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第二章
第二章第64話 リベンジマッチ
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「あの、アントニオさん」
支部長室を出るなりエレナがトーニャちゃんに話しかけた。
「何かしらン?」
「この前は侮辱してしまい、すみませんでした」
「あらン? いいのよン。決闘して終わったことだもの」
「ですが……」
「じゃじゃ馬ちゃん。本当に変わったわねン。やっぱり恋は乙女を変えるのねン」
そう言いながらトーニャちゃんは相変わらずの見事な巨体をくねらせている。
「……あたし、自分の間違いに気付けたんです。フラウが、それにカリストさんやアントニオさんがちゃんと向き合ってお話してくれたから。あたし、ディーノに助けてもらえるまでのことはあんまり覚えていないんですけど……でもきっと皆さんのおかげで悪魔の誘惑に負けずに戦えたんだと思います」
「そう。良かったわねン」
素っ気なくそう答えたトーニャちゃんの眼差しは暖かい。
「そこで、お願いがあるんです」
「何かしらン?」
「もう一度、手合わせをしてくれませんか?」
「あらン? 腕を上げたって言うのかしらン?」
「……負けたままではいたくありません」
「そう。いいわよン。それじゃあ今日はもう遅いし、明日のお昼に訓練場にいらっしゃい」
「はい!」
そう言い残し、トーニャちゃんはギルド支部の奥へと消えていったのだった。
◆◇◆
翌日、指定された時間に俺たちは訓練場へとやってきた。訓練場は貸切となっており、がらんとした広い訓練場は静寂に包まれている。
「なあ、エレナ。本当に今日で大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。何日も飲まず食わずだったなんて思えないくらい体の調子がいいの。きっとフラウのおかげね」
「ならいいんだが」
たしかにエレナが自分で言うとおり、迷宮からの帰り道でも調子良さそうだった。もしかするとフラウのあの治療は特別なのかもしれない。
一方の褒められたフラウはというと、まんざらでもなさそうだ。
うん。よくわからないが、これなら大丈夫そうな気がする。
それから他愛もない会話をして待っているとトーニャちゃんがやってきた。
「あらン? もう来ていたのねン。それじゃあ、準備は良いかしらン?」
「はい。いつでも大丈夫です」
エレナそう言って愛用の細剣を抜くと構えを取った。
「さあ、いつでもかかってらっしゃい」
「はい!」
エレナは素早く距離を詰めると華麗な連撃を繰り出した。一方のトーニャちゃんはまたしても一歩も動かずにその攻撃をさばききっている。
相変わらずのハイレベルな試合だ。
だが、今回のエレナは前回ほど頭に血がのぼっていないということもあるのだろう。かなり冷静に戦っており、まるでトーニャちゃんの反応を探るかのように上下左右に攻撃を散らせているのだ。
「随分と戦えるようになったじゃない。彼の愛の力からしらン?」
「……」
以前のエレナなら間違いなく取り乱していたであろう揺さぶりにも動じず、ひたすら冷静に攻撃を繰り出している。
それに対するトーニャちゃんはやはり一歩も動かずにさばききっている。
さすがだ。引退したと言えどもやはりトーニャちゃんはすごい。
だが何度防がれても今日のエレナは焦ることなく、淡々と強弱をつけながら攻撃を繰り出し続けている。
これは……もしかするとジャイアントキリングもあるかもしれない。
そう思って見ていると、エレナが突如宣言した。
「アントニオさん。今回は勝たせてもらいます」
「あらン? そう簡単にいくかしらン?」
「はい」
エレナは突然攻撃のテンポを変えた。トーニャちゃんの左側へ左側へと円を描くように移動すると細剣がある分のリーチの差を活かしてチクチクと攻撃を始めた。
これにはさすがのトーニャちゃんも動かずに対応するということはできずにステップを踏んで体を回転させて対応する。
「やはりそうでしたか」
エレナはそう言って一気に移動のスピードを上げると一瞬でトーニャちゃんの後ろに回りこんでその背中を突いた。
「ふう。参ったわン。負けねン」
そう言ってトーニャちゃんは両手を上げて降参の意を表した。
おおお!? あっさり勝っちゃったぞ!
