魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第171話 崩れ落ちる虚像

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 その声に振り向くと、一人の女性が全力でこちらに走ってくる。

 意味が分からないほど長い髪を地面に引きずりながらも必死に走り、ミヤマーとエルドレッド様の間に割り込んだ。

「どうか! どうかこの方をお助け下さい! この私の命であれば喜んで差し出します。ですからどうかこの方だけは!」
「なっ!?」
 
 女性は涙ながらに訴えてきた。突然の乱入にエルドレッド様は困惑し、剣を振り下ろすタイミングを失ってしまっている。

「わたくしはクラウディア、聖導教会の大聖女です。聖導教会が憎いのであればわたくしの命を奪いなさい。ですからどうかタクオ様だけは!」

 どうやらこの人がミヤマーの恋人のクラウディアさんらしい。

「クラウ……ディア……にげ……て……」
「タクオ様! いやですわ! わたくしにはタクオ様しか!」

 ミヤマーはこの人を助けるために戦った。この人も自分の命を躊躇ちゅうちょなく差し出せるほどにミヤマーさんを愛している。

 それが……どうしてこんな結果にならないといけないのだろう?

 そう思ったところで、私はクラウディアさんの胸元にぶら下がる聖導のしるしに気が付いた。

 ……もしかして?

「あの、クラウディアさん。クラウディアさんは本当にその人を愛しているんですか?」
「当然ですわ! タクオ様はわたくしの運命の人。タクオ様のいない人生など考えられませんわ!」

 そうきっぱりと言い切ったが、その瞬間だけ瞳がほんのわずかに虚ろになったように見えた。

 私はエルドレッド様の前に出て、クラウディアさんの肩に手を置く。

「え?」
「ホリーさん? 一体何を?」

 クラウディアさんが涙でぐしゃぐしゃになりながらも期待した表情で私を見た。エルドレッド様はますます困惑した様子だ。

「クラウディアさん、これが本当に正しいことなのかはわかりません。でも、やっぱりそれは間違っているって思うんです」

 私は聖域の奇跡を発動した。

「……え?」

 クラウディアさんの表情が真顔に戻った。そしてみるみる顔が青ざめていく。

「あ……わ、わた……くしは……どう……して……」

 クラウディアさんはそうつぶやくと、両手で頭を抱える。

「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 クラウディアさんは涙を流しながら絶叫した。

「クラウ……ディア……?」

 ミヤマーは虫の息であるにもかかわらず、クラウディアさんの心配をしている。

「どうして! どうしてわたくしは! ああ! 神よ! けがれたわたくしをお許しください!」

 そう叫んだクラウディアさんはミヤマーの腰にいている短剣を抜くと、自らの首に差し当てた。

「何を!」

 エルドレッド様が慌ててクラウディアさんの持つ短剣をはたき落とした。

「死なせてくださいませ! わたくしは! どうしてこんな男に神に捧げた純潔を!」

 そう叫んだクラウディアさんはそのまま白目をむき、失神してしまった。

「クラ……ウ、ディ……ア……ううっ……」

 ミヤマーもそのまま瞳を閉じ、ぐったりと動かなくなる。

 なんとも言えない空気が私たちの間を流れる。

 このままじゃやっぱり……。

「あの、私、ミヤマーの治療をします」
「え?」

 私の申し出にエルドレッド様が心底意外そうな表情をしている。

「すみません。でも、やっぱりこのままここで殺しちゃいけないと思うんです。そりゃあ、私たちがされたことは許せませんけど……」
「ホリーさん……」
「姫様! ワシは姫様のご決断を支持しますじゃ」
「マクシミリアンさん」
「まったく、しょうがないな。ホリーは。あ、隊長。そっち、お願いします」
「そうだね。ホリーちゃんなら絶対こう言うだろうしね」
「ホリーさん、ありがとう」

 ニール兄さんとヘクターさん、それにショーズィさんがミヤマーの体をひっくり返し、仰向けにした。

 うわ! ものすごい深い傷だ。

 いくつもの内臓も大きく傷ついており、どう考えてもこれは致命傷だ。

 普通であれば動くことすらままならない。

 ……それだけミヤマーのクラウディアさんに対する愛が深かったということなのだろう。

 私は傷口を洗浄すると、すぐさま大治癒の奇跡をかけた。

「ミヤマーさん、クラウディアさんを置いて一人で逝ってはいけませんよ。がんばってください」

 私はそう声をかけながら治療を続けていると、しばらくして少しずつ傷が塞がり始める。

 そうしてそのまま十分ほど大治癒の奇跡をかけ続けると、ミヤマーさんの傷はすっかりきれいになった。

「あの、エルドレッド様。これの解呪を」

 私は続いてミヤマーさんとクラウディアさんの胸元に光る赤い宝玉を指さした。
 
「ええ、そうですね」

 するとエルドレッド様がすぐに解呪の奇跡を通す場所を作ってくれたので、私は赤い宝玉に込められた呪いを解いた。

「しかし、ミヤマーをどうするおつもりですか? また戦いになれば……」
「ああ、それなら大丈夫や。とっておきのもん作ってきたで」

 ニコラさんがウキウキした表情でミヤマーさんに歩み寄ると、首輪のようなものを装着させた。

「それは?」
「魔封じの魔道具や」
「え?」
「これを着けとけば身体強化も使えへん。単なる人族や」
「……いつの間にそんなものを?」
「聖騎士の連中から仰山押収したやろ? あれを調べとったら思いついたんや」
「……」
「な? 役に立つ言うたろ?」

 ニコラさんはドヤ顔でそう胸を張るが、別にそんなものがなくても私たちはニコラさんがいなければどうなっていたか分からないのだ。

 そう感謝を伝えようと思ったところで突然立ち眩みが襲ってきた。

「あ……」

 私は思わずよろめいてしまったが、ニール兄さんがそっと抱きとめてくれる。

「ホリー、無茶しすぎだぞ」
「うん。そうだね。頑張りすぎちゃったかも」
「でも、よく頑張ったな」
「うん。ありがとう」

 ニール兄さんはそう言うと、私の頭を優しくポンポンしてくれたのだった。
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