ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎

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第二章

第二章第49話 孤独な剣姫

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「何? なんなのこれは? ちょっと! ディーノ! フラウ!」

 エレナは当たりをキョロキョロと見回すが、周囲は完全な暗闇に包まれている。

「エレナっ! 大丈夫?」
「あ! フラウ! ああ、よかった。ちゃんといるわね。ねえ。これは一体どうなってるの? どうしてあたしはこんなに暗いところにいるわけ?」
「あのね。あたしもちゃんとは分からないんだけどね。あたしたち、たぶんどこかに転移させられちゃったんだと思うの」
「転移? 転移って何よ?」
「あたしもちゃんとは知らないんだけどね。人を別のところに一瞬で移動させる魔法があるらしいから、きっとそれかなって」
「えっ? そんな魔法があるの!?」

 エレナは目を見開いて驚きの声を上げると、すぐさま周りの様子を伺う。

「……そうね。でも、ディーノの気配もないしきっとそうね。ここは……雰囲気からするとあの迷宮の中っぽいわね」
「そっか……」

 フラウはそう言って俯くとそのままじっと押し黙る。

「フラウ? どうしたの?」
「あのね。エレナ」
「なあに?」
「大事なお話があるの」
「え? 何よ? こんなところで」
「あのね。あたし、多分もう少ししたらね。ディーノの MP が無くなってエレナとお話できなくなっちゃうと思うの」
「あ……な、何よ! ディーノったら! MPくらいもっと増やしておきなさいよ!」
「聞いてっ! でもね。ディーノは、きっとエレナのことを助けに来てくれると思うの。だから、絶対に信じて待っててね」
「え? ちょ、ちょっと! こんなところで一人なるなんて!」
「お願い! ね? あたしが、絶対にディーノを呼んでくるから! ね?」
「嫌! ねぇ、フラウ! 一緒に脱出しましょうよ!」
「エレナ。お願い。ここが迷宮の中だったらね。きっとすぐには出られないと思うの。だから、ね? お願い。あたしを信じて?」
「嫌よ! あたし!」
「ごめんね。エレナ。でも、多分ディーノのMPはそろそろなくなると思うの。だから最後に応援するね。エレナっ! がんばれっ!」
「あ……」

