悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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28 領民と向き合う

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皆で朝食を食べてからハミルが集めた領民と向かい合う。


「人殺し!」

「そうだそうだ!当主様は何も悪くない。悪いのは通行料を決めた王様とあんただ!」

「あんたも王様も俺達の当主様と家族を殺したんだから死を持って償え!」

「そうだそうだ!」

「俺達の当主様を返せ!」

「当主様を返せ!」

「当主様の家族を返せ!」

「返せ!返せ!返せ!返せ!返せ……」


領民達は「返せ」と何度も言っている。領民達の怒りの矛先は私とアルバートなのは私が一番良く分かっている。

ローレン隊長にも騎士達にもハミルにも何も口出しはしないでと伝えてある。

私は目を閉じ「ふぅ」と一息吐いて目を開ける。


「黙りなさい!」


私は大きな声を出した。領民達は静まり、


「貴方達が怒るのも無理はないわ。貴方達が言うように通行料は陛下と私が通した法案よ、それは事実。でも子爵が陛下に剣を向けたのも事実。

子爵がこの国に暮らす貴族である以上、陛下に剣を向ければそれは反逆。反逆し成功すれば生き、失敗すれば死。それも事実なの。子爵は反逆し失敗した。だから死んだ」

「それでも!俺達には優しい当主様だった。俺達にはかけがえのないお人だった」

「どれだけ優しい人でも立派な人でも、武力ではなく対話で解決しないといけないの。

今、私が武力を使い貴方達を押さえつける事は簡単よ。でもそれは新たな恨みを持つ事になる。恨みの先は死なの。今、貴方達の一人に私が殺されたら私の家族、ここにいる騎士達が貴方達を恨み殺す。そしたら貴方達の家族、友人がまた恨み殺す。それを繰り返す。結局恨みの先にあるのは死なの。

私は貴方達に生きてほしい。子爵が愛した貴方達だけでも生きてほしい。それが私の望み」

「そんな事言っても俺達は騙されないぞ!早くここから出て行け!あんたが入れる場所じゃない」

「私が入らなかったら貴方達は迫害を受けるわよ」

「どうしてだ!」

「当主が居ない領地は他の貴族に託される。当主が王に刃を向けたのはこの国に暮らす貴族は全員知っている。当主が王に反逆をした領民達を素直に受け入れると思うの?

王はこの国の象徴。

敬う相手に刃を向け、子爵は死んで何もする事はできない。ならその矛先は残された貴方達に向けられる。理不尽な仕打ちをされる。何度も何度も鞭で打たれ、寝ずに働かされ、女性は領民達の慰めものにされるかもしれない。子供達も働かされるわ。女の子なら売られるかもしれない。

それでも貴方達は私ではなく他の貴族が良かった?」

「脅しても無駄だ!」

「脅しではないわ、それが現実よ。

子爵は許されない事をしたの。許してはいけない事をしたの。どれだけ良い人でも、優しい人でも絶対にやってはいけない事を子爵はしたの…」


手を急に握られ私は下を向いた。私の手を握る小さい手。


「おねえちゃんなかないで」

「ルシー、お姉ちゃん泣いてないわよ」

「おねえちゃんのこころ、ずっとないてる」


ルシーは私の足にぎゅっと抱きついた。


「おねえちゃんはわるものじゃない。おねえちゃんはやさしいひと。とうしゅさまとおなじにおいがする」

「ルシーこっちへ来るんだ」

「いや。おねえちゃんさみしいってかなしいってこころがいってる。とうしゅさまにいきてほしかったっていってる。おねえちゃんずっとないてるの」

「ルシー?」

「この子は人の心を敏感に感じとる。空気と言うか纏う空気を感じとる」

「おねえちゃんわたしたちをたすけたいっていってる。わたしたちをどうしたいの?」

「お姉ちゃんね、当主様が愛した貴女達を帝国、違う国に逃したいの。この国に居たら辛い事しか待っていないから」


ルシーは私をじっと見つめ、


「わかった。わたしちがうくににいく。そのほうがしあわせなんでしょ?」

「ええ」

「おねえちゃん」

「なに?」


ルシーは私のドレスを引っ張り手で手招きをしている。私はルシーに合わせて屈み、ルシーは私の耳元で、


「ぼっちゃまのことはないしょにするね」


私はルシーと見つめあい、


「ごめんね、そうしてくれると助かるわ」


私はルシーの頭を撫でた。ルシーは嬉しそうに笑った。


「俺達はあんたの事は信じられない」

「今はそれで良いです。直ぐに許せるものでも信じられるものでもないもの。でもお話だけはさせてほしいの。帝国で何をするかだけでも聞いてほしいの。それから帝国へ行くかこの国に残るかを決めてほしいの」

「ルシー行くぞ」


ルシーの父親がルシーの手を引っ張って行った。


「妃殿下、申し訳ありません」

「ハミル良いのよ。貴方も私に思う所があるのに…」

「まあ、思う所はあります。ですが私も貴族の端くれです。今は領民を護る為に力を貸してもらえるならそれで」

「ありがとう」


ハミルが去った後、


「妃殿下大丈夫ですか?」

「私は大丈夫よ」

「領民達は話を聞いてくれるでしょうか」

「それはきっと大丈夫な気がするの」


ローレン隊長と話をしていると、こちらに向かって来る馬車が数台が見えた。


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