことをしてくるような人族は、私にとって仲間でもなんでもない。
あんな魔道具さえなければ、ニール兄さんだって腕を失うことなどなかったのだ。
そうしたことに無関係な人族を治療するならまだしも、その首謀者の仲間を私が治療していいのだろうか?
いや、でも私はおじいちゃんにどんな人でも助けられるならば助けるのが薬師としての正しい姿だと教わった。
傷ついている人がいるなら、助けを求めている人がいるなら救う。それが薬師だ。
でも、だからといって……。
「ホリー」
「え?」
私が悩んでいるのを察してくれたのか、ニール兄さんが優しく声をかけてくれた。
「自分が正しいと思うことをすればいいんだ」
「正しいと……思うこと?」
「そうだ。ホリーはなんだ? あのグラン先生の孫娘だろ?」
その言葉に私はハッとした。
「なら、グラン先生に恥じない道を選べばいいんだ」
「おじいちゃんに……恥じない道……」
ああ、うん。そうだ。私はおじいちゃんの孫娘で、おじいちゃんの教えを受けた薬師だ。
薬師は人を助け、救う。魔族とか人族とか、そんなことは薬師には関係ない。
「うん。ありがとう、ニール兄さん」
私がそう言うと、ニール兄さんは満足そうに頷いた。
「魔王様、わかりました。私に助けられる命があるなら、行きます!」
「そうか。辛い役目になると思うが、頼むぞ」
「はい!」
私がそう返事をすると、ニール兄さんが魔王様に向かって発言した。
「魔王陛下、お願いがあります」
「……なんだ?」
私の斜め後ろにいるニール兄さんに対し、魔王様は怪訝そうな表情を浮かべた。
「俺に! ホリーの護衛をさせてください! ホリーのことを待っている人がホワイトホルンにはたくさんいます。それなのに俺一人でホリーを置いて帰るなんてできません」
「……」
魔王様は近くに立っている人に何かを確認した。
「いいだろう。ホワイトホルンにもホリーを護衛する者を派遣するように依頼をしておこう。そうすればそなたも正式な任務としてホリーについていくことが出来よう」
「ありがとうございます!」
「では、早速ボーダーブルクへと向かってもらおう」
「はい」
「この二人をボーダーブルクまで護送せよ」
「はは! かしこまりました」
魔王様の命令に衛兵の一人が力強く返事をする。
こうして私たちは再びボーダーブルクへと向かうこととなったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる