9 / 107
8 23歳 ②
しおりを挟むアルバートが国王に即位して落ち着きを取り戻した時、隣国側の辺境伯から書簡が届いた。
『長雨が続き天災が起こる可能性がある』
タイラーは今、アルバートの相談役。タイラーを交えて話をする。
タイラーは独自にすでに動いていた。
「ジェイデンから送ってもらった隣国の過去の天災も長雨による土砂崩れだった。その時も長雨が続いたらしい。水が溢れ農地は水没。逃げ遅れた平民が被害にあった。統制がとれていなかった為に平民は逃げ場を失った」
「対処方は?」
「領主が領民の命を護らないといけない。一刻も早く安全な領地へ領民を避難させる。土砂崩れの被害に合わないように山へは近づかせない」
「それでも山の近くに住んでる者はどうする」
「家は諦めてもらうしかない」
「それだと納得しないだろ」
「そこは支援するしかない」
「そうだな」
「領主が率先して領民の避難をさせる。それも早くしないと手遅れになる」
「分かった。侯爵家と子爵家と男爵家に書簡を直ぐに送る」
「辺境はもう独自で動いているし受け入れも可能らしい。一時的に避難させる領主にも受け入れるように書簡を送った方がいい」
「そうだな。周りの領主にも書簡を送る。今までこんな天災は無かった」
「今までは隣国へ雲が流れていたからね。風の流れ、地形の変化、理由は分からないけど、隣国の情報で対策は取れる。ただ、いや何でもない」
「ん?そうか、タイラー助かった」
王都に住む当主宛に書簡を送り、領主宛にも書簡を早馬で送った。
後は祈るのみ。
祈り虚しく天災は起きた。土砂崩れ、農地の水没、領民の死。
「水没した農地は直ぐには使えない。領民の避難先に領民の受け入れを頼むしかない」
アルバートはいち早く書簡を送り支援を送った。王宮にある備蓄食料も送る。
それでもきっと足りない。
農地が使えるまでは税の徴収は行わないと決めても被害が大き過ぎる。
天災から数週間後私はタイラーを呼び出した。
「タイラー、前に何か言いかけてやめたでしょ?あれは何だったの」
「隣国は統制がとれなかったって言っただろ?」
「ええ、だから平民は逃げ場を失ったのよね?」
「リリーアンヌ、天災が起こった領地の平民の死は何だと思う?」
「土砂崩れに巻き込まれたから」
「確かに土砂崩れに巻き込まれた平民もいた。それでも平民の死は流行り病と餓死だ」
「流行り病と餓死…」
「水没した領地は衛生的に悪い。そうすると流行り病が発症する。薬が買えない平民は苦しみながら死んでいく。それに少ない食料を平民同士で強奪し合う。年寄りや子供、弱い者は食べる物がなくて餓死する」
「それでも領地には領主がいるでしょ?領主は貴族よ?国からの援助も出るでしょ?」
「国からの援助は貴族に渡される。領民全員分が渡される訳じゃない」
「貴族は領民を護る義務があるわ。足りない分は自分達で賄わないと」
「被害があれば直すのにお金がかかる。なら分かるだろ?」
「最低限、もしかしたらそれ以下しか平民には渡らない。作物も採れない、配給される食料は最低限、きっと毎食食べれないわ」
「そうすると腐った物を食べる。病を発症し伝染し流行り病になる」
「そうね…」
「早急に領民の人数、避難した人数を調べる必要がある」
急いで領民の人数と避難した人数を調べた。
男爵家は辺境の隣の領地、辺境の騎士達の誘導で全員の避難が速やかに出来、全員無事だった。それに水没の被害も少ない。
子爵家は隣の領地へ避難させ領民は全員無事だった。亡くなったのは領主と数人の使用人だった。領主と使用人は全員の避難を確認し馬を逃している時に土砂崩れに巻き込まれた。子爵家は馬を育て売買し領地経営をしていたから。
天災による領地の被害は一番酷い。土砂崩れ、水没、今まで通り領地で生活するには数年かかるかもしれない。それでも領主達の命の引き換えに助けた馬達が生き残った。それに領民も。それなら他の領地で経営は出来る。国が保有する領地を与えれば領民達も生活には困らない。
問題は侯爵家。半数以上領地に取り残されている。領主は隣の領地へ避難していて支援も領地へ避難した人達にしか配られていない。
タイラーが言うようにもう既に流行り病は発症しているかもしれない。
「ボビー、私が使えるお金で流行り病に効く薬を大量に仕入れてほしいの。できれば早急に。お願い出来る?」
「承知しました」
ボビーなら遅くても数週間で用意してくれる。後は…、
「アルバート、私にアルバートと同じ権限が欲しいの」
「それは出来ないよ」
「分かってるわ。だから緊急時だけで良いの。今アルバートは天災で忙しいでしょ?他の処理が何一つ終わってないわ。だから緊急時だけ私に国王と同じ権限を持てるようにしてほしいの。そしたら私でも処理出来るわ。それに私が処理した案件の責任は全て私が責任を持つ。アルバートには絶対に迷惑をかけないから」
アルバートは真剣に考えている。アルバートと目が合う。
「リリーアンヌがそこまで言うには何か理由があるんだろ?」
私は「そう」とも「違う」とも言わない。
「分かった。緊急時だけだ」
「分かってるわ」
アルバートは『王妃にも国王と同等の権限を許可する』という王命の書簡を書いた。
6
あなたにおすすめの小説
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します
凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。
自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。
このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく──
─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる