心は誰を選ぶのか

アズやっこ

文字の大きさ
13 / 24

13

しおりを挟む

ウォルは昔から変わらない。

私のお父様とお母様は結婚して10年子供が出来なかった。ようやく出来た子供は女児。ハーデス家は私の子供かお父様の従兄弟の子が跡を継ぐ。

なかなか子供が出来ないお母様はお父様に離縁を言ったそう。

『跡継ぎを産んでほしい為に結婚したんじゃない。俺と夫婦になってほしいから、俺の妻になってほしいから、俺がそれを望んだから結婚したんだ』

お父様は離縁を頑なに拒んだ。

お父様とお母様の出会いはお祖父様が決めた婚約だった。一人息子のお父様、貴族には珍しい5人兄妹のお母様。末娘のお母様には4人のお兄様達がいる。男児を産む血筋だけで決められた婚約だった。

それでもお父様とお母様は愛し合い夫婦になった。

『俺達は子供が居なくても幸せだ。誰に何を言われても俺達の幸せは俺達が決めればいい』

お父様とお母様は夫婦二人、幸せの形は人それぞれ。結婚しないと決めた人、跡継ぎを産む事が幸せと思う人、その人その人が幸せだと思うならそれが幸せの形。

お父様はお母様を守る為にお祖父様から当主の座を奪い、お祖父様とお祖母様を領地へ追いやった。元々出世に興味もなかったお父様は事務官長としての役職も得た。

10年目子が宿り私が産まれた。お母様は泣いて喜んだ。例え女児でも愛しい人の子を産めたと。

昔お祖父様に言われた事があった。

『どうしてお前は男じゃないんだ。お前が男なら良かった。跡継ぎにもならない女なんか産んで、あんな嫁なんかさっさと捨てれば良かったんだ』

お父様は私を抱き上げ

『今すぐこの邸から出て行ってくれ。もうこの子を貴方方に会わせるつもりはない』

お父様の怒号を聞いたのは後にも先にもこの時だけだった。


お父様やお母様がウォルの事を許したのは私の幸せを一番に考えてくれたから。

『家に縛られる必要はない。メアリはメアリの幸せを望んでほしい』

獣人との間には子が出来にくい。それに産まれてくる子は獣の姿をした獣人。例え私が産んだ子だとしても貴族の跡継ぎと認めてもらえるかは分からない。人と婚約し婚姻、それが本来なら望ましい。

それでも私はウォルと幸せになりたいと望んだ。

そしてお父様はウォルなら私を守れると認めたから。実際学園時代はウォルが守ってくれた。今もウォルは私を守ってくれている。

ウォルは自分の両親の事も私の両親の事も尊敬している。

『おじさんとおばさんは幸せな夫婦だ。あんた達に何か言われるいわれもない。おばさんは女神だ。俺のメアリを産んでくれたとても素晴らしい女性だ。あんた達はそこらへんに生えてる雑草だな』

ご婦人方は噂話が大好き。なかなか子が出来なかったお母様に、ようやく子が出来ても女児を産んだお母様に嫌味を言う。

まだ子供だった私達。ウォルは私の前に立って私を隠し私の手を握っていつもご婦人方に放つ言葉。

ウォルはお父様の代わりにいつも私とお母様を守っていた。私より少し大きな体でいつも守ってくれていた。


前を歩くウォルを眺めていたら服から見える包帯が気になった。


「ウォル、その包帯どうしたの?」


ウォルは咄嗟に隠した。私はウォルの元まで歩きウォルの袖を上げた。右腕に巻かれた包帯。


「大丈夫だ」


私は巻いてある包帯を解いた。


「どうしたのこれ!」


子供の頃私を庇って出来た傷。治ってるはずの傷口が開いていた。包帯にも少し血が滲んでいた。


「これは…」

「ウォル教えて」


ウォルは諦めたような顔をした。


「これは、俺にとってメアリを守った勲章だ、メアリとの絆だ。俺が未熟者故にメアリを傷つけた。メアリとの絆が消えないように…」

「自分で傷を付けたの?」

「この傷の痛みがある内はメアリとの絆は消えないと思ったんだ。メアリとの絆を消したくないと、メアリを失いたくないと、それだけしか考えられなかった」

「馬鹿なの?」

「ああ、俺は大馬鹿者だ。メアリを愛する事しか出来ない男だ」


私はもう一度包帯を巻いた。


「もう自分を傷つけないで」

「メアリが側に居てくれたら大丈夫だ」


ウォルは昔から傷が出来ようが血が出ていようが自分には無関心。私に擦り傷一つ出来たら大騒ぎするくせに。


私の気持ちは私が一番良く分かってる。

今まで自然に繋がられた手が寂しさを誘い、通り過ぎる風が冷たく感じる。

私が一言『許す』そう言えば…

ラルフは言った、ウォルに聞いて確かめればいいと。

子孫繁栄を願う獣人。それでもウォルは子孫を残せなくてもいいと言うと思う。それよりも二人で幸せになりたいと言うと思う。


「ウォルは子供の頃に守った子を、守りきれなかった妹さんの代わりに思ってるだけよ」

「違う!」


ウォルは双子だった。3歳の時、妹さんは流行り病で亡くなった。


「シャルを守る、そう思っていたのは事実だ。一緒に腹の中で育ち同じ日に産まれたんだ。片割れのような一部のような大事な妹だった。一緒に育ったんだ、兄として妹を守る、そう思うのは当たり前だろ?シャルには幸せになってほしいと思った。好きな男が出来たらその男がシャルを守れる男か幸せに出来る男か見極めないといけないと思った。

でも俺が俺の手で幸せにしたいと思ったのは、守りたいと思ったのはこの世で一人だけだ。同じ獣人じゃない異種族の人のメアリだけだ。初めて会った時から俺の心を離さないのはメアリだけだ。好きになったのも愛したのもメアリだけだ」


真っ直ぐ私を見つめるウォルの瞳。その瞳に嘘はない。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

処理中です...