ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎

文字の大きさ
75 / 124
第二章

第二章第18話 フラウに捧げる二百連(後編)

しおりを挟む
 いつも通り、妖精たちが宝箱を運んでくる。

 木箱、木箱、木箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、木箱、銀箱、銅箱だ。

「よし。銀箱があるな!」
『うん。楽しみだねっ』
「ああ。この銀箱をな。ふんっ! と気合を入れると金箱に――」

 残念ながら銀箱は銀箱のままだった。

「変わらないんかっ! 今の流れは絶対変わるところだっただろう! 何でだよっ!」
『ディーノ。でも銀箱だよっ! ステータス強化かもしれないよっ?』
「そ、そうだな」

 それもそうだ。フラウの言うとおりだ。

 そもそも、今までこのガチャを引いてきた感じだでは金箱が出るのは百連を引いて一回か二回くらいだった。だからそんなにポンポン出るものではないのだ。

 何しろ人生を変えるレベルの大当たりがでるのだから、たったこれだけの金額でそうポンポンと出ることなどあり得ない話なのだ。

「よーし。来い! ステータス強化!」

 銀箱が開き、箱の中からは【STR強化】が出てきた。

「よーし! いいぞ! STR 強化二回目だっ!」
『すごーいっ! おめでとう!』
「ありがとう。だが、【精霊花の蜜】を引くまでは止まれないからな」
『うん。ありがとう。ディーノ』
「ああ!」

 最後の箱を開ける。すると中から【石の矢×10】が出てきた。ショートボウをミゲルに盗まれて売り払われた俺としては何とも複雑な気分だ。

 俺はすぐに次の十連を引いていく。

 爆死だった。

 仕方ない。次だ。

 淡々と俺は次の十連を引く。爆死だった。

「まあいい。最後に【精霊花の蜜】を引けば俺の勝ちだ」
『うん。ディーノ。今日は落ち着いていていい感じだねっ』
「ああ。今日の俺は一味も二味も違うからな。今の俺はこの程度で迷ったり動揺したりなんか、するわけがない。俺は必ず【精霊花の蜜】を引けるって、信じているからな」
『一念天に通ずってやつだねっ』
「おお。何だか難しい言葉を知っているな。どういう意味なんだ?」
『えっとね。何かを成し遂げようと一生懸命に頑張ると、その思いと努力が神様に届いて必ず成功するって意味だよっ!』
「そうなんだ。そんな難しい言葉を知っているなんてすごいな。フラウは」
『えへへ。妖精は賢いのだーっ』

 そう言ってフラウは可愛らしく胸を張った。

 そのポーズと先ほどの博識ぶりのギャップに何となく笑みがこぼれそうになったが、俺は危うく踏みとどまった。

 まさにフラウの言うとおりなのだから、笑うなんて失礼だ。

 一念天に通ず。

 そう。これはまさにガチャを引く者のためにあるような言葉だ。

「よしっ!」

 俺は必ず引けるという思いを確信に変え、一心にガチャを引いていく。

 だが、そこからは☆5はおろかステータス強化も出ないという爆死が延々と続いた。

 まだマシだったのは 151 連目の【毒消しポーション】くらいだろう。盗まれてしまったショートボウも引くことができなかった。

 そうして気が付けば最後の十連となってしまった。

 ここまで出た金箱はたったの一つ。ステータス強化も序盤の二つしか引けていない。

 そう。完全に追い込まれてしまったのだ。序盤の良い流れを全く活かすことができずにずるずるとここまで来てしまった。

「まずいな……」

 焦りがこみ上げてくる。

 いったん撤退して、流れを変えるべきか?

 そんな後ろ向きな考えが頭をよぎった。

 だがそんな俺の視界の端に【精霊花の蜜】を引くと信じてくれているフラウの姿が映る。

 その瞬間俺はハッとなり、それと同時にこんな弱気なことを考えてしまっていた自分にショックを受けた。

 俺は……。俺は一体何を弱気になっているんだ!

 このバカディーノ!

 お前はフラウのために【精霊花の蜜】を引くと宣言したじゃないか!

 そうだ。ここまでずっと☆5が出なかったのは! 今っ! ここでっ! 【精霊花の蜜】を引くためじゃないかっ!

 一念天に通ず。

 そう。つまりそういうことだ。

 俺は瞼を閉じ、そして大きく深呼吸をした。

 目を開けると目の前にはいつものガチャ画面が俺を待っている。

 そうだ。フラウは俺が【精霊花の蜜】を引くのを待っているのだ。

「よし! 俺は! 【精霊花の蜜】を! 引くっ!」

 確信と共に繰り出された俺の人差し指がガチャを引くボタンをタップする。

 その指の動きは妙にスローモーションに見え、俺は自分がゾーンに入っていることを確信した。

 いける! これなら絶対にいける!

