悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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29 別れの時間

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「姉上ー」


馬車から降りて走って来たライアンは私を抱きしめた。


「ライアン、ごめんね」

「俺も残りたかった」

「それは分かってる。それでもライアンはこの国に居ない方が良いの。数年したら戻ってこれるから、今は帝国で学んで来て、良い?」

「分かってるよ」


ライアンが離れ、カーターに目を向ける。


「カーターもごめんね」

「リリーアンヌ姉様、僕は大丈夫。今は帝国で学院に通うのが楽しみなんだ。この国には学院がないから」

「そうね。この国は家庭教師が付いて教えるものね。私も学院に通ってみたかったわ。楽しんで来てね」

「あっ、それとこれ兄様から預かってきたよ」


カーターに渡されたのはタイラーからの手紙。


「ありがとう。ライアン、少しゆっくりできるの?」

「どうだろう。エド」


馬車の近くにいたエドが走って来た。エドは公爵家の執事ハリーの息子。ゆくゆくはライアンに付く執事になる。今はハリーの下で勉強中だった。


「エド、少しはゆっくりできる?」

「そうですね、夕方にはここから少し行った隣の領地にある宿屋をご予約していますので少しなら」


1台の馬車が付いた。馬車の中から、


「お母様」

「リリーアンヌ」


私は思わず走って行った。両腕を広げるお母様に抱きついた。


「お母様……」

「あらあらリリーアンヌはいつから子供になったのかしら?」


そう言ってお母様は私を抱きしめ背中を優しく撫でる。


「妃殿下、邸の中で」

「そうね」


ローレン隊長が声をかけてくれてお母様と手を繋ぎ邸の中に入る。私が暮らす客間に案内しお母様とソファーに座る。ライアンとカーターも椅子に座り、エドは部屋の扉の所に立っていた。ミーナがお茶の準備をしてくれる。


「ミーナ元気にしていた?」

「はい奥様。妃殿下の側で毎日楽しい日々を送っています」

「迷惑をかけてない?」

「はい。では私はこれで」


ミーナが部屋を出て行き、


「リリーアンヌ、私も聞いただけだけど、」

「はい、知っています。側室の話が出ているそうですね」

「ええ、旦那様とお兄様が反対はしているけど、それもいつまでもつか。貴女が居ない王宮でフォスター公爵がアルバートに付きっきりなの。旦那様もお兄様もアルバートに会う事もできないらしいわ。それにタイラーも相談役を外されたらしいの。懸念していた通りになってしまったわ」

「アルバートを傀儡にするのはあの公爵なら簡単でしょうね。アルバートの側にはいつも息子のイーサンが付いています。イーサンを信用しているアルバートが公爵を信用するのも手に取るように分かります」

「ええ」

「私が王宮に帰ったら居場所はないかもしれませんね」

「そう思っていた方が良いわ。貴女が信頼できる者だけを側に置きなさい」

「はい」


それからは違う話をして楽しい時間を過ごした。

夕方近くになり、


「奥様、もうそろそろ。遅くなると危険ですので」

「そうね、エドありがとう」


楽しい時間はあっという間に過ぎる。お母様達を見送る為に外に出てきた。


「ライアン、気をつけてね。元気に暮らすのよ?」

「姉上また会えますよね?」

「ええ、また会いましょうね。それまで勉強を頑張るのよ?学院では友達を作って楽しんでほしいわ」

「はい。姉上も無理はしないで下さい。もしもう駄目だと思ったら義兄上と離縁して直ぐに帝国に来て下さい」

「そうね。できる限りの事はするけど、もしもう無理ってなったら離縁して帝国へ行くわ」

「姉上に会えるのを楽しみにしています」

「ライアン、お母様の事をお願いね」

「任せて下さい」


私はライアンと抱き合った。

ライアンと離れカーターと向き合う。


「カーター、貴方には寂しい思いをさせてしまったわ。一人で帝国へ行く事になってごめんなさい。タイラーを必ず説得する。だからそれまで待ってて」

「姉様、兄様は説得しても姉様の側から離れないと思います。父様とも母様ともきちんとお別れをしてきました。それに叔母様とライアンが一緒だから寂しくないです」

「そう、それなら良いけど」

「僕の事より姉様の方が僕は心配です。姉様はいつも急いている気がします。姉様、お体には気をつけて下さい。それとあまり頼りにならないかもしれないですけど兄様に頼って下さい」

「ええ、タイラーは頼りになるわ。タイラーにいつも助けられているのは私の方だもの」

「兄様をよろしくお願いします」

「ええ、貴方は私達の事なんて気にしないで楽しんで暮らすのよ?良い?」

「はい」


私はカーターを抱きしめた。

まだ子供だと思っていたライアンとカーターがもう大人なんだな、と寂しくもあり嬉しくもあった。


「お母様」


私はお母様に抱きついた。


「リリーアンヌ無理はしないで。父様に助けを求めなさいよ?」

「はい」

「お兄様もお義姉様も貴女には付いてるわ。帝国には私達もいる。それに貴女に手を貸してくれる人達もいる。貴女は一人じゃないわ。何でも一人で背負わないで。良い?母様と約束して頂戴」

「はい、約束します」

「リリーアンヌ」


母様は私をぎゅっと抱きしめた。


「貴女の側にいれなくてごめんなさい」


私は顔を横に振った。


「愛してるわ、私の可愛い娘、リリーアンヌ…愛し、て、る、わ……」


お母様が震えている。私も涙が止まらない。


お母様が馬車に乗り馬車は動きだした。先を行くライアン達を乗せた馬車、その後ろを行くお母様を乗せた馬車、その後ろには使用人達が乗る馬車や荷馬車、馬に跨り騎士達の姿が見えなくなるまで私は見送った。

『さよなら』は言わない。またいつか必ず会えるから。


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