心は誰を選ぶのか

アズやっこ

文字の大きさ
11 / 24

11

しおりを挟む

「愛してるメアリ、俺の心を独占しているのはメアリだけだ。あぁいつ見てもメアリは可愛い、愛しい、早く俺の檻の中に戻って来てほしい、俺の愛しい人よ」


風に乗って微かに聞こえたウォルの声。呟くように言ったその声はきっと私に聞かせるものではない。

前を歩くウォルは嬉しそうな顔をしている。尻尾は穏やかに揺れているのに耳はピクピクと動いている。

あれは自分の欲望を考えている時の姿

発情期が始まる前になると私の髪からリボンを取って持っていく。そのリボンの匂いを嗅いで獲物を射るような瞳で私を見つめる。

獣の部分をあまり見せないウォルが獣の部分を見せる瞬間。その瞳に私は捕われ動けなくなる。

今もその時と同じ、尻尾をゆらゆらと穏やかに揺らし耳はピクピクと動く。そして瞳の奥は欲望に忠実。

ウォルが前を向いて歩いていて良かった。もし今私の目を見て呟いていたらきっと私は捕われる。あの瞳にウォルの心に捕われきっと許してしまう。

でもそれでは駄目



『これで発情期を乗り越えられるよ』

そう言った時の顔はいつものウォルに戻った。私に向ける顔はいつも人の顔になる。

獣の姿を嫌うウォル。私は今までウォルに守られてきた。だから私は獣の部分を獣の本能を見ずにここまできた。

獣もウォルの一部なのに…

ウォルがさっき言った言葉『神が与えた試練』私も問われている『目を背けず全てを見よ』と。

獣のウォルがどんななのか、私は知るべきだ。そしてそれを許すか許せないか、私が乗り越える壁…。


ウォルの帰りを見送り、


「ラルフ少しいい?」

「はい」

「ラルフはウォルと友達よね?ラルフから見てウォルってどう?」

「メアリ嬢命、でしょうか」

「ふふっ、そうね」

「では俺からも聞いていいですか?」

「ええ」

「メアリ嬢はどうして俺達獣人を怖がらないんですか?令嬢達は獣人を怖がります。俺達は人ではありません。人よりも力が強く、それこそ令嬢ならひと噛みで殺せます」

「そうね、私なんて貴方達獣人からしたら組み伏せるのは簡単よね。でもね、怖いのは見た目じゃないわ。本当に怖いのは見えない人の心よ?

今まで友人だと思っていた人が無視をして影で悪口を言う。誰と一緒にいるか、誰と親しくしているか、ただそれだけで友人を辞めたり見る目が変わるの。でもまだそれは良いわ、目に見えて分かる態度だもの。でもね、友人の仮面を被り親身になるふりをして影では言いたい放題。私は味方よ、そういう態度なのに裏では、それが怖い。でもそれもその人なのよ。私に見せなかった部分ってだけでその人の一部なの。心の中でどう思おうと心はその人の物だしその人にしか分からないわ。誰だって嫌われたくないし輪から外されたくない。それに常に情報は仕入れたいものでしょ?話は盛り上がるし令嬢達のお茶会のお茶請けには持ってこいだわ。

でも獣人には本人よりも雄弁な尻尾や耳がある。私はそれを知ってるから獣人は怖くないの。

ウォルにとって獣の部分は一部だわ。私に見せない、ううん、私が見ようとしなかった一部。そしてウォルは私に隠す事を選んだ。違うわね、私が隠すように選ばせたの。

私はウォルの見えない獣の部分が怖い…」

「あいつは、あいつはきっと今この時の俺とメアリ嬢が会話する、それさえも許しませんよ。それが獣の部分なのか心の部分なのか、それこそ一緒なのか…

今メアリ嬢が何が怖くて何が許せないのか、ウォル自身に聞いて確かめるのが一番だと思います」

「そうよね…」

「メアリ嬢、あいつは重いですよ?」

「重い?」

「メアリ嬢に対する気持ちです」

「あぁそっち。そっちは分かってるわ。

ねぇラルフ聞きたいんだけど、檻の中って何?」

「俺が言える事は、ウォルは狼獣人でメアリ嬢命の男、ただそれだけです」

「よく分からないわ」

「それも聞いてみると良いと思います。ただし、聞いたら最後だと思って下さい」

「なんか物騒ね」

「俺だって好きな子が同じ獣人なら別ですが、もし人を好きになったら獣の部分は隠し通します。

野生の獣の世界では弱肉強食です。獣人のように肉食と草食の種族が仲良くするのは難しいと思います。でも我々は共存している。それは人の心を持ち理性を持つからです。獣の部分は本能、女性ではなく雌。本能で目の前の雌を服従させたいと思い種付けしたいと思います。

もしウォルの獣の部分を知りたいならそれなりの覚悟が必要です。人の概念を覆す事になるかもしれません。まぁでもあいつも騎士なので大丈夫だとは思いますが」

「そうね」


ラルフの言いたい事はなんとなく分かる。今まで隠していた獣の部分を知りたいという事は『隠さないで』と言うようなもの。

今までウォルが私を守ってくれた世界。

少し考えよう。私はウォルとどうしたいのか、どうなりたいのか、好きや愛してるだけじゃない、今まで見ないようにしてきた部分を、私なりに考えてみようと思う。


でもこれだけは言える。

私はウォルを愛してる

この先ウォルが私以外の女性と歩いている所を見たら、私がウォル以外の男性と歩いている時に出会ったら、そう考えるだけで嫌だ。それにきっと堂々とすれ違う事は出来ない。

見たくないし見てほしくない。

それが思い出として残る心だとしても、心に残るウォルへの気持ちが、何もしないで後悔した気持ちが、心の片隅だとしてもいつまでも消えずに残り続ける。

そして顔を見てしまえば『好きだった』『愛していた』過去の思いだとしてもウォルへ思いを馳せる。

結局私の心を捕えて離さないのはウォルだけなのよ、と。



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

処理中です...