 そんな思いとは裏腹に、妖精たちはいつもと変わらない様子で宝箱を運んでくる。

 木箱、銀箱、木箱、銀箱、木箱、木箱、銅箱、木箱、木箱、銀箱だ。

 なるほど。銀箱が多いあたりはさすがに最後の十連ということだろう。

 だが俺は知っているぞ。

 この中の銀箱の一つが金箱に変わり、そしてその中から【精霊花の蜜】が出てくるのだ。

 一念天に通ず。

 引けないはずなどないのだ!

「さぁ! 来い!」

 まずは二つ目の銀箱だ。そして銀箱はきらりと光って金箱へと変化する。

「ほら! 知ってた! どうだ! それで中から【精霊花の蜜】だ! 来いっ!」

 金箱がゆっくりと開き、中身が飛び出してくる。

 そのモーションが何故かゆっくりに感じた。

 そして……。

【☆5 召喚術(フラウ)】

「え? え? あ、あ、あ、あ……」

 思わず言葉にならない声が漏れてしまった。

 ――絶望。

 引けるはずだった【精霊花の蜜】を逃してしまった。

 この事実が俺の中に重くのしかかる。

 絶望の中、俺はちらりとフラウの姿を横目で見た。

 その表情は――。

 ・

 ・

 ・

 笑顔だった。

 こんな失敗をしたというのに、フラウは笑顔でいてくれたのだ。

『ふふっ。ありがとう。ディーノっ!』

 フラウはにこりと笑ってそう言ってくれたのだ。

『これで一緒に冒険ができるねっ』

 そう言ってくれたフラウの笑顔が眩しくて。

 そう言ってくれたフラウの声が優しくて。

 なんだか、すごく安心してしまった。

 【精霊花の蜜】を引けていないのに。

 これで安心しちゃいけないはずなのに。

『ありがとう。ディーノ』

 いや。まだだ。まだ終わっていない。

 【精霊花の蜜】を引く。ただそのためだけに俺はこのガチャを引いてきたんじゃないか。

 諦めたらそこで試合終了だ。

 俺にはあと二つも銀箱が残っている。この二つを金箱に変え、【精霊花の蜜】を引けばよいのだ。

「フラウ。まだ終わっていない。一念天に通ず、だろ? 俺はまだ【精霊花の蜜】を諦めていないぞ」
『ディーノ……。うん。うん! ありがとうっ!』
「任せておけ」

 俺はタップして箱を開けていく。次の銀箱は変わらずだったが、中からは【VIT強化】が出てきた。

『おめでとう、ディーノ』
「ああ。ありがとう。だが、まだだ。あと一つ残っている」
『うん』

 次の箱からはいつもの【馬の糞】が出てきたが、そんなことはもはや気にならない。

 俺はこの二百連最後の銀箱を金箱に変え、一点狙いの【精霊花の蜜】を引き当てる。そんな正真正銘、究極の神引きを今ここで成し遂げるのだ。

 ついに最後の銀箱の番が回ってきた。しかも、この二百連の最後でもある。

 トリもトリ。全ての締めくくりを飾る最後のひと箱だ。

 俺はもうやるべきことを全てやりきった。

 もう無駄に祈ったり気合を入れたりする必要はない。

 ただただ、静かな気持ちで奇跡を見届ければいい。

 そんな穏やかな気持ちで見守る俺の目の前で銀箱はきらりと光り、金箱へと変わった。

 何だか、もう涙が出そうだ。

 そう。ここで奇跡の神引きが起きる。

 その瞬間にこうして自分が立ち会えたことを心から嬉しく思う。

 さあ、【精霊花の蜜】よ。出てこい!

 そして。

 そして……。

 ・

 ・

 ・

【☆5 槍術】

「ああああああああっ! ちげぇよ! お前じゃねぇっ!」

────
今回のガチャの結果:
☆5:
 MGC強化(大)
 召喚術(フラウ)
 槍術
☆4
 STR強化×2
 VIT強化
 鉄の鎧(上半身)
 鉄の兜
 毒消しポーション(低)
☆3
 テント(小)×4
 堅パン×3
 石の矢十本×4
 虫よけ草×5
 鉄のスコップ
 鉄の小鍋×2
 銅の剣×2
 皮の鎧(下)×3
 皮の鎧(上)×5
 皮の盾×4
 皮の水筒×2
 皮の袋×3
 皮の帽子
 片刃のナイフ
 木の食器セット×2
 薬草×4
 旅人のマント×4
☆2:
 ただの石ころ×15
 枯れ葉×14
 糸×13
 小さな布切れ×18
 薪×9
 動物の骨×13
 馬の糞×15
 皮の紐×9
 腐った肉×14
 藁しべ×21

================
 とりあえず、乱数は小説よりも奇なりといったところでしょうか(小説になったわけですが)。よくもまあこんな出目になったものだとしみじみ思います。G〇〇gle さんの乱数には空気を読む能力があるのかもしれません。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...