 フラウのエールによってエレナの体が淡く光り、それによって周囲の暗闇がわずかに照らし出された。

 ここは小さな小部屋のようで、その片隅に立つエレナの顔のすぐ目の前にフラウは浮かんでいる。

「フラウ……」
「うんっ! 絶対、絶対ディーノを呼んでくるから、待っててね」
「……い、いやよ!」
「エレナ。約束、だよっ! 絶対また会おうね!」

 フラウがそう言った直後、召喚状態が解除された。ディーノの MP が尽きたのだ。フラウの姿が溶けるように消えたのを目の前で見たエレナは明らかに取り乱す。

「ちょ、ちょっと。待ってよ! ねぇ! フラウ! ちょっと! 出てきなさいよ! ねぇ! お願いだから! ねぇ! フラウ!」

 エレナの取り乱した声が狭い部屋の中に響き渡り、そんなエレナの様子をフラウは辛そうに見つめている。

『ごめんね。あたしじゃ、どうしようもないの』

 そう呟いたフラウの声はエレナに届くことはない。

「嫌よ! こんな暗いところに一人だなんて! お願いよ! フラウ! フラウ! ディーノっ!」

 半狂乱になってフラウとディーノの名を呼ぶエレナだが、望んだ声が聞こえてくることはない。

『ごめんね。エレナ。でも、絶対にディーノを呼んでくるからねっ!』

 フラウはそう言い残すと部屋を飛び出していったのだった。

◆◇◆

 それからしばらく時間が流れた。フラウの応援によってもたらされた光もすでに消え、再びエレナは完全な暗闇の中にいた。

 しばらくの間は一人で騒いでいたエレナだったが、今は小部屋の隅に座り込んで体育座りのような恰好で壁に背中を預けており、時おり鼻をすするような音が聞こえてくる

「ぐすっ。どうしてよ。なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ」

 そう呟くが、もちろん誰かが返事をしてくれるということはない。

「そうよ! こんな迷宮、あたし一人で!」

 エレナは突如叫び声を上げて立ち上がるが、そのまま力なくストンと腰を落とした。

「……フラウ……」

 そして再び体育座りのような恰好で壁に背中を預けた。

「信じて……るんだからね」

 そう呟いたエレナは顔を膝に当てて小さく丸まった。それから再び鼻をすするような音が聞こえてくる。

「ディーノは何をやってるのよ。早く助けに来なさいよ!」

 エレナは突如大きな声で叫んだが、その声は狭い小部屋に空しく響き渡るだけだ。

 それから再び鼻をすする音が聞こえてくる。

「ディーノのばか……」

◆◇◆

「ああ、お腹すいたわね」

 暗闇の中でエレナはそう悪態をつくと乾パンと水筒を取り出した。そのままむさぼるように乾パンをかじっていく。

「あれ? もうないの?」

 腰に下げた革袋の中をごそごそと探すが食料は全て食べきってしまっていた。

「ちょっと! ディーノ! どうなってるのよ! 早く来なさいよ!」

 腹が満たされない苛立ちからかエレナは大声で叫んだが、その声に応える者は誰もいない。

「はぁ。助けなんて来るのかしら」

 エレナはぼそりと呟く。

「無理、よね。ディーノが助けに来てくれるって言ったって、ディーノだって弱っちいんだもの。助けになんか来たら殺されちゃうわよね……」

 エレナは体育座りのような恰好で膝を抱え、そしてその膝に顔を埋める。

「何よ! あんな弱っちい奴らばっかりだから攻略が進まないんじゃないの。そうよ! あんな弱っちい奴らばっかりの冒険者ギルドが悪いのよ! 何よ! 何よ何よ!」

 勢いよく不満を口にしたエレナだったが、その声は小部屋にむなしく響くだけだ。

「……なに、よ……」

 力なくそう呟いたエレナは膝を抱えて座り込むと、やがて嗚咽が漏れ始めたのだった。

◆◇◆


「何日、経ったのかしらね……」

 暗闇の中、何の刺激もない空間に取り残されたエレナはすでに時間の感覚を喪失していた。

「ぐすっ。ディーノ……。フラウ……」

 エレナは小さく鼻をすすると二人の名前を呼んだ。それから何度目なのか分からないほど吐き捨てた不満を口にする。

「どうして、あたしがこんな目に……」

 エレナは再び鼻をすする。

「あの、オカマのせいよ……」

 そう言ったところで、それを咎めてくれる者もいなければ肯定してくれる者もいない。

「……寂しい」

 暗闇の中ぼそりと呟く。

「……ディーノ……早く……来なさいよ……バカ……」

 エレナは自分の膝をぎゅっと抱えると顔をその間に埋める。

「どうして、誰も助けに来ないのよ……」

 そう言ったエレナから嗚咽が漏れ始める。

 そうしてしばらくの間ぐずぐずと泣いていたエレナはぼそりと呟いた。

「……あたしが、いけなかった……のかな……」

 エレナの脳裏にギルドで、前線基地で散々に他の冒険者たちに浴びせてきた暴言の数々がよぎる。

「そう、よね。あれだけバカにされたら、命がけで助けようだなんて……」

 再びエレナが鼻をすすったエレナは小さく呟いた。

「ごめん……なさい……」

 エレナがぎゅっと膝を強く抱え込んだその時のだった。

『クケケケケ。憎イ、カ?』
「誰?」
『憎イ、カ?』
「……」

 エレナは腰にいた細剣に手をかける。

『ココカラ、デタイ、カ?』
「出たいに決まってるでしょ!」
『デテ、ドウスル?』
「決まってるわ! ディーノに会うのよ!」
『ダガ、ソイツハ、オマエヲ、キラッテルゾ?』
「嫌ってる……?」
『ソイツハ、オマエノ、誘イヲ断ッタダロウ?』

 エレナは息を呑み、そして悲しそうな表情で顔を伏せる。

『オマエハ、ソイツガ、欲シインダロウ?』
「……」

 エレナは唇を噛む。

『チカラガ、ホシイカ? チカラガ、アレバ、ソイツハ、オマエノ、モノダ』
「ディーノが……あたしの、もの?」
『ソウダ。ソイツハ、オマエノ、オモイドオリダ』
「ディーノが……思い通り……あ、あたしは……」

==============
次話からはいよいよ本編(?)のガチャ回が始まります。

次回更新は通常通り、2021/05/12 (水) 21:00 を予定しております。
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