魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第93話 謎の宝玉と奇跡

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 魔王様との謁見を終えた私は魔道具研究所に戻ってきた。すると中に入るなりニコラさんが駆け寄ってきた。

「やぁやぁ、やっと帰ってきよったな。さ、ホリーちゃん。行くで?」
「え?」

 ニコラさんは私の手をつかみ、ぐいと引っ張った。痛くはないがよろけてしまったところをニール兄さんが止めてくれる。

「ちょっと、ニコラさん! やめてください」
「お? なんや?」
「引っ張って転んだり痛くしたらどうするんですか?」
「お? おお、せやな。ホリーちゃん、すまんすまん。ナイトくんも堪忍な」

 ニコラさんはあっけらかんとした様子でそう言った。

「あ、はい。痛くなかったですから……」
「ほんでな。あの宝玉、おもろいことが分かったんや」
「え? あのゾンビのですか?」
「せや。ちゅうわけで、研究室にはよいや」
「あの……ちょっと着替えてからで……」
「ん? 服なんてなんでもええやろ」
「あの、借り物のドレスなので……」
「ええやん。どうせ余っとるやつやろ?」
「ですが……」

 するとそこへタイミングよくブリジットさんがやってきた。

「おや、ホリーさん。お帰りなさい。あら? ニコラさん? もしかしてホリーさんに無理を言っているところですか?」
「んなっ!? そ、そないなこと、あるわけないやろ? なあ?」

 慌ててそう言い繕うニコラさんをじっと見ると、ブリジットさんは大きなため息をついた。

「ニコラさんはもう何百年も長く生きてるんですから、成人したばかりの女性に迷惑をかけるのはやめてください。どうせドレス姿のホリーさんをそのまま研究室に連れ込もうとしたんでしょう?」
「んぐっ!?」

 ニコラさんが変な声を出した。

「さあ、ホリーさん。お召し替えをしましょうね」
「はい。あの、ありがとうございます」
「いいんですよ。ニコラさんは誰に対してもあんな感じですから。次からはきっぱり、強く強く断ってくださいね。ニコラさんは研究以外に興味がない人なんですから」

 こうして私は一度自室に戻り、普段着に着替えた。そして改めて迎えに来たニコラさんに連れられ、研究室にやってきた。

「これや」

 ニコラさんはいくつかの赤黒い宝玉が載せられたトレイを差し出してきた。

「これは?」
「これはボーダーブルクで回収した赤い宝玉や」
「え? こんな色でしたっけ?」
「いや、ちゃうな。もっと鮮やかな赤やったが、全部こうなったんや」
「えっと?」
「MM回路を壊したのもそうでないのも、みんなこうなったんや。一個なんてちゃんと作動させとったのにこうなったんや」
「……壊れたってことですか?」
「せや。ボーダーブルクでばら撒かれたやつは全部寿命があったんや」
「はぁ。じゃあ、ホワイトホルンで見つかったものとは別のものなんですか?」
「んー、難しいところやな。構造自体は同じやし、出所は多分同じや」
「えっと、あれ? ということは、ホワイトホルンの宝玉には寿命がないってことですか?」
「せや。エル坊の研究室に保管されとるが、今でも綺麗な赤色やで」
「……えっと、どういうことなんですか?」
「ボーダーブルクの宝玉はな。人族の血液が使われとったんや。それがホワイトホルンの奴との違いやな」

 そういえばホワイトホルンで見つかったあの宝玉は血液を核にしていて、未知の生き物のものだと言っていたっけ。

「きっとボーダーブルクで見つかった宝玉はホワイトホルンのやつの廉価版やな。きっとホワイトホルンのはものすごい希少な生物の血液を使っとるんやろうな。問題はそれが一体なんなのかっちゅう話やがな……」

 ニコラさんは微妙な表情でそう語った。ニコラさんが魔道具の話をしているのにこんな表情をするのは珍しい気がする。

「次はエル坊の研究室や。行くで」
「えっ? エルドレッド様はずっと戻ってきてないって……」
「ああ。今日は戻ってくるはずやで。エル坊はそういう子やからな」
「はぁ」

