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2 ウォル視点
しおりを挟む俺には愛する女性がいる。子供の頃から変わらず愛してる女性だ。
獣人と人、種族の違う俺達が結婚出来ないのも知っている。子孫を残す為、繁栄の為、半分ある獣の本能なのは分かってる。
それでも俺にはメアリしか目に入らない。
メアリと結婚し子供が出来なくても一生メアリと二人きりなんてそんな幸せな事はない。
それに人が獣人の子を産むのは命がけだ。子供を産んでメアリを失うくらいなら子供なんていらない。
俺にはメアリだけいてくれたらそれでいい。
獣人が人に恋をした、それは自ら枷をつけたようなものだ。自由気ままな人を閉じ込め囲う事は出来ない。
俺だけを見てほしい
俺だけを思ってほしい
行動も心も縛れない人を好きになり愛した。
獣人は自分の匂いを付ける。その匂いに他の獣人は手を出さない。でも人にはその匂いが分からない。他の男の匂いを付けて俺に会いに来る。
何度家に閉じ込めようと思ったか分からない。嫉妬?そんなの毎日だ。あの初めて出会った日から俺はメアリが大好きだ。
俺の後ろを必死になって追ってくる姿。負けず嫌いなのか俺の真似ばかりして、出来た時に見せる笑顔は俺の宝物だ。
今も残る右腕の傷
この傷は俺とメアリを繋ぐ固い絆だ。
あれはメアリの8歳の誕生会。大勢の子供達と楽しそうに遊んでいるメアリの顔を見たくなくて俺は一人その場から離れた。
嫉妬しても、メアリの手を引いて抜け出したくても、皆メアリを祝う為に来ている。俺一人の感情だけでその場の雰囲気を壊す事は出来ない。
俺は握り拳に力が入った。
俺のメアリだ
俺だけのメアリだ
誰も触るな!
誰も近付くな!
そう思ってもどうにもならない事はある。頭に血が登ったのを冷やそうと庭の奥の場所、いつもメアリと過ごす二人だけの場所に向かった。
後ろからメアリの声が聞こえたが無視をして歩いていた。
いや、メアリなら俺を追ってくると信じていた。メアリなら他の子よりも俺を選ぶと信じていた。
『ウォル、待って、あっ!』
メアリの声に後ろを振り返るとメアリが転びそうになっていた。
俺は急いでメアリの元に向かいメアリを抱きしめる。
痛ッ
生垣の枝でパックリ切れた右腕を咄嗟に隠した。血が流れているのが分かる。痛みを我慢してメアリを立たせた。
ポタポタと流れ落ちる血
『見せて』
『このくらい大丈夫だ。舐めておけば治る』
『そんな訳ないでしょ。ウォルが傷付くと私も傷付くの。ウォルが痛いと私も痛いの』
メアリの怒った顔を初めて見た。そして泣きじゃくるメアリの顔。
それを俺は可愛いと思ってしまった。
俺だけに見せる泣きじゃくる顔が、俺だけに向ける気持ちが、俺は嬉しかった。
今この時だけは俺だけのメアリだからだ。
『なら痛みが治まるまで俺の側にいてくれ』
『痛みが治まっても私はウォルの側にいるわよ』
『なら大人になっても俺の側にいてくれるか?』
『大人になっても?それは妹として?』
『俺はメアリを妹だと思った事はない』
『え?』
『俺は一度もメアリを妹だと思った事はない。ずっと俺には可愛い女の子だ』
その時頬を赤らめたメアリの顔が今でも忘れられない。
きっと初めて俺を意識した日だからだ。
俺はこの傷を撫でながらいつも思う。魂の番がなんだ。心で体でメアリを欲する俺に魂の番なんて必要ない。
今は幻と言われているが、それでも全く無くなった訳ではない。稀に魂の番に出会う奴はいる。お互いを惹きつける匂いに抗えないと聞く。
それでも俺にはメアリから香る甘い匂いの方が心落ち着く匂いだ。
もし俺に魂の番が現れても必ず抗ってみせる。メアリを失う事に比べたら抗う事くらい動作もない事だ。
あれはまだ子供の頃、俺とメアリは偶然魂の番同士が出会う所を見た。
引き寄せられるように手を取り合う魂の番同士。獣人の男の横には人間の女がいた。人間の女が何度名前を呼んでも、行かないでと泣きながら服を掴んでも、獣人の男は目の前の魂の番の女しか目に入っていなかった。
さっきまで仲良く寄り添い口付けを交わしていたのにだ。
魂の番同士を見て周りは盛り上がっていた。でも繋いでいたメアリの手がギュッと力強く握られたのを覚えている。そしてメアリの悲しい顔。
俺はその時メアリを抱きしめた。魂の番同士が見えないように、人間の女の悲鳴に近い泣き叫ぶ声が聞こえないように、俺はメアリの耳を塞いで目を塞いだ。
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