悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

文字の大きさ
101 / 107

84 愛した人

しおりを挟む

光に導かれ私は階段の先の扉から処刑台がある壇上に足を踏み入れた。

地下牢は昼間でも薄暗く太陽の陽を浴びるのは1週間と3日ぶり。暗さに慣れた目に太陽の光は眩しすぎた。

瞼を固くギュッと閉じる。

目に映る光景は瞼をほんのり赤く染めた。


「悪女に処刑を!悪魔に制裁を!無慈悲な王妃は死をもって償え!」


耳に届く声、処刑を見届ける為に集まった群衆の声が一斉に声を上げた。歓声をあげ、待っていたと言わんばかりに会場中が盛り上がった。



鼻につく血の匂い。壇上の上は血の匂いが充満し吐き気を催すくらいだ。それでもこの匂いは固い絆で繋がれた同士達の最期の匂い。

この場所で死、先に逝くと、待っているから早く来いと、そう私に残した残り香。


私はゆっくりと瞼を開ける。


視線の先、タイラーの胴体を騎士達は運んでいた。先に並ぶ胴体を足で蹴り場所を空けている。胴体の前には晒し首の様に皆に見えるように頭が置かれている。


コナー、ボビー、ミーナ、マイラ、タイラー、


どうしてぞんざいな扱いをされないといけないの?処刑者だとしても死者への配慮もないの?

死んでもなお安らかに眠らせてはくれないのね…。

そして私を最後にしたのも、私に仕えた者達の最期は足で蹴られぞんざいな扱いをされる者達だと、

私に精神的苦痛を与える為?

それとも

それだけ私は悪だと教える為?


私は後ろ手に縛られた握り拳に力が入った。


ごめんなさい…

ごめんなさい、皆…

私に手を貸したばかりに牢に入れられ、鎖に繋がれ、何の罪もないのに処刑され命を絶たれた。その後も乱暴に扱われ、人としてではなく屑物の様に扱われる。

これが人にする事なの?

死者にする事なの?

どうして誰も何も言わないの?


処刑するなら私一人すれば良かったじゃない。彼ら彼女らにはまだ未来があった。


でも、それはこちら側の理由。私に手を貸した以上彼ら彼女らは同罪…。


私は目を瞑り、彼ら彼女らの冥福を心の中で祈った。

涙は見せない。ここで泣いたりしない。どれだけ目頭が熱くなろうとも、あの世で再会した時に嬉し涙を流したいから。だから悲しみの涙は流さない…。



「歩け!」


騎士の声に目を開ける。私の鎖を持つ騎士が私を後ろから押し、数歩歩いた先にある処刑台の横に立った。

ジャラ

鎖を置かれ、騎士は私の横に立った。

私は背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見つめる。


目の前に広がる光景、王宮勤めの者達が出入りする城門。正門より少し離れたこの場所は第二の正門と呼ばれるくらいだ。騎士団の建物が近くにあり、頑丈な門、馬車がすれ違えるほどの広さ、辺りは開けていて壇上にいる私からは皆が見渡せる。

城門の内には貴族が集まり、城門の外には処刑を一目見ようと集まった群衆。犇めき合う人達を見ていると、これほどまで私は皆に嫌われていたのだと思い知らされた。

民を思い民の為に、その思いだけでこれまで頑張ってきた。

私がしてきた事は何だったんだろう…。



処刑台が一番見える位置に座っているのはこの国の国王、私の幼馴染みで友で元夫、そして私の生涯でただ一人、愛した人…。

処刑される今でさえ、完全に喪失出来ない憎みきれない愛しい人…。


貴方を王に、それだけを思い今まで支えてきた。

貴方が治める国を、貴方の立場を、貴方の政務を、ただ護りたい、それだけを思って一生懸命やってきた。

貴方の隣に立つ為に、そして貴方の隣に座る為に。


それは貴方を愛していたから…



今、私は壇上、そして貴方の隣には貴方が愛した人が座っている。

私も望んだ。貴方に愛される事を私も望んだ。愛された結果が今の状況なら、私も納得する。


ねぇ、アルバート、

私を一人の女性として、愛してくれた?

貴方を支えなくても、私を愛してくれた?


アルバート、

私は愛されたかった。

妃ではなく一人の女性として、貴方が身を呈してでも守りたい一人の女性として愛されたかった。


でもそれは叶わぬ夢…

貴方の中で私は妃だもの。自分の立場を支える妃だもの。

王弟殿下を祖父に持ち、前陛下の従兄弟を父に持ち、公爵令嬢の身分を持ち、誰にも劣らないこの位は貴方を王にするには必要な鎧だった。

鎧が無くなった今の私に何の価値もない。


私を睨む貴方の目を、貴方から感じる『殺してやる』という視線を、

これを絶望と呼ぶのかしら…。


愛した人に向けられる視線、私は自分の目が潤むのが分かった。


だから私は貴方から目を離さない。

私が愛した人は優しい人ではないと、情もない非情な人だと、もう愛する事も愛される事もない私には無関係な人だと、

そう自分に言い聞かせる為に。


だから貴方の為に泣いたりしない



私は貴方を真っ直ぐ見つめ、

これが最後、

貴方と見つめ合った…。



しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...