「やはり、動かなかったんじゃなくて動けなかったんですね」
「そうなのよン。悪魔の力にかなり浸食されたフリオちゃんと戦った後遺症で、あまり素早く動けなくなっちゃったのよねン」
「そうだったんですね」
「そうよン。だからこの前も、今日みたいに戦われていたらあたしが負けていたはずよン」
「……あの時のあたしは、周りのことなんて見えていませんでしたから」
「でも、こうしてきちんと成長した姿が見られて嬉しいわン。もう、じゃじゃ馬ちゃんだなんて呼べないわねン」
「それは……」
そう言ってエレナは恥ずかしそうに頬をかいて俯いたのだった。
============
次回「第二章第65話 復活」は通常通り、2021/06/11 (金) 21:00 の更新を予定しております。
支部長室を出るなりエレナがトーニャちゃんに話しかけた。
「何かしらン?」
「この前は侮辱してしまい、すみませんでした」
「あらン? いいのよン。決闘して終わったことだもの」
「ですが……」
「じゃじゃ馬ちゃん。本当に変わったわねン。やっぱり恋は乙女を変えるのねン」
そう言いながらトーニャちゃんは相変わらずの見事な巨体をくねらせている。
「……あたし、自分の間違いに気付けたんです。フラウが、それにカリストさんやアントニオさんがちゃんと向き合ってお話してくれたから。あたし、ディーノに助けてもらえるまでのことはあんまり覚えていないんですけど……でもきっと皆さんのおかげで悪魔の誘惑に負けずに戦えたんだと思います」
「そう。良かったわねン」
素っ気なくそう答えたトーニャちゃんの眼差しは暖かい。
「そこで、お願いがあるんです」
「何かしらン?」
「もう一度、手合わせをしてくれませんか?」
「あらン? 腕を上げたって言うのかしらン?」
「……負けたままではいたくありません」
「そう。いいわよン。それじゃあ今日はもう遅いし、明日のお昼に訓練場にいらっしゃい」
「はい!」
そう言い残し、トーニャちゃんはギルド支部の奥へと消えていったのだった。
◆◇◆
翌日、指定された時間に俺たちは訓練場へとやってきた。訓練場は貸切となっており、がらんとした広い訓練場は静寂に包まれている。
「なあ、エレナ。本当に今日で大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。何日も飲まず食わずだったなんて思えないくらい体の調子がいいの。きっとフラウのおかげね」
「ならいいんだが」
たしかにエレナが自分で言うとおり、迷宮からの帰り道でも調子良さそうだった。もしかするとフラウのあの治療は特別なのかもしれない。
一方の褒められたフラウはというと、まんざらでもなさそうだ。
うん。よくわからないが、これなら大丈夫そうな気がする。
それから他愛もない会話をして待っているとトーニャちゃんがやってきた。
「あらン? もう来ていたのねン。それじゃあ、準備は良いかしらン?」
「はい。いつでも大丈夫です」
エレナそう言って愛用の細剣を抜くと構えを取った。
「さあ、いつでもかかってらっしゃい」
「はい!」
エレナは素早く距離を詰めると華麗な連撃を繰り出した。一方のトーニャちゃんはまたしても一歩も動かずにその攻撃をさばききっている。
相変わらずのハイレベルな試合だ。
だが、今回のエレナは前回ほど頭に血がのぼっていないということもあるのだろう。かなり冷静に戦っており、まるでトーニャちゃんの反応を探るかのように上下左右に攻撃を散らせているのだ。
「随分と戦えるようになったじゃない。彼の愛の力からしらン?」
「……」
以前のエレナなら間違いなく取り乱していたであろう揺さぶりにも動じず、ひたすら冷静に攻撃を繰り出している。
それに対するトーニャちゃんはやはり一歩も動かずにさばききっている。
さすがだ。引退したと言えどもやはりトーニャちゃんはすごい。
だが何度防がれても今日のエレナは焦ることなく、淡々と強弱をつけながら攻撃を繰り出し続けている。
これは……もしかするとジャイアントキリングもあるかもしれない。
そう思って見ていると、エレナが突如宣言した。
「アントニオさん。今回は勝たせてもらいます」
「あらン? そう簡単にいくかしらン?」
「はい」
エレナは突然攻撃のテンポを変えた。トーニャちゃんの左側へ左側へと円を描くように移動すると細剣がある分のリーチの差を活かしてチクチクと攻撃を始めた。
これにはさすがのトーニャちゃんも動かずに対応するということはできずにステップを踏んで体を回転させて対応する。
「やはりそうでしたか」
エレナはそう言って一気に移動のスピードを上げると一瞬でトーニャちゃんの後ろに回りこんでその背中を突いた。
「ふう。参ったわン。負けねン」
そう言ってトーニャちゃんは両手を上げて降参の意を表した。
おおお!? あっさり勝っちゃったぞ!
「やはり、動かなかったんじゃなくて動けなかったんですね」
「そうなのよン。悪魔の力にかなり浸食されたフリオちゃんと戦った後遺症で、あまり素早く動けなくなっちゃったのよねン」
「そうだったんですね」
「そうよン。だからこの前も、今日みたいに戦われていたらあたしが負けていたはずよン」
「……あの時のあたしは、周りのことなんて見えていませんでしたから」
「でも、こうしてきちんと成長した姿が見られて嬉しいわン。もう、じゃじゃ馬ちゃんだなんて呼べないわねン」
「それは……」
そう言ってエレナは恥ずかしそうに頬をかいて俯いたのだった。
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