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81 始まる処刑 ①
しおりを挟む3日はあっという間に過ぎた。
「罪人コナー、外に出ろ」
騎士がコナーの牢屋の鍵を開けた。
コナーは両腕を後ろで組まされ手首に鎖を巻かれた。両足首にも鎖をはめられ、後ろにいる騎士が鎖を持っている。
「歩け!」
「待って!最後の、最後の挨拶くらい許されるはずよ!」
「黙れ!」
「私達はこれから処刑される。処刑される者に最後の慈悲くらい与えても良いはずだわ。別に命を助けろなんて言っていないじゃない。ただ、別れの言葉を掛けるだけだよ。今まで私に仕えてくれていた者達にかける最後の言葉、それくらい許されても良いはずよ」
「分かった。手短に」
「ええ、ありがとう」
コナーは私の牢屋の前に立った。
後ろ手に縛られているコナーの手を取る事は出来ない。だから私は牢屋の柵から手を伸ばし頬に手を添えた。
「コナー、ごめんなさい。私がコナーに頼ったばかりに…、こんな事になってしまったわ。コナーにはまだ生きていてほしかった。この国を護る剣として貴方にはまだ、生きていてほしかった…」
「お嬢、俺はこの結果に満足しているんだがな。
お嬢、顔を上げろ。堂々と処刑されよう。悲しみにくれるのは死んであの世でしよう」
「コナー…」
「お嬢、先にあの世で待ってる。必ず来い。俺が手を広げて待っててやるからな」
「うん、待ってて、すぐに追いかける。コナーはいつも私の前を歩いていくもの。私はいつもコナーを追いかけるばかりね…」
「俺の後ろを追いかけてくると分かっているから俺は先に進める。お嬢の進む道を指し示す為にも、俺は前を歩かないといけないんだ。
迷わず来いよ」
「うん。コナーは誰よりも目立つから大丈夫。見失う事はないわ」
「なら先に行ってる」
「待ってて」
「じゃあな、また後で会おう」
「ええ、また後で…」
ジャラジャラと鎖を引きづる音が遠くなるにつれてコナーは私から離れていった。
直ぐに会える
それが分かっていても悲しみが消える訳ではない。
子供の頃から同じ家で暮らし一緒に過ごしてきた。兄のように、友のように、私にとってかけがえのない存在として、時に叱り、時に甘やかし、コナーの存在は気を張る私を楽にしてくれた。
甘えを見せられなくなった立場になっても、コナーの前だけは甘えを許してもらえた。
私も人。
弱さも甘えも持ち合わせた人。悪に徹しアルバートの為に心を殺した。
いつも強く、隙を与えず、道を指し示す存在として、王太子妃として、王妃として、私は恥じないようになめられないように必死に足掻き歩いてきた。
それでも私だって弱いの。甘えたい時だってあるの。
ナーシャ様のようにアルバートに守られる存在に私もなりたかった…。
涙を流し守られる女性でいたかった…。
それでも私は一人の女性ではなく王を支える妃を選んだ。
「罪人ボビー、外に出ろ」
ボビーも後ろ手に鎖を繋がれ私の牢屋の前に立った。
「妃殿下、私は最後に仕えたい主に仕えれた事をとても誇りに思います。これで死んでも悔いなし、とても晴々とした気持ちです」
「ボビー」
「貴女の祖父、王弟殿下に声を掛けられてから、私は仕えたい主には仕える事が出来ませんでした。最後にようやく仕えたい主に、王弟殿下の孫の貴女に仕えれた事、とても幸せでした。ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。最後がこんな事になってしまって申し訳ないわ」
「いえ、私は幸せのまま旅立てます」
「ボビー、今までご苦労さま。私を支えてくれてありがとう」
「あちらで王弟殿下とルヴェンド公爵と共にお待ちしております」
「ええ、すぐに行くわ」
ボビーの姿がみえなくなった。
ボビーにはずっと支えてもらった。陛下が倒れてから、そしてアルバートが王になってから、ボビーなしでは物事が進まなかった。縁の下の力持ち、ボビーはこの国を支えた陰の立役者だわ。
王家に長年仕え、私も子供の頃何度も怒られた。厳しい人だけどとても優しい人。そして情に溢れた温かい人だった。
「罪人ミーナ、外に出ろ」
ミーナも私の牢屋の前で立ち止まった。
「ミーナ、必ず私も行くわ。だから先に待ってて」
「お嬢様が来るまでお待ちしております」
「ミーナ、貴女だけでも逃がすべきだったわ」
「お嬢様、私はお嬢様の側に仕えてから私の生涯をお嬢様に捧げました。同じ日に同じ場所で旅立てる事は私の悲願でした。だからそのような事は仰らないで下さい」
「ミーナありがとう」
「あちらでもお嬢様のお世話が出来ると信じています」
「あちらでは私のお姉様になって」
「ふふっ、はい、楽しみにしています」
ミーナの優しい笑顔。この笑顔に何度も助けられた。公爵令嬢の時から王宮へ嫁いだ時も、ミーナが側で支えてくれ、どれだけ私は息を吐けたか分からない。
気を張って私室に戻ればミーナの笑顔が迎えてくれる。その笑顔に私は自分を取り戻せた。
ただ、女性の幸せが結婚のこの世で、結婚しなかった事を私はずっと悔やんでいた。私の側で仕えていなければミーナも結婚し女性として幸せな暮らしをしていただろうと。
でも最後に見せたミーナの笑顔、幸せな笑顔を見れて私は嬉しい。
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