心は誰を選ぶのか

アズやっこ

文字の大きさ
14 / 24

14 ウォル視点

しおりを挟む

「それはメアリの方だろ?

自分を庇い傷を負わせたから、だから…、俺を、意識したんだろ?だから好きになったんだろ?」

「確かにあの時に私の気持ちに気付いたのは確かよ。でも、私だって初めて会った時にウォルに惹かれていたわ。

初めて見る獣人に怖がる私にウォルは優しい笑顔を向けてくれた。私の速さに合わせて歩いてくれた。

男の子にまた会いたい、また遊びたいって思ったのはウォルだけだもの。男の子は乱暴で苦手だった。でもウォルだけは違った。ウォルの優しい笑顔に温かい雰囲気に優しさに私は惹かれたの。その思いが恋だと気付いたのがあの私を庇った日だっただけよ」

「本当か?」

「ええ、初めて会った時からウォルは私が惹かれた男の子だったわ」

「ありがとうメアリ。俺はずっと傷を負わした負い目から俺を好きになってくれたって思ってた」

「そんなわけないでしょ」


メアリは微笑み少し呆れたような顔をした。いつものように『馬鹿ね』と言われてるようだ。


「メアリは俺と結婚するのは嫌か?やっぱり同じ人の方が良いのか?」

「正直言うとね、今更人の輪に入りたいとは思わないわ。良い思い出がないと言ったらそうなんだけど、お父様達を思うと迷うの。お父様が守ってきたハーデス家を私が守れないのが申し訳ないと思うの」

「おじさんはおばさんやメアリを守る為に地位や権限を得ただけで家の存続の為に得た力じゃない。もしメアリが跡継ぎを産む為に結婚すると決めたら、おじさんもおばさんも喜ばない」


事務官長のハーデス侯爵を怒らすな、王宮に勤めていれば聞こえてくる話だ。おじさんはおばさんとメアリを守る為なら鬼にも悪魔にもなる。

父上と気が合った所もそこだ。妻に一筋、大切なものを守る為には鬼にも悪魔にもなる。


「それは知ってるけど」

「おじさんもおばさんもメアリには幸せになってほしいと願ってる。メアリが心から愛する人と添い遂げてほしいとそう望んでいるんだ」

「そうね」


俺が学園を卒業してから、メアリが学園を卒業したら結婚したいと許しをもらいに来た時『私以上にメアリを愛し守れるか』と言われた。俺は『愛し守れる』と答えた。メアリ以外を愛せるとは思えないし騎士として守れると思っていたからだ。メアリが学園を卒業しても良い返事は貰えなかった。

俺は分かっていなかった。強さは腕っぷしの強さではなく心。学園では腕っぷしの強さが強さの象徴だった。王宮で騎士として働き始めて色々な人と関わり心の強さが強さの象徴だと知った。それが分かり結婚の許しがようやく貰えた。

そして魂の番に会い俺はまだ未熟だと知った。魂の番の手を取る前に俺は正気に戻った。でもその時には遅かった。メアリは立ち去り深い傷をつけた。

侯爵がメアリに婚約者候補を会わせている、その情報は直ぐに俺の耳に入った。それでも侯爵の元へ通い続けた。

今思えば侯爵に試されていた。

俺はメアリが俺以外の男に惚れるような俺以外の男を好きになるような愛し方はしていない。俺の愛情にどっぷり浸かったメアリがそこら辺の男で満足する訳がない。

メアリが欲しいのなら私から奪ってみろ

例え親でも大切なものを守る為なら情を捨てなければならない。欲しいものの為なら悪者にもなる。

あの日俺は侯爵に俺の全てを曝け出した。そして『婚約者は俺だ』と、婚約の誓約書がこちらにはあると俺は伝えた。

メアリは俺のものだ

俺は簡単には手放さないと。例えメアリの父親の貴方にも邪魔はさせないと。

最後はメアリに委ねられた。誰の手を取るのか…。俺か違う男か、それとも両親か。だから俺は俺の手を取るように仕向けないといけない。


「おじさまとおばさまだって、私より同じ種族のお嫁さんが良いと思ってるかもしれないじゃない」

「それはない。父上も母上も俺がメアリを愛しているのを知ってる。その上で応援してくれているんだ。ガルフ長の許しも得た。メアリを番にするのに何の障害もない。

おじさんとおばさんだって俺達を見守ってくれているだろ?だから俺はこうしてメアリに会える」


侯爵の許しが無ければこの邸に入る事なんか出来ない。何を言おうと侯爵も認めてくれている。だから『メアリ次第』なんだ。


「ねぇウォル、ウォルの獣の部分って…、やっぱり何でもない」

「俺の獣の部分か…、メアリに嫌われる要素しかないな」

「………嫌わないわよ」

「閉じ込めてもか?」

「え?」

「俺はメアリに俺以外を目に映してほしくない。俺以外の声を聞いてほしくない。俺の愛情だけの中で生活してほしい」

「もし、もしもよ?もし結婚してもおじさまとおばさまと一緒に暮らせないの?」

「俺達は俺達の愛の住処で二人きりで暮らす」

「どうして?私おじさまとおばさまと一緒に暮らせると思ってたわ。それに、私料理なんか出来ないわよ?」

「俺が出来るから心配するな」

「洗濯だって」

「洗濯も掃除も俺が出来る。メアリは何もしなくていい」

「掃除くらいは出来るわよ」

「はあ?メアリの手が汚れるだろ」

「ちょっと?」

「メアリの湯浴みも着替えも俺がする。例えメイドでもメアリに触れるのは俺だけがいい」

「ウォル」

「それに、父上は男だ。侯爵はメアリの父親だから百歩譲って許せるけど、父上は駄目だ。可愛いメアリを見せたくない。父上の目に映るのさえ我慢できない」

「ウォルのお父様じゃない。それに義理のお父様になるのよ?」

「……だから嫌われるって言っただろ?俺の獣の部分はメアリに嫌われるから見せたくない」

「もう…」


メアリの呆れた声に俺は顔を上げられない。

俺を見る目が怖い…



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

処理中です...