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84 愛した人
しおりを挟む光に導かれ私は階段の先の扉から処刑台がある壇上に足を踏み入れた。
地下牢は昼間でも薄暗く太陽の陽を浴びるのは1週間と3日ぶり。暗さに慣れた目に太陽の光は眩しすぎた。
瞼を固くギュッと閉じる。
目に映る光景は瞼をほんのり赤く染めた。
「悪女に処刑を!悪魔に制裁を!無慈悲な王妃は死をもって償え!」
耳に届く声、処刑を見届ける為に集まった群衆の声が一斉に声を上げた。歓声をあげ、待っていたと言わんばかりに会場中が盛り上がった。
鼻につく血の匂い。壇上の上は血の匂いが充満し吐き気を催すくらいだ。それでもこの匂いは固い絆で繋がれた同士達の最期の匂い。
この場所で死、先に逝くと、待っているから早く来いと、そう私に残した残り香。
私はゆっくりと瞼を開ける。
視線の先、タイラーの胴体を騎士達は運んでいた。先に並ぶ胴体を足で蹴り場所を空けている。胴体の前には晒し首の様に皆に見えるように頭が置かれている。
コナー、ボビー、ミーナ、マイラ、タイラー、
どうしてぞんざいな扱いをされないといけないの?処刑者だとしても死者への配慮もないの?
死んでもなお安らかに眠らせてはくれないのね…。
そして私を最後にしたのも、私に仕えた者達の最期は足で蹴られぞんざいな扱いをされる者達だと、
私に精神的苦痛を与える為?
それとも
それだけ私は悪だと教える為?
私は後ろ手に縛られた握り拳に力が入った。
ごめんなさい…
ごめんなさい、皆…
私に手を貸したばかりに牢に入れられ、鎖に繋がれ、何の罪もないのに処刑され命を絶たれた。その後も乱暴に扱われ、人としてではなく屑物の様に扱われる。
これが人にする事なの?
死者にする事なの?
どうして誰も何も言わないの?
処刑するなら私一人すれば良かったじゃない。彼ら彼女らにはまだ未来があった。
でも、それはこちら側の理由。私に手を貸した以上彼ら彼女らは同罪…。
私は目を瞑り、彼ら彼女らの冥福を心の中で祈った。
涙は見せない。ここで泣いたりしない。どれだけ目頭が熱くなろうとも、あの世で再会した時に嬉し涙を流したいから。だから悲しみの涙は流さない…。
「歩け!」
騎士の声に目を開ける。私の鎖を持つ騎士が私を後ろから押し、数歩歩いた先にある処刑台の横に立った。
ジャラ
鎖を置かれ、騎士は私の横に立った。
私は背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見つめる。
目の前に広がる光景、王宮勤めの者達が出入りする城門。正門より少し離れたこの場所は第二の正門と呼ばれるくらいだ。騎士団の建物が近くにあり、頑丈な門、馬車がすれ違えるほどの広さ、辺りは開けていて壇上にいる私からは皆が見渡せる。
城門の内には貴族が集まり、城門の外には処刑を一目見ようと集まった群衆。犇めき合う人達を見ていると、これほどまで私は皆に嫌われていたのだと思い知らされた。
民を思い民の為に、その思いだけでこれまで頑張ってきた。
私がしてきた事は何だったんだろう…。
処刑台が一番見える位置に座っているのはこの国の国王、私の幼馴染みで友で元夫、そして私の生涯でただ一人、愛した人…。
処刑される今でさえ、完全に喪失出来ない憎みきれない愛しい人…。
貴方を王に、それだけを思い今まで支えてきた。
貴方が治める国を、貴方の立場を、貴方の政務を、ただ護りたい、それだけを思って一生懸命やってきた。
貴方の隣に立つ為に、そして貴方の隣に座る為に。
それは貴方を愛していたから…
今、私は壇上、そして貴方の隣には貴方が愛した人が座っている。
私も望んだ。貴方に愛される事を私も望んだ。愛された結果が今の状況なら、私も納得する。
ねぇ、アルバート、
私を一人の女性として、愛してくれた?
貴方を支えなくても、私を愛してくれた?
アルバート、
私は愛されたかった。
妃ではなく一人の女性として、貴方が身を呈してでも守りたい一人の女性として愛されたかった。
でもそれは叶わぬ夢…
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これを絶望と呼ぶのかしら…。
愛した人に向けられる視線、私は自分の目が潤むのが分かった。
だから私は貴方から目を離さない。
私が愛した人は優しい人ではないと、情もない非情な人だと、もう愛する事も愛される事もない私には無関係な人だと、
そう自分に言い聞かせる為に。
だから貴方の為に泣いたりしない
私は貴方を真っ直ぐ見つめ、
これが最後、
貴方と見つめ合った…。
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