4 / 8
プロローグ
Episode4
しおりを挟む
『やけに調子がいいな』
練習に精を出す裕人を見て藍が感じたことである。
普段から思うがままに生き、だるければやらないし、やりたければやるしといった様子で、イマイチやる気のない奴というイメージが部内でも定着しつつあった今日この頃。
ダッシュ、ドリブル、シュートの練習、練習中のミニゲーム。どれを取っても、大会でしか見たことのないような本気レベルのキレのある、積極的なプレーをしている。
今までになかった事態に、チームメイトも色濃い異変を感じ始めていた。
練習も佳境に入り、大会に出るメンバーを中心にフルコートでゲームをしていた時だった。裕人を中心に組んだAチームと、順平を中心に組んだBチームとでの試合中。藍はBチームに入ることになった。
ゲームが第2クォーターに入った時のことである。
Bチームの部員がゴール下で藍からのパスを受け、レイアップの姿勢に入る。
それを裕人がガードしようと、高く飛び上がった。
バタンッ……
裕人が相手のレイアップシュートをガードし着地しようとした時、シュートを打った部員とぶつかり、バランスを崩して転んだ。
音こそ大きかったものの、そこまで激しい衝突では無かったため、ゲームを再開しようと部員たちは動き出すが、裕人はうずくまったまま動かない。
「おい、大丈夫か?」
いつもならちょっとやそっと捻挫したくらいではケロッとして動くはずのチームメイトが珍しく動かないため、不思議に思った藍が駆け寄った。
転んだ拍子に乱れた髪で、表情こそよく見えないものの、裕人が苦しんでいるように見えた。
「痛めたのどこだ?足首か?それとも膝か?」
なかなか動かず返答もしない裕人に、藍はさらに不安を覚え肩を揺すった。
「んー……だめみたい。」
駆け寄ってきた藍を見上げながら、裕人は呟いた。
「痛いのか?」
「うん。痛い」
「どこが痛いんだ?」
「ぜんぶ」
「足全体ってことか?」
「かたもやばいかも」
「──ちょっと待ってろ」
口調は穏やかだが、いつも無表情な顔を苦痛に歪めている裕人に不安を覚えた藍は、順平のもとへ走り、二言三言話してから、上着を持って戻ってきた。
「保健室行くぞ……ほら。」
藍は仰向けの裕人を助け起こしながら、肩に上着をかけてやった。
足を引きずる裕人に肩を貸しながら、二人はゆっくりと歩き出した。
体育館から保健室は少し距離があるからこそ怪我を悪化させないようにと、藍は裕人の様子を見ながら慎重に歩みを進める。
体育館と保健室がある校舎をつなぐ連絡通路のあたりまで来たところで、裕人が足を引きずる音が不意に止む。
藍がそれを不思議に思い、裕人に様子を見ようと見上げると、裕人は藍の顎を掴んで額と額をくっつけた。
「──あい、俺いたいのなおっちゃった」
ついさっきまで足を引きずっていた奴に、抗えない力で手首を引っ張られていると気付いた時には、ゆっくり歩いてきた道を、すでに半分は逆戻りしていた。
「おい!急にどうしたんだよ!」
こちらには目もくれず黙々と歩いていく背中を、掴まれていない方の手で必死に押して抵抗するが、痛みを感じるほど握りしめられ、叶わない。
ぐいぐい引っ張られ、やっと裕人が足を止めた場所は、バスケ部の部室の前だった。
「意味わかんねーよ!いったいなにがした──」
裕人は部室のドアを開け、掴んでいた藍の腕を引っ張って自分の前まで持ってくると、背中を思いきり蹴った。
ドサッ……
藍の視界が暗転し、体は部室に置いてあったマットの上に投げ出される。
裕人は後ろ手に部室の扉を閉めながら無邪気な笑顔を浮かべ、鍵を閉めた。
「だいじょーぶ、痛くしないよ?」
練習に精を出す裕人を見て藍が感じたことである。
普段から思うがままに生き、だるければやらないし、やりたければやるしといった様子で、イマイチやる気のない奴というイメージが部内でも定着しつつあった今日この頃。
ダッシュ、ドリブル、シュートの練習、練習中のミニゲーム。どれを取っても、大会でしか見たことのないような本気レベルのキレのある、積極的なプレーをしている。
今までになかった事態に、チームメイトも色濃い異変を感じ始めていた。
練習も佳境に入り、大会に出るメンバーを中心にフルコートでゲームをしていた時だった。裕人を中心に組んだAチームと、順平を中心に組んだBチームとでの試合中。藍はBチームに入ることになった。
ゲームが第2クォーターに入った時のことである。
Bチームの部員がゴール下で藍からのパスを受け、レイアップの姿勢に入る。
それを裕人がガードしようと、高く飛び上がった。
バタンッ……
裕人が相手のレイアップシュートをガードし着地しようとした時、シュートを打った部員とぶつかり、バランスを崩して転んだ。
音こそ大きかったものの、そこまで激しい衝突では無かったため、ゲームを再開しようと部員たちは動き出すが、裕人はうずくまったまま動かない。
「おい、大丈夫か?」
いつもならちょっとやそっと捻挫したくらいではケロッとして動くはずのチームメイトが珍しく動かないため、不思議に思った藍が駆け寄った。
転んだ拍子に乱れた髪で、表情こそよく見えないものの、裕人が苦しんでいるように見えた。
「痛めたのどこだ?足首か?それとも膝か?」
なかなか動かず返答もしない裕人に、藍はさらに不安を覚え肩を揺すった。
「んー……だめみたい。」
駆け寄ってきた藍を見上げながら、裕人は呟いた。
「痛いのか?」
「うん。痛い」
「どこが痛いんだ?」
「ぜんぶ」
「足全体ってことか?」
「かたもやばいかも」
「──ちょっと待ってろ」
口調は穏やかだが、いつも無表情な顔を苦痛に歪めている裕人に不安を覚えた藍は、順平のもとへ走り、二言三言話してから、上着を持って戻ってきた。
「保健室行くぞ……ほら。」
藍は仰向けの裕人を助け起こしながら、肩に上着をかけてやった。
足を引きずる裕人に肩を貸しながら、二人はゆっくりと歩き出した。
体育館から保健室は少し距離があるからこそ怪我を悪化させないようにと、藍は裕人の様子を見ながら慎重に歩みを進める。
体育館と保健室がある校舎をつなぐ連絡通路のあたりまで来たところで、裕人が足を引きずる音が不意に止む。
藍がそれを不思議に思い、裕人に様子を見ようと見上げると、裕人は藍の顎を掴んで額と額をくっつけた。
「──あい、俺いたいのなおっちゃった」
ついさっきまで足を引きずっていた奴に、抗えない力で手首を引っ張られていると気付いた時には、ゆっくり歩いてきた道を、すでに半分は逆戻りしていた。
「おい!急にどうしたんだよ!」
こちらには目もくれず黙々と歩いていく背中を、掴まれていない方の手で必死に押して抵抗するが、痛みを感じるほど握りしめられ、叶わない。
ぐいぐい引っ張られ、やっと裕人が足を止めた場所は、バスケ部の部室の前だった。
「意味わかんねーよ!いったいなにがした──」
裕人は部室のドアを開け、掴んでいた藍の腕を引っ張って自分の前まで持ってくると、背中を思いきり蹴った。
ドサッ……
藍の視界が暗転し、体は部室に置いてあったマットの上に投げ出される。
裕人は後ろ手に部室の扉を閉めながら無邪気な笑顔を浮かべ、鍵を閉めた。
「だいじょーぶ、痛くしないよ?」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる