心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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この国は人と獣人が仲良く暮らす。人は頭を使う事を得意としていて、獣人は力を使う事を得意としている。

王宮では事務官など書類仕事は人が、騎士など警護は獣人が、役割りがはっきりと分かれる。だから共存できている。


獣人には今は幻となった『魂の番』が存在する。一目会えばその存在は唯一無二の存在として愛する人になる。お互いの魂が共鳴し惹きつけられるように手を取る。

獣人には番、人で言う妻を娶る。どれだけ妻を愛していても魂の番には敵わない。子供がいようが、さっきまで手を取り口付けをしていようが、魂の番の前で妻は他人になる。

それだけ魂の番の強制力は強い。魂の番同士を繋げる固い絆。切れない糸。


だから人は獣人と結婚をしない。人には魂の番は存在しないから。その人だけを一途に愛す、そんな絵空事ありもしないから。

獣人に言わせれば人は恋多き種族。初恋の人と結婚する人が違うのは当たり前。結婚していても愛人を作る男性もいる。

でも、獣人にだって性に奔放な種族はいる。反対に愛する人を一途に思う種族もいる。

私の好きな人、狼獣人は後者。


魂の番が幻になった現在、人と獣人の恋人も増えてきた。それでも人と獣人では子が授かりにくく子孫繁栄を残す本能を持つ獣人にとって、人と結婚する選択肢はない。

一時だけの恋人、結婚するまでの期間限定の恋、遊び、

自由気まま、獣人にはその言葉が似合う。いくら人が本気で愛しても番には同じ種族を選ぶ。子孫を残しやすく子孫を増やす為に。


だから私は獣人が嫌い。


どれだけ貴方を愛しても恋人にはなれても夫婦にはなれない。

どれだけ貴方を愛しても魂の番を前にしたら私を捨てるから。


だから今、貴方がどれだけ私を愛おしそうに見つめていても、優しく頬に触れていても、包み込むように抱きしめていても、私は心を見せない。

どれだけ貴方を一途に思っていても、

私の心を貴方には見せない…。

それが私の最後の意地。


「メアリ愛してる」

「ありがとう」

「メアリは?」

「ん?なに?」

「いや、何でもない」

「そう」


私はメアリ。侯爵令嬢。そして私を抱きしめているのは狼獣人のウォル。

人には貴族制があり、獣人は家制。ウォルはグルフ家、人で言う侯爵に位置する。狼獣人を収める長、ガルフ家の親戚。

ウォルは王宮の騎士。

私のハーデス侯爵家とウォルのグルフ家は幼い頃から親交があった。

元々人と獣人は同じ学園には通わない。隣接しているものの出入り口は正反対の場所。校舎も別。接点はない。それは得意とするものが違うから。学園では接点もない人と獣人でも働く上では接点が出来る。

私のお父様は王宮の事務官、ウォルのお父様は王宮の騎士、お互い気が合い家族ぐるみの付き合いが始まった。

私より1歳年上のウォルを初めはお兄様のように思っていた。幼少時代から獣人は人より体格が一回り大きい。私は後を付いてまわり、体格の大きいウォルは私よりも足も速ければ何でも出来た。木登りだって、かけっこだって、私はウォルに置いていかれないように必死に後を付いて行った。

私が転び泣き出せばウォルは困った顔をして私を抱っこした。

幼少時代、ウォルと過ごす時間がとても大好きだった。お兄様のように思っていたウォルが私の好きな人になったのは同じ時間を過ごしたからもある。

でも、私がウォルを一人の男の子と思ったのは…


ウォルの腕には消えない傷がある。

あれは私が8歳の時、私の誕生会を庭でしていた時。その日私は裾の長いワンピースを着ていた。お気に入りのワンピース。いつもより裾が長いワンピースを着ている時は走ったりしては駄目とお母様に言われていた。

お父様やお母様の身内も集まり、いとこ達も集まった。お父様の友人も、その子供も集まり、その中にウォルもいた。獣人の子供はウォル以外にもいたけど、ウォルは皆で遊ぶ私達を遠くから見ていた。


『ウォルも一緒に遊びましょ』

『俺はいい』


そう言うとウォルは一人でどこかへ行ってしまった。私は急いでウォルを追いかけた。


『ウォル、待って、待ってよ』


耳のいいウォルに私の声が聞こえていない訳がない。それでもウォルは振り向かず前を歩いている。私は必死で追いかけた。


『ウォル、待って、あっ!』


あれだけお母様に走っては駄目と言われたのに、いつもより裾が長いワンピース、私は裾に足を取られ転びそうになった。

これは転ぶ!

そう思った瞬間私は目を瞑った。だって目線の先に見えたのは生垣だったから。

私は傷は仕方がないと思っていた。走っては駄目と言われていたのに走った私が悪い。着慣れない長い裾のワンピースを着ていた私が悪い。


でも、私を包む落ち着く温もり。私は瞑っていた目を開けた。すぐ目の前に見えた琥珀色のような明るい茶色の瞳。まるで宝石のような瞳が輝いていた。


『ウォル…』


私は安心してウォルに抱きついた。片手で抱きしめるウォル。


『立てるか?』

『うん』


私は立ち上がり、ウォルは右腕を後ろに隠した。


『ウォル?どうしたの?』

『どうもしてない。それよりも走るな、危ないだろ』

『だってウォルが一人で行っちゃうんだもの』

『お前は皆と楽しそうに遊んでいただろ』

『それはそうだけど…。でも私はウォルと遊ぶ方が楽しいもの』

『メアリは俺のだ。俺だけのメアリだ』


子供の私には意味が分からなかった。兄として妹が大事、そう言ってると思っていた。



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