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16 ウォル視点
しおりを挟む初めはぎこちなかったメアリが少しずつ心を許してきてるのが分かった。
本音を言えば手を繋ぎたい、抱きしめたい、口付けしたい。それでも距離を取るメアリに無理矢理したい訳じゃない。少しずつ距離を近づけ何度もぶつかる手を握った。
もうこの手を離さない
力任せに握れば小さく折れそうなメアリの手。でもこの手から何度力を貰っただろう。
帰り際いつも思う。離したくないこの手をメアリをこのまま攫っていきたいと。また明日会えると思ってもその明日が来るのがどれ程待ち遠しいか。
今日も今日とてメアリを離せず、最後の指先まで触れていたいと、名残惜しさを残し家に帰る。家に帰りベッドに横になっても思い出すのは可愛いメアリの顔。恥ずかしそうに俯く顔を思い出し自然と笑みがこぼれる。
「あぁ…メアリ……」
静かな部屋に俺の呟く声だけが響く。
距離が無くなれば今度は欲が出る。今日は少し強引にメアリの手を引き寄せ膝の上に座らせた。
「もうびっくりするじゃない」
驚いた顔も可愛い。怒った顔も可愛い。全てが可愛い。全てが愛おしい。
「嫌、か?」
恥ずかしそうに俯けた顔を左右に振った。
俺は後ろから抱きしめメアリの口にお菓子を運ぶ。真っ赤になりながら口を開けるメアリ。
手の甲、額、頬、今日は首筋に口付けした。口付けした首筋を押さえ真っ赤な顔で俺を睨むメアリの目。
「ウォル!」
「可愛いすぎる」
俺はメアリを包み込むように抱きしめる。メアリは俺に体を預けるように俺の胸に頭をつけた。
「メアリの全てが俺にはご褒美だ。怒っても睨んでも何をしても俺にはご褒美なんだ」
メアリは呆れた顔を俺に向けた。
「また俺にご褒美をくれるのか?」
「ふふっ、もう」
俺の頭の中はメアリだけだ。目を瞑れば俺に笑いかけ『ウォル』と呼ぶメアリがいる。そしてメアリと共に眠る。早く同じベッドでメアリを抱きしめて眠りたいと願って。
俺は幸せだ。だからこそそんな毎日が続けば良いと願う。
いつものように王宮へ行けば国王が待つ部屋に行けと言われた。俺の方が先に着いたのか部屋には誰もいなかった。少し待つとメアリが部屋に入ってきた。
「ウォル?どうして?」
「メアリこそ」
「私はお父様に呼ばれて案内された部屋がここだったの」
「侯爵は?」
「後で来るから待っててほしいって言われたわ。ウォルは?」
「俺は国王に呼ばれたんだが…。でもメアリに会えて嬉しい」
メアリの手を引いてソファーに座りメアリを膝の上に座らせた。
「お父様と陛下では違うわ。この格好で大丈夫かしら」
「メアリは何を着ても可愛いから大丈夫だ。俺は国王にでもこんな可愛いメアリを見せたくない。国王がメアリを見初めたらどうする」
「陛下と何歳離れてると思ってるの?それに陛下は王妃様を愛しているし、私はウォルの…」
「俺のメアリだ」
「うん、だからそんな心配しないで」
俺をなだめるようにメアリの手が頬を撫でる。見つめ合い俺もメアリの頬に手を添えた。
コンコン
チッ!良い所で!
メアリは俺の膝から下りてカーテシーをしている。俺は騎士の礼で目線を下に下げた。
扉が開き、俺はメアリの手を握った。視線を上げなくても誰が入って来たかは直ぐに分かる。そして震えるメアリを俺の後ろに隠した。
部屋中にピリピリと張り詰める殺気に俺も殺気を飛ばす。
「止めなさいグルー、それに貴方も。貴方の可愛いお姫様が怖がっているわ」
「どうしてお前が」
俺の魂が叫んでいるのが分かる。メアリの手を握っていない方の拳に力が入る。爪が手のひらに食い込むのが分かる。
大丈夫だ、
俺は惑わされない、
魂の声に耳を貸さない、
メアリの手の温もりを感じる、
俺の背にぴったりとくっついているメアリの存在も分かる、
俺が好きなのは?
愛しているのは?
手放せない相手は?
心の声を聞け!
それは誰だ、
俺の愛おしい人はメアリだけだ!
大丈夫、俺は大丈夫だ。
ふぅと深い息を吐く。
「それで?何の用だ。俺は国王に呼ばれたのであってあんたに呼ばれた訳じゃない」
「ウォル?どうしたの?」
俺は後ろを振り向きメアリを包み込むように抱きしめる。
「大丈夫だ、直ぐにここを出よう。メアリいいか?俺の言う事を聞いてほしい。このままメアリを抱き上げる。俺が良いと言うまで目を閉じていてほしい。良いな?」
「分かったわ。でもそんな事をして失礼に当たらないの?」
「ああ、国王はここに来ない。おじさんもここには来ない。だから大丈夫だ」
「うん…」
メアリの不安そうな声。
一刻も早くここを出たい。ようやくまた近づけてようやく心を許してくれ始めたメアリを、もう二度と離したくない。
目を瞑ったメアリを確認し俺はメアリを抱き上げた。
「待ちなさい」
その声にふらつき、それでも足に力を入れる。抱きしめるメアリの甘い匂いを嗅いで歩き出した。
「ただ話をしたいだけなの」
「俺にはない」
「私も貴方にはないわ。話をしたいのは貴方のお姫様の方よ」
抱きしめる手に力が入った。
「俺が許すと思うか」
「貴方の許しはいらないわ。お姫様が決める事よ」
「ウォル?」
俺を見上げるメアリの目と目が合った。
「大丈夫だ、心配するな、な?」
俺は笑顔で答えた。
「誰なの?ねぇウォル、誰が居るの?」
「直ぐにここを出よう。だからメアリは心配するな」
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