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82 始まる処刑 ②
しおりを挟む「罪人マイラ、外に出ろ」
マイラは私の牢屋の前で立ち止まった。
マイラは元々天災があったウイング侯爵家の領民だった。天災が起きてすぐ王都に来ていたマイラとマーク親子を見かけたのは孤児院へ向かう道中だった。騎士に引きづられながら歩くマイラ。その後ろを歩くマーク。
私は馬車を止め親子を公爵家で保護した。
公爵家で話を聞くと、あの天災が起こった日、雨足が強くなり小川は溢れ畑は水に埋まった。マイラとマークは旦那さんの言付け通り領主の邸に向かった。もの家の殻の邸を見て急いで旦那さんの元に向かいその事を伝えた。旦那さんは力のある若者を連れて年輩者を助けに行った。
『じぃさんばぁさん達を助けてくる。お前達は近付くな。離れた丘の上で待っていろ。直ぐに助け出して戻るから』
そう二人に笑顔を向けて水没しかかっていた領地の中に入って行った。それから土砂が流れ込み旦那さんは亡くなった。
マークは目の前で土砂が流れ込んできたのを小高い丘から見ていた。そこは少し前に父親が向かった場所だった。さっきまで笑顔で会話をしていた父親が土砂に巻き込まれ亡くなる。マークには衝撃の事だった。
マイラはマークの手を引き王都のウイング侯爵へ助けを求めた。領民を助けてほしいと。でも侯爵は門前払いをしただけでなく王都の騎士に捕縛させ親子は騎士の詰所に連れて行かれる所だった。
マークは初めて会った日から何も話さず笑いもしなかった。無表情で無気力。こちらの問いかけには首を傾けるけど気が付くとボーっと遠くを見ていた。
久しぶりに会ったマークが別人のように『ライアンに仕えたい』と生き生きとした表情を見た時、本当に泣きそうになった。私の目を見て自分の意志を伝える、ライアンとの出会いでマークは前を向き始めた。
だからこそ親子を離れ離れにさせたくないと思った。
あのマークの生き生きとした顔をまた無表情に戻したくなかったから。父を亡くし今度は母まで…
「マイラ、やっぱりあの時、私はもっと貴女を拒絶するべきだったわ。マークと一緒に帝国へ行かせるべきだった…。
私はマークに何て謝れば良いの?どんな顔をしてマークに会えば良いの?」
「リリーアンヌ様、あの天災の日に私達家族は死にました。あの人と一緒にあの土砂崩れで死にました。目の前の光景を見た時、私達の心はあの日死んだんです。
そしてもう一度生まれ変わった。私はリリーアンヌ様に仕える事で、マークはライアン様に仕える事で、私達は生き始めたんです」
「それはきちんと伝わっているわ。でも、やっぱり貴女は帝国へ行かせるべきだった。マークが一人になるじゃない」
「マークにはライアン様もカーター様も側におります。それに良くしてくれた使用人達もおります。もうマークは一人じゃない。それにマークはマークの人生を歩んでいます。
親は子が巣立つのを見守ります。そしてマークは親から巣立った子。私の役目は終わりました」
「まだ終わってないわ」
「いいえ、独り立ちしようとしている我が子を私は送り出しました。何度も話し合い私達は自分の心を優先しました。そしてお互い納得して歩み出しました。
リリーアンヌ様は一緒にお供しようとする私を拒絶しますか?」
「しないわ」
「なら私もご一緒させて下さい。皆さんと同じようにリリーアンヌ様とご一緒させて下さい。これが私が望む事です」
「分かってる。今更後戻りは出来ない事も、今更貴女を逃がす事が出来ない事も…」
「だから私はリリーアンヌ様と共に参りたいのです」
「そうね、私と一緒にいてくれる?私と一緒に付いてきてくれる?」
「喜んでお供します」
「ありがとうマイラ」
「ではお先にお待ちしております」
「ええ、直ぐに行くわ」
マイラはとても穏やかな顔をして歩いて行った。
「罪人タイラー、外に出ろ」
目の前の牢屋の扉が開きタイラーは小走りで私の前に来た。お互い手を握った。
「おい!何をしてる!」
「待ってくれ。鎖に繋ぐのは別れの後ででも良いだろう」
タイラーは騎士を睨んだ。タイラーの威圧的な睨みを初めて見た。
「タイラー、私は無力ね」
「この状況なら誰でも無力だよ。でも皆己の意志で処刑を受けてる。誰も悲観では無かったじゃないか。皆今から処刑されるような顔じゃなかった。この先を心待ちにしているそんな顔だった。
神が作ったこの世とあの世、実際あの世を見た人はいない。でも僕は信じるよ。あの世で必ず皆に会えるって。それは魂かもしれない。でも例え魂になっても絶対に分かる。この世での絆が固いほど共鳴し合うと僕は思う。僕達は固い絆で繋がれた運命共同体だ。
だから安心してあの世へ旅立てる。皆が待っていてくれてると知ってるから。
リリーアンヌ、あの世でまた皆で旅をしよう。離宮へ向かうまで毎日楽しかった。馬に跨り野宿をした。皆で暖をとりながらくっついて眠った」
「ええ、大変だったけど楽しかったわ」
「きっとあの世では僕も馬を乗りこなせる。それに剣だって振れる」
「そうね」
タイラーは私の両頬を両手で包み込んだ。
「リリーアンヌ、良いかい、悔いは残すな。悔いが残ればあの世の扉は開かない。この世で彷徨う魂になる。
もしアルバートに文句を言いたいなら、今までの恨みつらみ全部言ってやれ。何を言ってもどうせ最後なんだ」
「分かってる」
「良い?約束だよ。この世に悔いだけは残してはいけない」
「ええ」
タイラーは鎖に繋がれ地下牢から階段を上っていった。
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