 そう言って私たちはニコラさんの研究室を出て、エルドレッド様の研究室へ向かうのだった。

◆◇◆

「エル坊~! おるやろ! 連れてきたで!」

 ニコラさんが乱暴に研究室の扉を叩くとそのままドアノブを回して引っ張った。

 鍵の掛かっていなかった扉はあっさりと開き、そこには白衣姿のエルドレッド様が立っていた。

 だがそうとう疲れが溜まっているようで、目の下にはうっすらとクマができている。

「ニコラ! 勝手に開けるなとあれほど……ああ、これは失礼しました。ホリーさん、ニールさん、ご無沙汰しています」

 エルドレッド様はいつもどおりの紳士な笑顔で挨拶をしてくれた。

「お久しぶりです」

 私たちは挨拶もそこそこに、研究室の中に入った。

「エル坊、ホワイトホルンの奴や。早う出しいや」
「そんなにせっつかないでください」

 そう言いながらもエルドレッド様はどこか楽しそうに研究室の奥に行き、あのときの赤い宝玉を運んできた。

 その宝玉は以前と変わらず、鮮やかな赤色だ。

「これなんやけどな。付与が出来へんのや。どないな方法でも核のところで弾かれてもうてな。ほんで……」

 ニコラさんは何を言っているのかさっぱり分からない説明を始めた。

「ホリーさん、要するにこの宝玉に魔法を使ってなんらかの機能を持たせる方法はおそらく存在しないのです」
「えっと? でも、ゾンビを生み出す呪詛? が入ってたんですよね?」
「そうです。そこなのです。そこでちょっと実験をしてみたいのですが、この宝玉にホリーさんの奇跡を込めてみて貰えませんか?」
「え? 込めるって、どういうことですか?」
「この宝玉の中に閉じ込めるような感覚でやってみてください」

 そう言ってエルドレッド様は宝玉を差し出してきたので、私はそれを受け取る。

「なんでもいいんですか?」
「はい。ああ、どうせなら影響を及ぼし続けるものがいいかもしれません。たとえばゾンビを浄化し続ける奇跡などはありませんか?」
「それなら聖域の奇跡ですね。やってみます」

 私は宝玉を両手で包み込むように握り、その中に閉じ込めるようなつもりで聖域の奇跡を発動する。

 すると不思議なことに私と中心に発動するはずの聖域の奇跡はするりと宝玉に吸い込まれていき、同時に私の中から魔力が急激に失われたのを感じた。

「うっ」
「ホリー! 大丈夫か!?」

 頭がクラクラして思わずふらついてしまった。そんな私をニール兄さんが慌てた様子で支えてくれる。

「うん。ちょっと奇跡を使いすぎた感じになっちゃった。大丈夫だけど、今日はもうこれ以上使えないかも」
「ああ、無理するなよ」
「うん」

 私は近くの椅子に座らせてもらい、そこでようやくぽかぽかと暖かいものを握っていることに気付いた。

 握っていた手を広げると、なんとあの赤い宝玉が淡くキラキラとした金色の光を帯びている。

 あれ? どうしてだろう。この宝玉を見ていると暖かい気持ちになり、なぜか心が安らぐ。

「おお! やはり!」
「ビンゴやん! エル坊!」

 エルドレッド様とニコラさんは何やら大喜びしているが、私とニール兄さんは完全に蚊帳の外だ。

「ではホリーさん。その宝玉をこちらに」
「……はい」

 エルドレッド様に宝玉を手渡したが、自分のものでもないのになぜか喪失感を覚える。

 するとエルドレッド様は赤い宝玉をいつの間にか用意していた金のペンダントにはめ込み、私に差し出してきた。

「え?」
「ホリーさん、これを持って行ってください」
「あの、いいんですか?」
「はい。もうこれ以上研究できることはありません。であれば、これは持つべき人が持っているべきです」
「……私がですか?」
「そうです。ニコラもそう思っています」
「せやで。それはホリーちゃんが持っとるべきや」
「……ありがとうございます。大切にしますね」

 私はいそいそとペンダントを身に着けた。

 それは私の中で失われていた大切な何かを埋めてくれるかのようで、心がぽかぽかとした暖かいもので満たされるのを感じたのだった。
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